第6話『アフターパーティー』

青空の下に解き放たれたカイたちは、ぎこちないながらも新しい日々を始めていた。


「……なぁ、カイ」

焚き火の前で焼いた芋を齧りながら、仲間の一人が言う。

「自由って、飯がうまいってことかもしれんな」


「いや、それだけじゃないだろ」

カイは笑いながらも、焼き芋を頬張る。

こんな風に誰かと笑い合いながら食事をするだけで、胸が温かくなるのを感じていた。


奴隷の頃は、与えられた粥を黙って飲み下すだけ。

味なんて覚えていない。

それが今では――ほんの一口で涙が出るほどにうまい。



その日の午後、仲間たちは村を作ろうと相談を始めた。

「畑を耕してみるか」

「いや、まずは水だろう」

「豚の仮面……あれ、なんか鍋に使えそうだぞ」


「おい、それはやめとけ!」

カイは慌てて止めるが、笑いが絶えない。

奴隷時代の恐怖も、ブタ野郎の仮面も、こうして少しずつ“道具”や“笑い話”に変わっていくのだ。



夜、焚き火の明かりに照らされながら、カイは空を見上げた。

夢の中で見た草原と同じ星空が広がっている。

隣に座った少女が、小声で聞いてきた。


「ねぇ、カイ。夢って、いつか叶うと思う?」


カイは少し考えてから答えた。

「夢は、叶うかどうかじゃなくて……叶えようと歩くためにあるんだと思う」


少女は不思議そうに首を傾げたが、すぐににっこり笑った。

「じゃあ、わたしも歩くね」



奴隷ではなく、誰かの支配でもなく。

夢を笑って語り合える日々が、ゆるやかに始まっていた。



カイは心の中でそっとつぶやいた。

――あの仮面の男にも、この景色を見せたかったな。


それでも、きっと彼もどこかで笑っている。

そう信じながら、焚き火の火を見つめ続けた。

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奴隷とブタ野郎と夢 パンチでランチ @panchi_de_ranchi

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