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 負け犬たちを砂漠警察に投げ、レプタは船を高速で飛ばす。目的地は、付近にある龍用緊急外来だ。スマホをホルダーに固定して、通話状態に入る。


「こちら東区のレプタ!、砂漠龍が一匹撃たれた、今からそっちに運…」


『…ご予約の際には、御名前と、患龍さまの御名前、診察券番号、御希望の診察時間を…』


「…今から!!行くんで!!」


 レプタは通話を切った。行きつけの緊急外来は、最近二代目に代替わりを果たした。までは良かったのだが、全体構造も大幅に変わり、電話受付が質の低い電子ホムンクルスになった。何を話しても特定の受け答えでしか返さず、今回のように時間がない状況下では不便極まりない。


 そもそもドラゴンは本来、非常に頑丈である。銃撃されるなどよっぽどのことがない限り、緊急外来を利用する必要は無い。予算削減の為にも、代用品の受付で十分だと判断されたのだろう。が、そのよっぽどのことを多用する保全部隊にとっては、ただ煩わしいだけだった。


 レプタが通話を切ってすぐ、クルーザーは緊急外来にたどり着いた。専用船着き場に降り、互いの安全確保を理由に救命イカダへ固定された砂漠龍の様子を伺う。

「…グル、ルルル…」

 ドラゴンは唸り声をあげる。危険な状態だと判断したレプタは、すぐに下がった。


 先日のイグニスを例に示すが、ドラゴンたちは基本的に人間の言葉を理解し、話すことができる。ドラゴン同士の会話には、それとは異なる独特の言語を使っている。

 今のこの砂漠龍は、痛みとストレスのせいで人間とコミュニケーションを取る余裕が見えない。診察中の指示にも従ってくれるか、雲行きが怪しくなってきた。


「こちらです、お願いします」

「はあ、どうも…」


 リンが受付にあたり、医者を直接急患の近くに連れてきた。のそのそと歩いて来たのはドラゴン専門外科医、メリク・アオジだった。白衣姿のくたびれた中年男性だ。おそらくはレプタと同世代の。


「…、保全部隊さんお疲れ様です。今日はどうされました?」

「撃たれたっつっただろ。非常時なんだから一回で聞け、二代目センセイよ」

「……、確認しただけです。大事なことなので」


 龍医師はレプタを一瞬睨むと、救命イカダに近付く。唸り声も物ともせず、背中に残る弾丸の痕を目視で確認した。


「飛べなくなるレベルですか、深さによっては入院が必要になるかもしれません、同意書を…」

 メリクの診断に、レプタが噛みつく。


「入院だぁ?ボってんな、そんな費用出せるかよ。おい先代呼んでくれ、あっちの方が正確だ」

「父は引退して休暇中です。病院で医者に逆らうつもりですか?」

「だから…!」


 おっさん同士の小競り合いが始まる。急患のうめき声が、段々と大きくなってきた。リンが止めようかと思った矢先に、別の人物が現れる。


「よっ、何を盛り上がってんだお前ら」

 アロハにサーフパンツをキメた老人が、釣竿片手に割り込んだ。先代の医者、ことサンショウ・アオジ。今から第二オアシスの釣り堀に行くところだった。

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