師匠の教え

 茶を飲んだ後に、前に教えられた様にその茶碗を見つめていた清延。


 師匠がその姿を見てゆっくりと話し始めた。


「清延殿、この様な発句をご存知かな」

「え……」

「実るほど首を垂れる稲穂かな」

「……」

「連歌の中の発句ですが、この後に続くのに、どの様な言葉が正しいと思われますか?」

「何かの教えでしょうか、さもなくば……」

「そうですね、戒めともとれますね」

「確かに、上に行くほど頭を下げる事はしません」

「そこなのですが」

「はい」

「逆にいつも、へこへこ頭を下げてる人をどう思いますか?」

「はぁ……私は嫌いです」

 師匠が柱に掛かる花籠を指して言う

「清延殿、あの花をどう見ますか?」


 その花は一本の水仙の花であった。


「ふうむ……凛としてとても美しい」

「人は感じ方で変わるのです、あの水仙は首を垂れたら美しさは無くなります」

「確かに……」

「大事なのは常に志を持ち、あの花の様に凛として生きる事……ではないかと」

「はぁーそうですね」

「奢っていてもいけませんが、凛とした気持ちが無い人は、たとえ首を垂れても人から見放されてしまいます」

「はい……」


  師匠の教えは、自分の身の回りの事柄からもよく理解出来た。

 商売をしてから実感してきたものだ。


 手をこまねいて擦り寄ってくる人々は、大嫌いであった。

 自分だけではなく、師匠もそれを教えて下さったのが嬉しかった。

 その発句に続く文字はきっとその様な事が続くと思った。


 凛として生きよう……心より思う。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

清吉の茶碗 貴船 汐音 @kifune_sion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る