三章
まず、普通の女の子はおれのことを好きにならないと思う。
おれは根が暗く、性格が悪く、見た目も悪いからだ。
おれのことを好きになるのは、天使のような、ファンタジーな存在しかいないだろう。だからおれは、タルパの設定を天使ということにした。おれは宗教的な知識がないので、本当の天使ではなく、ただ天使の格好をした女の子だが。
性格は明るく、おれにやさしくしてくれる。目にかかる長さの銀色のショートヘアーで、腰の部分がきゅっと閉まったミニスカートのワンピースを着ている。背中には大きな白い翼があり、ふわふわと浮いている。これがおれの理想だ。おれは、このタルパを「アウラ」と名付けた。
タルパ作りを始めてから一週間経った。タルパと会話する訓練は毎日の習慣になっていた。今日もおれは、夕飯を食った後、缶酎ハイを飲みながら、頭の中のタルパと会話をした。
タルパと話をするのは難しい。部屋で一人で「やあ」とか言っているのは、傍から見ればおかしいだろう。この訓練を行う時はちょっと恥ずかしい気持ちになる。だから酒を入れなければいけない。
「アウラは好きなお酒あるの?」
「うーん、わたしあんまり飲まないからなあ」
今はまだ、アウラが自動的に動いたり、話したりできるという感じはしないが、おれが質問をしたとき、すっと頭の中に答えが浮かんでくるという感じがしている。
「最近結構お酒飲んでるけど、大丈夫?」
おれはぎくりとした。
「大丈夫だよ。毎日は飲んでないし。2日に1回くらい?度数もあんまり高くないし」
二十歳になってから酒を飲むぐらいしか生活の楽しみが無く、バイト帰りにスーパーで缶酎ハイを買って飲む習慣ができ、バイトが入って無い日は昼から飲むときもしばしばある。だから、おれはついこう言ってしまった。
「お酒飲むくらいしか楽しみが無くてさあ」
すると、アウラの声が頭の中に入ってきた。
「私と話すのは楽しくないの?」
おれはさっきの言葉を取り消すように、とっさに返した。
「楽しいよ!」
その時、おれは本当に楽しいという感情が生まれていたのを感じた。陰気であまり人間と交流せず、飲酒以外ではあまり楽しい気持ちにならないおれが。
これはいけると思った。
おれには大切な人が必要だ。そして、おれのことをちゃんと見てくれて、精神的に支えてくれる人が必要だ。おれはどうしようもない人間で、おれを支えてくれる他者がいなければ,独りで腐っていくのだ。
だから、おれの人生を変えるには、アウラが必要だ。
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