八章


 8月があっという間に終わろうとしている。8月は終わっても、大学の夏休みはまだ終わらない。大学の夏休みは長い。

 夏休みというものを、何度無駄に部屋で過ごしてきたかわからない。

 おれは自分の部屋をもらってから、毎日、朝になれば部屋に日が差し、夜になれば窓の日が消えるのを見、部屋の電気を付けたり消したりした。おれはこの部屋で数多の夜を越えた。

 一人っきりで。

 だが、あの日アウラが現れてから、おれの隣にはずっとアウラがいた。それがどれだけ、おれを勇気づけただろう。

 アウラが見えてから、部屋の片隅にある、ずっと放置していた貰い物のテレビを見ることが増えた。リビングのテレビをよく見ていた子どもの頃より、内容がずっとつまらなくなったと思った。

 俗物的なニュースが多かった。

 今年の夏はひたすら暑いとキャスターが言い、交差点の信号待ちで、汗を拭いたり日傘をさす人が画面に映されていた。「大変だね」とアウラが言った。昼間のニュースで、東京の抹茶専門店が特集されていても、おれたちには関係ないと思った。

「原宿だって。原宿ってどんなところ?」

「二十歳の女子大生がプリキュアみたいな格好してても、何とも思われないようなところかなあ」

「プリキュア?」

「プリキュアってアニメがあって、フリフリの服着た女の子が、魔法で戦うの」

 アウラはふーんと言って、テレビを興味深げに見ていた。アウラはプリキュアも原宿も知らないらしい。アウラは人間でないからか、現実の知識が不足していることがあった。

 若い女性が列をなしている。手持ち扇風機を持った女性が、汗を拭いているのをカメラが映していた。

「一時間も並んで、900円の抹茶飲んで、1000円の小っちゃいケーキ食って、時間と金がもったいないと思わないのかな」

 おれは皮肉めかして言った。

 そして、おれたちはたくさんの映画を見た。机に積まれた本にタブレットを立てかけ、親が契約しているサブスクで映画をあさった。一人で見るとつまらない映画も、アウラと見ると面白かった。サブスクにある知らない映画を何でも見た。

 暗めの日本映画独特の、やけに色がくすんだ食卓で、母親がヒステリックに子どもを叱る場面で、アウラは「最悪だね」と渋いものを噛んだ顔をしたのがちょっと面白くて、笑った。

 ホラー映画では、殺人鬼や霊が役者を追い詰めるところを、おれたちはなぜかスポーツのように応援しながら見ていた。

 ある時は、アクション映画のスタントのありえなさに笑いあった。

 画面の中の人たちは、ヘリから飛び降りたり、ダイナーで朝飯を頼んだり、塹壕に滑り込んだりし、おれ達は彼らの動きにいちいち反応し、コメントを出さずにはいられないのだった。

 外のやつらがせっせと働く日中はこんな生活である。そして、外が静かになった夜、アウラは何度かおれの頭を撫でた。

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