第4話 案内人の空
放課後。
ホームルームが終わり、筆箱やノートなどをカバンの中に放り込む。
「美知留は今日も図書室かー?」
「ん」
発売されたばかりの最新刊がすぐに並ぶほどに、ここの図書室はとても種類が充実している。
美智留は生粋の読書っ子だ。そこで借りて読み、その後自分で買ってまた読むというスタイルを取っている。
「そっかー。じゃあ、
「あぁ……実はこれから委員会があるんだよ」
「委員会……そーだよな……」
――クラス委員だもんな……。
「じゃあな……」
肩を落として歩き出そうとしたとき、立ち塞がるように目の前に立ったのは、
「え」
「今、よろしいですか?」
話題の転校生、クロエ・クシュールだった。
「な、なんでしょうか?」
「実は……校内の案内をお願いしたいのです」
「……俺?」
彼女は真っすぐな目でコクリと頷く。
「…………っ」
周りに目を向けると、教室内の全ての視線が向けられていた。
――み、美知留さん……助けてぇ……っ。
美智瑠に助けを求める視線を送るが、彼女は無言で席を立つと、無言で教室を出て行った。
――そ、そんな……っ!!
それならと後ろに助けを求めようとしたが、洸平は「天道君、また明日」と言って耳元に顔を寄せると、
「…――――ちゃんと案内してあげるんだよ」
と乙女心を鷲掴みにするかのようなイケメンムーブをかまして帰って行った。
耳が痒いったらありゃしない。
「お二人とも帰られましたね。では、よろしくお願いします」
――ええぇ……。
それから、図書室や音楽室など、各階ごとに周っていった。
「………………」
「………………」
横目でチラリと見ると、
「ワタシの顔になにか」
「いや、別に……あははは……っ」
美人を前にすると、どうも平静ではいられないらしい。
――それにしても……。
登校初日で注目の的になっている人と歩けば、様々な視線を向けられる。
あの男は誰だの、どういう関係だの、廊下を進んでいる間に何度そのひそひそ話を聞いたことか。
――どうしてこうなるかなー……っ。
「はぁ……」
無意識に口からため息がこぼれる。
すると、隣を歩く彼女の足が止まった。
「? どうし――」
「もしかして、ご迷惑……でしたか」
「え?」
彼女は落ち込んだように肩を落とす。
「……っ!! いやっ、違う違う! 俺はただ…――――ッ!!?」
彼女の体がグラついた瞬間、反射的に腰に手を回した。
「……っ、だ、大丈夫か?」
「すみません……」
腰から手を離すと、歩き始めたが一歩進んだところでまたグラついたため、慌てて腕を掴む。
「全然大丈夫じゃないだろ……」
周りを見るが、人の姿はない。
――こういうときに限って誰もいないのかよ……。
と心の内で愚痴をこぼしつつ、声をかける。
「案内はここまでにして、保健室に行こう」
「ホケンシツ?」
「体調が悪いときはそこに行くんだ」
「で、でも……」
「こんな状態で続けられるわけがないだろ?」
「そう…ですね……」
華奢な肩に恐る恐る腕を回し、保健室に連れて行こうとしていると、廊下の奥に見知った顔があった。
「あら、天道君じゃない」
「っ!!
養護教諭である彼女がいてくれれば安心だ。
「その子は確か……」
「クロエ……クシュールです……」
「ああぁ~っ、今日転校してきた子ね。私は――」
「先生、自己紹介は後でお願いします」
「それもそうね」
金里が反対側で体を支えると、ゆっくりとした足取りで一階の保健室に向かった。
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