17

「も、戻りました」

 リンは船着き場までたどり着くと、職員たちの目の前で人間化魔法をかけ直した。職員たちは僅かにどよめいたが、それでも無傷の帰還を歓迎した。


「じゃあカガシマがドラゴンだって最初から知ってたんじゃないですか、局長!!」

「そりゃ知ってたさ、個人情報だから黙ってただけ」

「………」

 レプタは白目をむいて言葉を無くす。言うことはごもっともではあるが。その情報が先に公開されていれば、今回の騒動はもう少し軽く済んだのでは。レプタが言いたいことをまとめる前に、局長はリンに向かってスタスタ歩く。


「カガシマ」

「…はい」

「明日は午前休みでも取れ、有給残ってるだろ」

 アンナの提案に、リンは驚く。そんな中、横からレプタが割り込んできた。


「俺も明日一日有給使わせてください!!」

「お前は出な」

「何故?!」

 嘆くレプタの鼻先に、アンナの取り出した幅広の封筒が突き付けられる。


「明日の午前中、面接が一件入った。減ったら、増やさないと」



 ‐



 一か月後。


「オーッホッホッホ!!、ドラゴンを狩って一攫千金ですわ~~~!!」


 曇りなき空の下、砂漠龍の群れの近く。金メッキで塗られた小型船が、砂の上を快走していく。

 船に乗るのはやられ役DEFたちだった。口調を工夫して、キャラ付けの為にどうにか頑張った形跡がある。


「今日は遊覧船の定休日、狙撃される危険もありませんわ!、今日こそはぐれた砂漠龍を仕留めて…」

「…?なんか、近付いて来てないですわ?」

「変な音がしますですわね」

 口調の統率は思わしくないようだ。ともかく彼女たちの船の後方から、妙な音が追い上げて来る。


「…え」

 金メッキの船を目掛けて、何かが迫ってきている。やられ役Dがよくよく目を凝らして見てみれば、それはヒトの形をしていた。

 二足歩行の生命体が巨大な砂煙を巻き上げながら、こちらを捕捉して突撃している。魔法で浮いているのではない、右足が砂に沈む前に左足で砂を蹴り、左足が沈む前に同じ挙動を繰り返している。


「何、何ですのアレ?!、ちょっと、誰か早く撃って、早くなさい!」

「あー、はいですわ。今、準備を」

 Fがもたもたと武器に手を伸ばすうちに、それは追いついた。


 グッと砂を蹴ったかと思うと、大きく飛び上がってメッキ船に着地する。船体は大きく揺れ、あと少しで底を踏み抜かれるところだった。

 やられ役たちが目の当たりにしたそれは、身長2m前後、目方は百キロに届くだろうか。カッチリと着込んだスーツには筋肉という筋肉が限界まで詰まっていて、そして何より。


「…」

 高く結い上げたポニーテールが、膝丈のタイトスカートに良く似合っていた。


「…えぇ…?」

「わぁ…」

 やられ役たちが情報の多さに吞まれ、呆然としているところを、彼女は鮮やかなチョップで気絶させていく。


「…あっ!、この、よくもわたくしのカワイイ妹たちを…!」

 Dが我に返った。愛用のサーベルを鞘から抜いて振りかざし、侵入者を黙らせるべく立ち向かう。

 が、次の瞬間、瞬きから目を開けると、侵入者が姿を消している。


「…は?、え?、やだ、ちょっと、どこ…」

 そしてまた次の瞬間、後頭部を強く殴打されて失神した。背後には、いつの間にか侵入者が立っている。


 全ての任務を終えた彼女は、インカムから報告した。


「こちらニシキ・ヒャッポダ。ターゲットを全員鎮圧しました」

 新人の報告を合図に、レプタたちを乗せたクルーザーが近づいてくる。

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