8
「父さん…!今取り込み中で」
「アオ爺!!、やっぱり居るんじゃねえか、今すぐなんとかしてくれ!」
レプタたちは口論を取りやめ、老人にそれぞれ好き勝手なことを言い出す。
それとほぼ同時に、砂漠龍がしびれを切らした。
「グル、ガルルル…!!」
ドラゴンが首を持ち上げる。保定用のワイヤーを食いちぎらんばかりの勢いで、人間どもに狙いを定めようと口を開けた。
「げっ…!」
「あっ」
「伏せ…」
「…っ!!」
青ざめる男どもを尻目に、リンが駆けだす。細い腕で砂漠龍の頭を押さえ込むと、何度か口を開閉する。
「 、 」
リンは何かを話しているように見えた。というのも、出てきた音声があまりにも人間のそれとはかけ離れていたのだ。周りの人間たちには、会話をしているという認識もできない。
しかしドラゴンは目を見開き、何かを聞き入っているらしい目になった。かなり不服そうではあるが、攻撃態勢を解除して首を伏せる。
「…、カガシマお前、龍語いけんの?」
「まあ、一応。勉強したので」
レプタはポカンとしてリンに尋ねた。リンの顔には「いらん雑用投げられたくないから黙ってたのに」と書いてある。
「おう何だ、もう治療に入っていいんだな。メリク、軟膏取ってこい」
サンショウがいつの間にか釣竿を放り出し、治療用のゴム手袋を持っていた。息子は顎で使われ、言われたものを駆け足で取りに向かう。
「アオ爺、できる限り早く群れに戻してやりたいんだ、いけるか?」
レプタは真剣な眼差しでサンショウに尋ねた。
「こんな元気な奴が入院する必要ねえだろ、今すぐ治してやる」
サンショウは鼻で笑って、手袋を装備する。そして砂漠龍の翼の付け根、最も深く弾丸がめり込んだ患部に手をのばした。
砂漠龍の喉から、撃たれた時よりも大きな悲鳴が出る。
麻酔なしで患部から弾丸を摘出し、べっとりと軟膏をすりこむという前時代的な荒療治が行われた。結果として、とりあえず翼を動かせるまで復活した砂漠龍は、ワイヤーを外されると一目散にその場を飛んで逃げ出した。
「…俺、ドラ語はわかんねえけど、アレはブチ切れてることだけ解るわ」
「でしょうね。聞かせられない罵詈雑言ですよアレ」
遠ざかる声と点のように小さくなる影を見つめながら、レプタとリンはつぶやいた。
‐
その日の夜。ドックの作業台で書類を捌いているレプタ。ふいに、スマホがメッセージを受信した。
『本日の釣果』
『ガンセキスズキ、五十センチ!!』
サンショウが写真付きで送ってきた。レプタは半笑いで返事する。
『はいはいすごいすごい』
『もっとちゃんと褒めろ』
『ところで今日つれてきてた新入りの嬢ちゃん』
その後の文字列に、レプタは片眉を上げる。
『あの嬢ちゃんなにもんだ』
『勉強したくらいでドラ語なんて喋れんのか』
「…」
レプタはどう返したものかわからなくなり、『知らねえよ』とだけ送信した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます