第7話 リビングに集まる天桐家

 一階の物置部屋を片付けてできた空き部屋には、新しい机とベッドが置かれた。


 そのベッドで心地いい寝息を立てて眠っているのは、つい数時間前まで保健室で眠っていた少女、クロエ・クシュール。


 眠り姫を起こさぬよう、静かに部屋の明かりを消して扉を閉めた。




「「「「………………」」」」


 リビングテーブルを囲うようにイスに座ると、空が口火を切った。


「じゃあ……聞かせてもらおーか?」


 そう言って父親である蓮也れんやを見ると、間に入るように秋穂あきほが言った。


「今日から卒業する日まで、ウチで暮らすことになったの」

「それはこの状況を見ればなんとなく察しがつくけど。俺が言いたいのは、どうしてそんな大事なことを黙ってたんだってことだ」


 妹の優莉が事前に知っていたことから、不信感が強まっている。


「お前はいつ知ったんだ?」

「ちょっと前……かな」

「……ちょっと前、か」


 自分だけが仲間外れにされていたことについては少ししゃくだが、怒りの感情は湧かない。なぜなら、


「なんでさっきから引き攣った顔をしてるんだ?」


 普段は目を合わせて話す優莉が、このときばかりは目を逸らしていた。


「そ、そんなことはないでしょ……」

「ほほーん。お前、俺になにか隠してることあるだろ?」

「…………っ」


 そのやり取りをじっと聞いていた蓮也が口を開けた。


「昔、向こうで仕事する機会があったときに知り合った人の娘さんだ」

「……初耳なんだけど?」


 アルティアル王国という聞きなじみのない国の人とどんな仕事をしていたのか気になるところだが。それは今度聞けばいいと判断し、話に耳を傾けると、どうやら今回のホームステイは彼女たっての希望らしい。


 ――別にそれはいい。それは……。


 空が部屋のある廊下の方をじっと見ていると、


「どうしたの?」

「あの……クロエさん? 俺たちとはどこか違う気がしてな」

「? どういうこと?」

「うまく言葉にはできないんだけど。んん~……住む世界が違う、的な」

「それってたぶん、あの人がどこかのお嬢様みたいな雰囲気があったからじゃない?」


 どこか気品のある佇まいから育ちの良さが窺えるが……。


「うぅ~ん……まぁいいか。どこかで話していたんだったら、聞いてなかった俺が悪いし」


 空は席を立つと、三人を見渡す。


「でも、次はちゃんと話してくれよな」


 話を終えて空が出ていくと、優莉がイスの背もたれに力なくもたれかかっている。


「ああぁー……疲れたぁぁぁ……」

「ごめんね、優莉」

「ううん。あたし疲れたらお風呂入って来る」


 そう言って優莉が出て行くと、秋穂の口から「はぁ……」と息がこぼれる。


 蓮也がその肩に手を置いて頷くと、秋穂は小さく微笑んだ。


「――お子様は勘の鋭い方でいらっしゃいますね」


 二人が扉の方を見ると、パジャマ姿のクロエがリビングに入ってきた。


「聞いておられたのですね」

「…………はい」

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