第2話
主観的に見ても客観的に見ても、俺は本郷と違って世間で言われる「イケメンという顔立ちをしていない。学力も運動能力も並みであると自覚しているし、何か秀でた特技や才能があるわけでもない。
そんな普通の男子高校生がすぐに彼女を作る方法を考えてみたが、良いアイディアは中々思いつかない。
学校が終わり、部活動に入っていない俺は一直線に帰宅し、現在は自室のベットに寝ころびながら、今日の昼休みのことについて考えていた。
ふと自分のスマホを操作し、LINEの連絡先一覧を見てみたが、もちろん女子生徒の名前なんて一人もそこには表示されていない。
「本郷は三人の女子、いや、中学時代も合わせるともっと多くの女子生徒の名前が表示されているんだろうなあ」
改めて断っておくが、別に羨ましいという感情は一切ない。
ただ、彼女を作るには、確かに連絡の取れる女子は多いに越したことはない。本郷が入学して即座に実施している、女子にLINEを聞きまくる乱れ撃ち作戦が少しだけ魅力的なものに思えてきた。
「乱れ撃ち・・・」
夢から覚めたような感覚にあい、はっとした。
ひらめき、というのは突然やってきたり、何か些細な事がきっかけで訪れる。
「これは・・・いける」
俺はひらめいたアイデアを実行するために、財布を握りしめ、勢いよく部屋の扉を開けた。
俺が通う県立富北高等学校は、8時30分までに教室へ入ることができれば原則として遅刻扱いにならない。
生徒玄関は7時には開いているが、どんなに登校が早い生徒でも、7時30分にならないと富北の敷地には足を踏み入れないことを俺は知っていた。
人によっては信じられない話かもしれないが、富北高校は原則、朝の部活動が禁止されている。数年前までは、野球部やサッカー部を中心に、朝の部活動は行われていたらしいが教員の働き方改革がうたわれる世の中の流れに乗り、廃止になったそうだ。
教員にとっては有難いことかもしれないが、生徒にとってはどうなのだろう?
帰宅部の俺には関係のない話だが、部活に熱心な生徒からすると、はた迷惑な話なんじゃないのだろうか?
そんなわけで、富北高校の生徒は、部活動や何かをするために朝早く学校に来るということがないのだ。
だがこの日俺は、七時に生徒玄関に来ていた。もちろん他の生徒の姿は見当たらないし、教員の姿も近くには見当たらない。
「さて、さっさと用をすませるか」
生徒玄関には当然、生徒の下駄箱が設置されている。
左から1年1組、1年2組・・・3年4組、3年5組といったように並んでいる。
用があるのなら一年生の下駄箱だ。二年生や三年生の下駄箱には目もくれず、一年生の下駄箱がある方へ足を運ぶ。
グレーの色をした引き戸付の下駄箱を眺める。ちなみに開けると中は二段になっており、靴が2セット入るようになっている。
毎日嫌でも見ている下駄箱だが、今日は何となく違った物体に見えた。
俺は凄腕の銀行強盗かの如く慣れた手つきで、計画していたことを素早く済ませ、一度家に帰宅した。
ちなみに俺は自転車通学で、学校と家の距離は自転車で15分程と、比較的近場に住んでいる。
8時25分。俺は生徒玄関に本日二度目の足を踏み入れた。
玄関には2、3人の生徒がいたが、一年生の姿は見当たらない。もう全員教室へ行ったのだろう。
入学してまだ2週間程度。ぎりぎりに登校して遅刻をし、教師に目を付けられたくないという考えが読み取れる。
俺の所属する1年1組の教室は2階に位置している。
玄関から教室まで、俺はいつも通り歩いた。
そしていつも通り教室の扉を開ける。
──教室はいつも通りではなかった。
扉を開けた瞬間、教室にいる全員が俺の方を見て固まった。時間が止まるというのはこういうことを言うのだろうか。
しかし、止まった時間はすぐに動き出す。
明らかに俺をバカにしたように笑っている女子や、何か汚物を見るような軽蔑した目をしている女子、何とかして笑いをこらえようとしている男子、教室中が明らかにおかしな雰囲気に包まれていた。
俺は訳が分からなかった。
こいつらは何で俺に、気の狂った道化師を見るかのように視線を向けるのか。
困惑していと担任教師の吉井が入ってきた。
「ん?どうした?ホームルーム始めるぞ」
異様な雰囲気の中、朝のホームルームが開始された。
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