第1話
高校生になって2週間が経った。教室の窓から見える校庭には、桜の木が立ち並んでいるが、花びらはほとんど地面に落ちていて、春の気配は既にどこか遠くへ流されている気がした。
「野中さんのLINEゲットしました!」
昼休み、教室で弁当を食べている時に本郷蓮は俺たちにそう報告した。
「なんと!?やはり本郷殿はやり手ですなあ。これがイケメンという才能か、恐れ入った」
本郷蓮、顔立ちが整っていて身長も高く、コミュニケーション能力にも長けている。ワックスで固められた髪の毛は、毛先が四方八方にはねている。ちなみに中学の頃、親の仕事の都合で一年間、アメリカの学校に通っていたらしい。
そしてクラスメイトを「殿」付けで呼ぶこいつは細川翔太。本郷よりは低いが、平均的な男子高校一年生の中では背が高い。角刈り頭をしており、紺色の丸縁眼鏡を着用して、キツネのように目が細い。アニメと歴史(特に三国志)が大好きな、いわゆるヲタクという存在。
「すごいよ本郷君!まだ入学して2週間ぐらいなのに、もう3人の女子のLINEを手に入れてるなんて!」
彼の名前は浜中進。細川と同じ、いわゆるヲタクという属性持ち。身長は低いが体は横に大きく、こういうのをぽっちゃり体系と世間では言うらしい。おかっぱ頭も特徴的だ。
あることをきっかけに、俺たち4人は仲良くなり、行動を共にしている。それなりに居心地が良く、アリストテレスの「人間はポリス的動物である」という言葉が脳裏をよぎった。
「入学早々、何でそんなにも女子を乱れ撃ちしているんだ?」
純粋な疑問を本郷にぶつけてみた。
「何でって、そりゃあ高校生活といえば彼女だろ。彼女を作って薔薇色の青春を過ごしたいじゃないか。より多くの女子と連絡先を交換しておけば、彼女ができる確率は爆発的に上がるってわけよ」
声高らかにそう発言する本郷の目は輝いており、瞳の中にはまるで星が刻まれているようだった。俺の考えだと、本郷レベルの顔立ちを持っていれば、女子の方から交際を申し込んでくる気もするが、意外とこいつは自分に自信がないのか?
「本郷殿、もし彼女ができた際には、俺に何人か女子を紹介してくれないか」
「本郷君、俺も紹介して。誰でもいいから!」
「任せておけよ!全員彼女を作って、人生盛り上げようぜ!」
「薔薇色の高校生活、いざ開幕!」
「ありがとう本郷君、やっぱり本郷君は顔も良くて性格も良いね」
三人が和気あいあいとしている中、俺は彼等を冷めた目で眺めていた。
そんな俺の視線に気づいたのか、本郷がニヤニヤしながらこちらに向かって、
「おい、裕介、何興味ないって顔してるんだよ。お前も彼女が欲しいんだろ?安心しろ、俺が女子を何人か紹介してやるからさ」
正直彼女が欲しいという感情が1ミリも俺にはなかった。もちろん女子が嫌いだとか、男子に興味があるだとか、そういう訳ではない。純粋に、彼女を作るという行為に意味を見出せないのだ。彼女がいなくても高校生活は楽しく過ごせるはずだからな。
「何だ、カッコつけているつもりか?そういう考えは逆に恥ずかしいからやめておけって。許されるのは小学生くらいまでだぞ」
本郷は相変わらずニヤニヤした顔で俺の方を見ている。余計なお世話だ、別にお前に許してもらいたいなんて思っていないさ。ただ、このままでは何を言っても煽られ続けてめんどくさい。さっさとこの会話を終わらせよう。
本当に、深く何も考えていなかった。「今日の星座占いは一位だった」ぐらいの軽い気持ちで俺はこう発言した。
「彼女なんてすぐに作れるさ。まあ、校庭にある桜の木の花が完全に朽ちるまでには、俺の彼女をお前に紹介するよ」
本郷だけではなく、他の2人もきょとんとした顔になった。
ほんの数秒、辺りに沈黙が訪れたが、すぐに本郷が意識を取り戻したかのように相変わらずのニヤニヤ顔でこう言ってきた。
「言うじゃないか、期限付きとは面白い。まあ、期待せずに気長に待っておくよ」
校庭の桜の木を見ると、ちょうど1枚の花びらが枝から離れ、ひらひらとゆらいだ後、地面に落ちるのが目に入った。
桜の木は先程よりもより一層、寂しさを漂わせていた。
……あまり時間がないな。
桜の木に付いている花びらが、まるで砂時計の砂のように見えた──。
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