第5話『夢の果て』
地上への道は、暗く長い坑道の奥に続いていた。
カイたちは互いに手を取り合い、崩れ落ちる岩や炎をかいくぐりながら進む。
背後からは轟音と、地鳴りのような低い唸り声が迫っていた。
――“夢を喰らう王”。
その声は、耳ではなく心を揺さぶる。
希望を握った瞬間に、牙を剥き、呑み込もうとする存在。
誰もが一歩進むごとに、夢を奪われそうになる恐怖と戦っていた。
だが、カイは歩みを止めなかった。
夢を見たその日から、ずっと胸に灯していた小さな光――
「自由になりたい」という願いが、彼を支えていた。
⸻
坑道の奥で、突如として大地が裂けた。
黒い瘴気が溢れ出し、巨大な影が姿を現す。
王の形は定まらず、獣にも人にも見える。
その瞳だけが、灼けるような赤で奴隷たちを射抜いた。
「逃げろ……!」
背後から響いたのは、仮面の男の声だった。
彼は王の前に立ちはだかり、砕けた鉄の棒を握りしめていた。
カイは叫んだ。
「一緒に行こう! 死ぬな!」
だが男は、もう一度だけ振り返り、仮面の奥から微笑んだように見えた。
「夢を捨てた俺が、夢を守る番だ」
その瞬間、王の咆哮が洞窟を揺らし、炎と闇が渦を巻いた。
男の姿は飲み込まれ、視界から消えた。
⸻
涙をこらえ、カイは仲間を導いた。
手をつなぎ、声を掛け合い、倒れそうな者を支えながら進む。
やがて暗闇の先に、一筋の光が差し込んだ。
「見ろ……!」
眩しいほどの青空。
地上の風が頬を撫で、花の香りが漂う。
誰もが初めて見る自由の景色に、足を止めた。
「これが……夢の果てなのか」
仲間の一人が呟く。
だがカイは首を振った。
「いや……夢の果てじゃない。ここから始まるんだ」
彼は両手を広げ、光に向かって叫んだ。
「俺たちはもう奴隷じゃない! 夢は生きている!」
奴隷たちの瞳に、涙と笑顔が同時に浮かんだ。
誰もが胸に、確かに夢を抱いていた。
そして空の下、彼らは一歩を踏み出した。
それは決して簡単な道ではない。
だが――夢を信じる限り、どんな闇にも飲み込まれはしない。
⸻
その遠く、鉱山の奥深く。
闇に呑まれたはずの男の仮面が、瓦礫の下で静かに光を放っていた。
「夢は、終わらない」
⸻
完
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