第2話  会話

行こう!と意気揚々と言ったはいいものの、4ヶ月の旅ともなれば食糧は必要だと気づき一度荷台の中を調べに戻った。


(恥ずい…)


「結構食料とか積んでたんですよね?」


「はい。20人近くいたのでそれなりにあると思います。少なくても私たち2人分ぐらいは」


(とは言ってもさっきまで襲われてたんだし無くなっててもおかしくはないよなー)


 何個かそれっぽい入れ物をみていると、それらしき物が目に飛び込んできた。


「あ!あった!ありました!」


「よかったです!それを入れるカバンも近くにあると思います。非常用にと」


「えーと、これか!」


(よしよし!)


 なんだかワクワクとは違った楽しさを感じはじめていた。本当に旅が始まることを実感してきたからだ。


 高校の時に山ほど見てきたアニメラノベゲームの世界みたいで、というかほぼモデルの地に来ているなんて否定しようとしても楽しい。


(あれ?でも水が一個もないぞ?)


「あのー、水がないんですけど?」


「?水は魔法で出せるので必要ないんです」


「なるほど……」


(魔法か…。あとで聞いてみようかな)


食料をなるべくデカい鞄にいれて他にも何個か必要そうな料理に使いそうなものだったり個人的に必要な鉛筆ぽいものだったりを入れ、荷台をでる。かなりパンパンで現実にあったら絶対に背負えないレベルだっ

た。


「よっと!」


それでもこの体では楽々だった。


「改めて、行きますか」


「……あの、少しだけいいですか」


「?いいですよ」


「食料のことで、少し嫌な予感がして。もしかしたら私以外はもう死んだのかなって」


「!………どうしてそう思うんですか?」


(あのことは、別に言わなくても……)


「いえ、うまく逃げれたと思っていたんですが、あなたが魔物を倒してくれているなら食糧を取りに帰ってくると思うんです。ですが食料がかなりあるということは…」


 死んだ。とは言わなかった。


「……」


(言うべきか言わないべきか。………、)


「もし本当にそうなら、祈りたいんです」


「祈り?」


「はい。自然の中で死んだ人は埋葬できないんです。自然の力になるため。だから祈るんです。女神様に。

ちゃんと自然の力になり、女神様に天国に連れていってもらうために」


「……なんで自然に返すんですか?」


「私たちも生物ですから」


「街で死んだ時はどうするんですか?」


「その時は教会で焼いてもらうんです。そしてそのまま女神様が天国に連れていってくれんです」


(……いまいちわかんないな、正直。ただ、それが決まりなら祈るべきなのか。たぶん死んだ人たちもそれを望んでるだろうし。嘘をつく必要も、もうないし)


「わかりました。そうです、あなた以外はたぶん全員死んでました」


「そうですか…」


「はい」


(……………)


この子を見ることができなかった。


「あの、方向を教えてくれませんか?」


「えっとあそ、…あなたから少しだけ左に顔を向けた方向です」


「ありがとうございます」


そう言って彼女は両手を握り空を見上げた。


(これが祈りか……)


見よう見真似で自分でもしてみることにした。


(………俺も一度は死んだんだったんだよな…。さっき。俺の時はこんなふうに思ってくれた人は…いないだろうな…)


 ハルは祈りが終わると顔を下げて手を解いた。


「ありがとうございます。終わりました」


「はい。…なら行きましょうか」


「はい」


 少ししんみりとした雰囲気が無理やりくっついてついてきながらも歩いていた。


 ハルにとっても悲しいことではあったが、特段珍しいことではないらしく、意外と普通だ。


 だがもう一人は違った。


 自分の死と今見た死を比べてしまった。ハルと死んだ人達がどういった関係だったかなんてわからない、でも少なくても天国に行ってほしいって思うぐらいの関係ではあったのだろう。


 それに対し、誰も名前をしらず、生きた証もない、

普通のごくごく一般の変わり映えしない無価値の人生を思った人はいないだろう。


(この人たちを覚えてる人は、いるんだろうな)


「………」


「あの、どういった関係だったんですか?」


(なに聞いてんだ俺)


「関係?そうですね。難しいです、いざ聞かれるとみると」


「いやすみません全然答えたくなかったらそもそも特に意味のない質問でしたすみません」


「??」


 早口すぎる!!


「とりあえずなんでもないです」


「はあ?」


(やっばい!めちゃくちゃ引いてる!今のは確かに俺が悪かった!よし話すのやめよう!)


 では反省会をここに開催します!


(今のは俺が悪い。うん。この子はあんなゴミどもとは違うんだから。たぶん、まだというか、まったく知らないけど……、そうだよ忘れてた、俺が話したとしてもどうせ上手くいかないだしうん。もう話さないでおこう…、うん。相手が俺についてこれないんだし。

期待するだけ無駄だ)


「……………」

「……………」


 無言!


 無言になってから2人の間にはこれっぽっちの会話となく、ただ時間が決まった動きで進んでいくだけだった。


(気まずい…、やっぱなんか話した方がいいのか、けどあっちから話しかけてこないってことは話したくはないってことだろうし。それに期待するだけ無駄だし。でもこの子はあんなゴミどもとは違うかもだし)


 とこんな自問自答を延々と一人で繰り返していた。そんなことに気がつくわけもなくハルは無言なんて気にしていなかったように話しかけてきた。


「あのー」


「はい!」


「そろそろ日が暮れるのでどこかでキャンプを作りましょう」


「キャンプ?ってつまり寝るところですか?」


「はい。ここの森は魔物が多いので」


(夜になると魔物が活発になるとかかな)


「けどそれこそ危なくないですか?止まっておくのは」


「だから結界を張るんです。動くことはできませんが魔物でも入ってくることはできません」


(なるほど。こんな疑問すでに解決してるのか)


「どんなふうな場所がいいとかってあるんですか」


「なるべく視界が明るいところがいいです。魔物が結界の外で待ち伏せていたら見えませんから。あとこの道は外れてください。魔物がこの道に湧くと大変ですから。ですが離れすぎるのはよくないです」


(かなり条件が多いな…)


「わかりました。探してみます」


(道から遠からず近すぎず、視界が明るいところか、)


 少し道を外れて森の中に入るが森といっても少し歩くと川が見えてくるぐらいで、それこそジャングルのようなそこらじゅう木!草!葉っぱ!なとこではない


「やっぱあったな」


 最初の高台から見えてたため良さそうな所の目星は付いていた。


「よかったです」


「近くが川なんですが、問題ないですか?」


「大丈夫です。なら結界をお願いします」


「え?」


「?、!、すみません。もしかして魔法も?」


「……すみません」


「いえ!気づかなかった私が悪いんです。確かにさっきも水のこと言ってましたし!記憶喪失のことも言ってましたね。すいません!。そうですねー、それじゃあ私が今から言うように書いてくれませんか?私の荷物の中に書くものがあるはずです」


はい、と言い慌てながら荷物の中を確認してみることにした。何か反省しなければならないが、そんなこと考える暇もなかった。


「ありました。これでいいですよね?」


 手に持っていた物をハルの手にそっと当てて渡すと、はいとハルは短く答え、では、と着々と作業を進めていった。


「まずは円を開いてください。だいたい荷物をおいて寝ることのできるぐらい」


 下は草むらだったが本当にかけるのだろうか?そんな疑問がまだ出てこようとしている。


(これ映るのか!)


 半信半疑と好奇心でさっそく意気揚々と地面に筆をおいた。すると筆先から描かれる線は本当に宙に浮かんでていたのだ。


「すごい」


 生前は絵を描いてきたため、この奇妙な筆に簡単に魅了された。魅了されたまま夢中になって円を書いて行く。少々膝が痛くなる書き方だがしかたない。絵を描く時にそんなことは関係のないことだった。

集中の邪魔だ。


「書けました」


「ありがとうございます。それでは結界をはります。

円の中に入ってください」


「入りました」


「では。…守りよ」


 そう一言ハルが言うと地面に書いた円からだんだんと結界らしきものが下から伸びてきた。しまいに360度をおおい隠し、自分たちを外と内とで境界を作ってくれた。


「できました」


(やっぱ魔法すげー!これだよこれ!これこそが異世界だよ!俺も早くやりてー!火とか雷とか!)


 改めて見た魔法は慣れることなく軽く感動を覚えさせてくれた。それもそのはずで、全てのオタク男子の夢が文字通り広がっていった瞬間だった。


「魔法ってそんな一言だけでいけるんですか?」


 そんな簡単にできるなら自分もすぐにできるだろうという期待に満ちた声だ。


「はい。むしろ私は苦手なので、普通の人たちでも水、火、風、なら何も言わずに出せる人はそこそこにいます」


「マジでですか?!」

「マジでです」


「もちろん最初はみんな口に出してからじゃないとできません」


(なら!なら!俺にも魔法が!)


「あの!教えてくれませんか!魔法」

「私でよければ」


「ならまずは、簡単な水からですね」


「はい!」


「水よ、と言って手から水が出るイメージをするんです」


「水よ!」


 ブツンッ!!!!


 瞬間視界が全く知らない別のところにいった。知らない記憶が流れ星のように流れて、すぐに消えてどこかに消えていく。

 

 誰かと誰かが話していたり、戦っていたり、魔法を使っていたり暗いところをヨロヨロと歩いていたり。


 途切れ途切れで理解なんてできない。ただ、わかるのはこの体の価値だけだった。そしてもう一つ。一言だけわかったのだ、いや覚えられた。


「英雄…」


 ポツリと口から自然と出た言葉、英雄。そう誰かに言われていた。それ以外は何もわからなかった。


「あの?どうかしたんですか?」

「え?」

 

 手をかざしたままボケッとバカな顔を晒していた。

ハルは焦点は当然あってはいないが馬鹿のほうに心配そうな顔を向けてくれていた。そして馬鹿にも優しい子は誰にでも優しくて可愛いだろう。


「数分間何も言わなかったので」


「数分?…」


(今のは、この体の記憶だよな…。考えてなかったけど、この体の持ち主はどこに行ったんだ。俺と入れ替わりで…。それとも俺と同じで死んだのか…)


 楽しく川で遊んでいるとグッ!と川の深さに足を取られるように急に現実に引き戻された。現実に戻ると途端に疑問と若干の恐怖感を覚えていた。


(それに魔法も結局でてないし)


(英雄なら使えてもいいと思うけどな…、それとも中身の問題なのか…、いやそれはないな)


「あの、魔法はいいんですか?」


「あ!いえあはは」


「よければもうちょっとだけやってみたいです」


「なら次は炎の魔法にしますか。寝る時に必要ですから。夜は冷えますので」


「位置を教えてください。炎をつけます」


「すみません木とかまだ準備してないので、今からとってきますね」


「木?大丈夫ですよ。なにもいりません」

(?、)


「…なるほど、えっとじゃあそのまま手を翳して少しだけ先でお願いします」


 色々と起きていて、焚き火の材料がいらないことにもすぐに納得できた。現実は現実としてすぐに受け止めるのが大切だと思う。


「炎よ」


 野球ボールぐらいの炎が流れるように下に落ちていった。線香花火のようで、それはそれは綺麗だった。そのため、なおさらなぜ自分が魔法を使えないかで頭がいっぱいになっていった。


魔法魔法魔法魔法。


「………」


「できましたか?」


「はいすごいちょうどいいです」


「コツはイメージするんです。口にしたその時にそのものを。そうすればだんだんとできるようになります」


「イメージ……」


 少し落ち込んだ様子でつぶやいたが、諦めずにもう一度手をかざしていった。


「炎よ」


(イメージイメージ、炎の。イメージ)


 精一杯目を瞑り手も伸ばし力を入れる。さっき見た炎をそのまま再現してイメージした。だが目を開き、できているか確かめてはみるが、できてはいなかった。はぁーとため息が出てしまう。


「でなかったんですね…。けどはじめは誰でもそうです。子供も大人達の見本を見て、それをイメージしてできるようになって行くんですから大丈夫ですよ」


(見たものをイメージしたんだけどな……、それに得意なんだけどなイメージするのは。…見たもの?)


 ハッと気づいたようにしては、ゆっくりとハルの方に視線を向けていく。なぜなら、そう、ハルは目が見えないのだ。なのになぜイメージできるのか。


(なんで…目は見えないのに。まさか嘘なのか?……、けどなんで俺に嘘を?理由は?、同情を誘って俺を使うためか?この森は魔物が多いって言ってたし、たとえ目が見えていたとしても一人では無理だろうし。ならやっぱり…)


 また色々と考えてしまう。仕方のないことだ、なぜならこれは癖だったのだ。もう騙されないために、都合よく使われないための。


「それに疲れてるんですよ。数時間歩きっぱなしで」


 考え方事をしていると、もう一度マイワールドに行っていたが、疲れを指摘されると現世に戻ってきて、気が付かなかった疲れを実感してきた。


(言われたら疲れがでてくるな、ねむい。何より気遣われてるのが正直キツイ。どうせめんどくさいとか思ってるだろうし)


 実際めんどくさい。


「確かにそうかもです。ではもう寝ますか?」


「はい、それがいいと思います」


 思い通りにいかなく内心苛立ちが生まれていて早く寝たくなっていた。ハルは車椅子を軽く倒して寝る体制に入った。自分はあらかじめ結界の位置を決める時に木のそばを選んでおりそこにもたれかかって寝ることにした。

 

 まだ目はつぶらずボーッとしていると、川の穏やかな流れの音や生き物の鳴き声が遠くから聞こえたり、なんだか落ち着く環境だった。

 

 結界に守られているというのもあるが。そんな状態だからか、寝るためにゆっくりと呼吸していく内に、自分の内心での苛立ちが消えていた。


 するとそれを待っていたかのように眠気が急に襲ってきた。こうなれば寝るほかないだろう。


(今日は色々と忙しい日だった。死んだと思ったら異世界にきて、最強かと思ったら魔法は使えなくて、目の見えない子と旅をすることになって……)


 それでも無意識にまた反省会をしていた。視線だけをハルのほうに向けて、色々と想像してしまう。目の見えない、足も動かせない、そんな女の子。


(さっきはちょっとイライラしたけど…)


(なんか途中、普通に話せてたな……、業務的なことでだけだったけどこんなに話したの久々だ。けどこれもやっぱり自分が助かるために話してるだけなんだろうな)


(また利用されてるのに、なんで……)


 ウトウトしてきて意識が薄れていく。こんな状態で考えがまとまるわけがなかった。


(なんで俺は……一緒に、いるんだ…、)


 記憶も意識も定まらない。


(期待なんか、しない…)


 それが最後で眠りについた。こいつはまだ怖かったのだ。認めてしまうと、わかったら最後、自分が傷つくからだ。


  普通の人なら誰でもそうだろ?






 主人公が異世界にきて数分の後のことだった。空を飛んでいる宮殿に恐怖と焦りと絶望の混ざった声が響いていた。


「なんだと!?」

 

 ゴツい体つきにゴツい鎧を着ていていかにもボスといった身だしなみをした男が片目を手で押さえながら驚きを隠す気などないぐらい叫んでいた。


「なぜだ!なぜ生きているんだ!!」

 その男は世界全てを監視することのできる千里眼を持っていた。


 なぜそれを今使ったのか?そんなの自分の勘を信じている以外にあるわけがない。


 神を殺すための準備をしてきたこの3ヶ月、奴が死んだ3ヶ月、なにもかもが順調だった。


 そんな時だからこそなにか嫌な勘が働いた。


 最悪の想定をして、代償が軽く、一度マーキングしたものを見ることのできる千里眼で英雄の位置を見たのだ。


「確かに死んだはずだ!」


「グロス様どうしたんですか宮殿中に響いていましたが。まさか死んだはずとは?」


 魔女のような見た目をしている家来が焦った顔で聞いてくる。名はゼリーヌ。


「ああそうだ!英雄!シバンが生き返った!」


 現実を頑張って噛み締めて、口から出せるようにしてようやく言葉が出た。


「なぜですか!?確かにやつは予経のとおり3ヶ月まえに死んだはずでは?」


「知らんわ!!」


 ドォン!!と拳を振り上げた。


 その振動で魔女は一度焦りながらも思考を回した。この魔女はここの頭脳、指揮官だったのだ。


「もう一度千里眼で見てみてくださいグロス様何かがあるはずです!いくら奴でも生き返ったことをなんのリスクもなしでは無理なはずです」


 そうしてなんとか一つの案を出した。それを聞きすぐさまもう一度千里眼を試してみる。すると絶望と焦りが浮かび上がっていた表情は少しだけ希望がでてきた。


 暗闇に火の粉ほどの光が入ったみたいなやつだ。


「記憶が…ないのかもしれない」


「!なら今すぐに殺すべきです!グロス様」


 即答だった。


「当然だ!我が直接殺しにいく!」


 すぐさま行動に移そうとし、近くに置いてある大剣を手に持った。希望は見えたが、すぐに殺さなければ記憶が戻るかもしれないからだ。


「待ってください!グロス様には神殺しがあります、これは一刻の猶予もありません!来たる月が重なる瞬間はもう一ヶ月です。それに仮にやつの記憶消失が嘘で罠だったとしたら?グロス様を待ち伏せしているのかも」


「うそ!?なぜそんな嘘をつく必要がある?

やつなら今にでも我を殺すことができるのだぞ!」


「それが生き返ったリスクかもしれないです。前ほどの力がなくなっているのかも」


「可能性の話をしたらキリがないわ!たわけ!」


魔女を振り切り、行こうとするが魔女はそれでもと言った。絶対に行かせない、長年をかけて作った硬い意志で道を塞ぐ。


「だからこそ、別のものを行かせるべきです。少しでも可能性を潰すために。グロス様には神殺しがあるんです!」


「……!」


奥歯を噛み締める。迷っていたのだ。


(仮にやつが記憶があるならば今にでも戦場に戻り、殺しに来るだろう。力が弱くなったところで奴はこの世界で最強だ。我を待ち伏せるのもわかる。我が見ていることさえもわかっておるのか?!……たしかにここは様子を)


「グロス様!」


「わかっておる!!ゼノスを呼べ!奴に行かせる!」


「はっ!」


 魔女はすぐにゼノスというものをよんだ。この世界一の風の魔法を使うもの。


 敵地の上空をリスクなしで通ることのできるものはゼノスというものだけだった。


魔女を指揮官たらしめる魔法、通信魔法てきなもので呼び出した。名は結び。


「グロス様!ただ今参上しました」


「ゼノス!今からサーリア大森林に行け!その他のことはすべて無視をしてよい!貴様といえど、敵陣の中では負けてしまう!一直線に英雄シバンを殺しにいけ!」


「!?シバン!!奴は死んだはずでは?!」


「生き返っておるのだ!、だがしかし記憶か力かを、失っているかもしれぬのだ!」


「なんと!」


「貴様に命ずる、シバンの元にいき、奴が記憶を失っておるのなら殺せ!」


「はっ!!」


 ゼノスは答えるとすでにそこにはいなかった。自分が出せる最高速で向かいに行ったのだ。


「ゼノスがなにかアクションを起こせばわかってくるはずだ、シバンの謎が」


「グロス様は千里眼で?」


「むろんだ。この目で確かめる他ない」


「20年間だ、奴の死ぬ未来を見てから我々が表にでてくるまで。ようやく神殺しができるのだ。やつだけはッ!」


 この男は最強だった。シバンが死んでからの世界では。その最強の男は恐れていた。


予経をつかい、奴の死を知ってからのこの長い長い20年間が無駄になることを。




 ゼノスは飛んでいた。遥か遠くにある、目的地に行くために。

 

 風魔法を全開で使っていた。途中誰かから攻撃をされたがそんなものはハエぐらいにしか思っていなかった。


「ゼノスだ!ゼノスがくるぞ!」


 敵陣の真上を通り過ぎるたびにその掛け声と共に攻撃が降ってくる。が、そのたびに数秒で破壊していった。あるものは雷で焦がし、あるものは竜巻で全身の骨をズタズタにした。


 誰も相手にならなかった。


 数時間の飛行ののちようやくその姿が見えた。


「シバン…!」


 そこでは、ちょうど結界を張り始めたころの二人がいた。あまり近づきすぎないように、一度高い山に降りた。


「グロス様、見つけました」


「よし、そのまましばらく観察しておけ」


「はっ!」


 短くも要点だけ伝えた通信が終わり、ゼノスはじっと目を凝らし数キロ先から見ていた。そして二人が眠りにつくとまずは一つ、気がついた。


(警戒していない…、誘っているのか)


 英雄シバンならありえないことだった。


(それとも警戒していないように見せているか?)


「グロス様、見えておりますか?」


「ああ、あまりにも隙だらけだな」


「よしゼノス、夜明けと共に奴が結界を解いたその時、魔物を一体向かわせよ」


「ゼリーヌは明日からクバール戦に向かい結びは使えぬ。魔物との接触の後、判断は貴様に委ねる」


「はっ!」


 通信は途絶えた。





「ふぁーー」


 でかいあくびと共に呑気に目を覚ました。襲われるかもしれないっていうのに。


やはり、知らないことは怖くない。中途半端に知ると怖いけど。


「おはようございます」


 まだ寝ぼけていた脳がその一言でビンビンに目を覚ました。


「あ、はい。おはようございます」


(そっか、そうだった。異世界だったな)


 一度、夜を過ごして改めてその事実を認識する。目の前を見るとすでに火は消えており、代わりに日が昇っていた。


「いい朝ですね」


「………」


 昨日の記憶がまだ頭に残っていた。

 

 なんで自分はこの子と一緒に旅をするのか。


「ではご飯用意しますね」


 ハルはいつものことのように自然と料理を始めた。違和感がすごかった。ハルはそのまま手で探るように食料の入った鞄を探し始めた。


 目の見えない、自分より年下の女の子の、そんな姿は流石に心に響いた。罪悪感!


「え!?いやいいですよ!それくらい僕がやりますよ!刃物とか火とか危ないですし!」


 あまりにもすぐにするものだから頭の中のしょうもない考えは吹き飛んでいった。


「いえ!私はこの通り何もできないのでご飯ぐらいはします!せめてでもお礼です!」


(なんか目のことは触れづらいし言い返せない!)


「いいから!僕がやりますから」

「いえ!私が!」

「僕が!」


 ワーワーキャーキャー。


 なんだか軽い言い合いになっていた。


「私料理得意です!」

「俺も得意ですよ」

「そうなんですか?けれど私の方が得意です!」

「張り合わなくていいですよ!」


 口調もだんだんと素のような声音になっており、ハルもそれに応えるように負けじといえいえと言い返した。今までの2人の雰囲気とは打って変わっていた。


「わかりました!なら2人でしませんか?」ふんす


「わかりました!そうしましょう」


  2人は鞄の中のものを簡単にハルの炎で炙ったり、簡単な調味料でつけたりした。


「これってなんですか?このー」


 だが当然何も知らなかったこいつは足手纏い気味だった。


「それはですねーーー」


 そんな奴でもハルは優しく教えた。ハルが何を考えているのか、自分が都合よく使われているだけなのか、そんなことはもう頭になかった。


ただただはじめてこんなに楽しく人と話しているこの状況が楽しい、と思っていた。


「あれ?これは肉?うまそうですね」

「?えっとですね、」


 ハルは手を伸ばし触って何かを調べた。すると、あははと年相応の笑みを浮かべた


「え?え?なにか違ってました?」


「はい。これ肉じゃなくてたぶんーー」


たぶんの後に続く言葉を聞いた途端、

声が変な出かたをした。えぇ、と言ったつもりだが、たぶんハルには違うように聞こえただろう。あまりにもショックすぎた。


「なんですか今の声」


ハルはその声を聞きツボに入ってしまっていた。その姿を見ると嫌な気持ちなんて頭の隅にもでなかった。

声音も全然嫌な感じじゃなかった。


「う、早く作りましょうよ!」


「すいません。そうですね、うふっ」


「笑わないでくださいよ!」


 言葉の意味とは裏腹に全然怒ってはいなかった。恥ずかしそうにしていた。


 笑われた、それは今まで馬鹿にされてきたことだった。最悪の気分だった。


 なのに、今はすごく楽しい。本人はまだ気づいていないが。


 二人で作った朝食は今まで食べた朝食の中でも特に美味しいと言った表情をした。


「美味しいですね!」

「はい!」


 素直に自然と、かつて、どこかにあったように、出た言葉だった。






「そろそろか、」


 ゼノスは覚悟を決めたかのように自分愛用の槍を手に持った。魔物は送ったその時に殴られ、負けた。


 だが収穫はあった。


「行くぞ、我はゼノスだ!」


 未だ謎の多い生き返った英雄に立ち向かい行く。

すると空は曇りはじめ、雷が鳴り響いた。

この空と音の色がゼノスの証だ。



 ハルを結界の中に入れていたため、結界に戻ろうとしていた。


「え?」


その口から漏れた言葉と共に吹き飛ばされた。

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