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「父さん…!今取り込み中で」

「アオ爺!!、やっぱり居るんじゃねえか、今すぐなんとかしてくれ!」


 レプタたちは口論を取りやめ、老人にそれぞれ好き勝手なことを言い出す。

 それとほぼ同時に、砂漠龍がしびれを切らした。


「グル、ガルルル…!!」

 ドラゴンが首を持ち上げる。保定用のワイヤーを食いちぎらんばかりの勢いで、人間どもに狙いを定めようと口を開けた。


「げっ…!」

「あっ」

「伏せ…」


「…っ!!」

 青ざめる男どもを尻目に、リンが駆けだす。細い腕で砂漠龍の頭を押さえ込むと、何度か口を開閉する。


「    、       」

 リンは何かを話しているように見えた。というのも、出てきた音声があまりにも人間のそれとはかけ離れていたのだ。周りの人間たちには、会話をしているという認識もできない。


 しかしドラゴンは目を見開き、何かを聞き入っているらしい目になった。かなり不服そうではあるが、攻撃態勢を解除して首を伏せる。


「…、カガシマお前、龍語いけんの?」

「まあ、一応。勉強したので」

 レプタはポカンとしてリンに尋ねた。リンの顔には「いらん雑用投げられたくないから黙ってたのに」と書いてある。


「おう何だ、もう治療に入っていいんだな。メリク、軟膏取ってこい」

 サンショウがいつの間にか釣竿を放り出し、治療用のゴム手袋を持っていた。息子は顎で使われ、言われたものを駆け足で取りに向かう。


「アオ爺、できる限り早く群れに戻してやりたいんだ、いけるか?」

 レプタは真剣な眼差しでサンショウに尋ねた。


「こんな元気な奴が入院する必要ねえだろ、今すぐ治してやる」

 サンショウは鼻で笑って、手袋を装備する。そして砂漠龍の翼の付け根、最も深く弾丸がめり込んだ患部に手をのばした。



 砂漠龍の喉から、撃たれた時よりも大きな悲鳴が出る。


 麻酔なしで患部から弾丸を摘出し、べっとりと軟膏をすりこむという前時代的な荒療治が行われた。結果として、とりあえず翼を動かせるまで復活した砂漠龍は、ワイヤーを外されると一目散にその場を飛んで逃げ出した。



「…俺、ドラ語はわかんねえけど、アレはブチ切れてることだけ解るわ」

「でしょうね。聞かせられない罵詈雑言ですよアレ」


 遠ざかる声と点のように小さくなる影を見つめながら、レプタとリンはつぶやいた。



 ‐



 その日の夜。ドックの作業台で書類を捌いているレプタ。ふいに、スマホがメッセージを受信した。


『本日の釣果』

『ガンセキスズキ、五十センチ!!』


 サンショウが写真付きで送ってきた。レプタは半笑いで返事する。


『はいはいすごいすごい』


『もっとちゃんと褒めろ』

『ところで今日つれてきてた新入りの嬢ちゃん』


 その後の文字列に、レプタは片眉を上げる。


『あの嬢ちゃんなにもんだ』

『勉強したくらいでドラ語なんて喋れんのか』


「…」


 レプタはどう返したものかわからなくなり、『知らねえよ』とだけ送信した。

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