第3話『反逆の夜』
処刑の知らせは、冷たい鐘の音とともに訪れた。
鉱山の奥、岩肌に響き渡る金属音。奴隷たちは誰も顔を上げなかった。誰が呼ばれたのか知る必要もない。呼ばれた者は戻らない。それがただの現実だった。
だがその夜、呼ばれた名は――カイだった。
仲間たちは一斉に息を呑んだ。
まだ少年だ。ろくに力もない。それでも夢を見たのなら仕方がない、と皆は悟った。夢を見た者は呪われ、必ず死ぬ。それがこの地の掟だから。
処刑場は鉱山の最深部にあった。
赤黒く濁った水が溜まり、天井からは鉄の杭が突き出している。中央には巨大な石台。その上に縛り付けられれば、二度と光を見ることはできない。
「カイ」
声をかけたのは、あのブタ野郎だった。
他の監督たちと共に仮面をかぶり、鞭を握っている。だがその眼差しは、どこか言葉にならないものを宿していた。
「お前は夢を選んだ」
「……呪いなんだろ?」
カイは強がるように答えた。
「なら、呪われてやるさ」
その瞬間、石台に縛られた鎖が音を立てた。
ギィィィン――。
まるで金属そのものが拒むように震え、鎖が次々と砕け散った。
奴隷たちの目が見開かれる。
カイの全身から、熱い光が立ちのぼっていた。
夢で見た草原の風、湖のきらめき、そのすべてが血の中を駆け巡り、肉体を突き破ろうとしていた。
「な、何だこれは……!」
監督たちが叫び、鞭を振り下ろす。だが、カイは素手で鎖をつかみ、そのまま引きちぎった。
鋼鉄が裂け、火花が飛び散る。
「夢は……俺の力だ!」
カイの叫びに、奴隷たちがざわめいた。
その一瞬の隙を突いて、カイは監督の一人を殴り飛ばした。
仮面が砕け、鉄と血が飛び散る。
それを見た奴隷たちの中に、何かが芽生えた。恐怖ではない。希望だった。
「立て!」
カイの声が響く。
「鎖は壊せる! 俺たちはまだ生きられる!」
次々に奴隷たちが立ち上がり、石を、鎖を、素手で掴んで監督に向かっていく。
血が流れ、火が上がり、鉱山全体が震えた。
その混乱の中、あのブタ野郎は黙ってカイを見ていた。
仮面の奥の瞳が一瞬、わずかに揺れた。
「……やはり夢は呪いだ」
だが、その声は悲しみとも、喜びともつかない響きを帯びていた。
燃え盛る炎の中で、カイは立ち上がる。
奴隷ではなく、夢を見る者として。
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