16
レプタはバットたちをまとめて砂漠警察に引き渡した。
「お前らもマジで悪党やめろな、もっとひどいやつに足元見られてろくな事ねえ」
「ハイ」
「ですね」
「すいませんでした」
後のことは警察にまかせ、部隊拠点に向けて進むレプタと女王龍。クルーザーと共に砂の海を行く龍の背中は、クジラさながらの壮大さだった。マイクを経由して、気の抜けた声が響いてくる。
「しかしまあ、カガシマも災難だったよな。変なことに巻き込まれて、大立ち回り」
「いえ、勝てるだろうなとは思ってたので、…エトカゲさんこそ、酷いこと言われて」
「あ、低学歴って?まあ事実だしな」
レプタは意に介さず笑った。持ちネタのひとつか何かのように、あっけらかんとしていた。
「俺、まともに学校通ってなかったから。この話、したっけ?」
「…初耳ですけど」
「そっか。まあ簡潔に言うとさ」
そう前置きして、レプタは己の半生を語りだす。リンにとって深夜ラジオほど面白くはないのだけれど、なんとなく電源を切る気にはならなかった。
レプタの父親は飲んだくれだった。戦争とは関係無いタイミングで、ドラゴンから振り落とされて崖下に落ちて死んだ。蘇生は間に合わなかったことになっている。
母親は夫に殴られていた日々を哀れっぽく脚色し、漫画にして売り払うことでひと財産を築いた。
当時のレプタ少年は何もかもが嫌になり、学校も行かず、安い砂上バイクを改造して乗り回す珍走団になっていた。似たような境遇の子供はそこそこ居て、皆して底の浅い全能感に浸っていた。
ある夜。仲間たちとぶち割って遊んだ窓ガラスは、当時の砂漠戦闘部隊の宿舎のものだった。ドラゴンを崇拝するカルト教団の下っ端と勘違いされたレプタたちは、手痛い返り討ちに遭った。仲間は散り散りに逃げて、それっきり誰にも再会することはなかった。
レプタ少年には逃げる先もなく、頑丈だったので気絶することも出来なかった。当時の部隊長、のちの局長からそれを根性があると見なされ、ついでにバイクいじりの腕も買われた。独学とはいえ基礎知識があるなら、ゼロの状態より育てやすい。
こうしてレプタ少年は、その後の保全部隊の旗揚げに呼ばれ、二十年後の今に至る。
「まあ大変だったけどね、いきなり現場に放り込まれた俺も、アホの俺を育てた周りも!!」
レプタは自嘲気味に吐き捨てた。この年で未だに返済の終わらない若気の至りが、事あるごとに己の首を絞めに来る。恩義と申し訳無さと恨み節が煮詰まって、心にどうしようもない悪臭をばらまく。
リンは返事に困り、とりあえず収まるまで放置しようと判断した。
部隊の発足の時点でも、一筋縄ではなかったとレプタが語る。元は砂漠でドラゴンを討伐していた集団が、ある日、国のお達しで討伐を廃止し、保護に努めろと言われたのだ。反発して出て行ったのも、一人二人ではなかった。
それでも、砂漠で戦う技術、砂漠で生き延びる知恵は、この集団しか持ち得ないものだった。砂漠のドラゴンと共に生きるための叡智は、継承しなければ潰えてしまう。
「ろくな思い出が無いけど、俺を鍛えてくれたのもこの部隊で、…せめて後任の一人ぐらいは育ててから辞めっかなって思ったのに」
そこで言葉を切ると、虚しさの籠ったため息をついた。
「自分に出来ることだけでも頑張って、やり遂げたいだけなのにな。何でこう上手くいかねえんだろうな」
「…そのうち、どこかで上手く行きますよ」
リンがそっと返した。
「………そうね、そのうちね」
「ええ、…そう信じるだけです」
やがて拠点の影が見えてきた。表の船着き場に立っているのは局長だ。他の連中も、こんな夜中にも関わらずぱらぱらと迎えに来ている。
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