︎🌟 第5話 「仲間への打ち明け」

午前の授業を終えた昼休み。

 学園の食堂は、生徒たちの笑い声と食器の音で賑わっていた。窓からは秋の陽射しが柔らかく差し込み、長いテーブルの上に置かれたシチューの湯気が立ちのぼる。


 真凜はトレイを持ったまま、きょろきょろと辺りを見回した。

 昨日から気になって仕方がないことを、どうしても話したい――けれど、打ち明けて笑われるのが怖い。

 そんな迷いを抱えたまま視線を巡らせると、奥の席で手を振るルナと、その横で本を読んでいるシオンの姿が見えた。


「こっちだよ、真凜ちゃん!」

 ルナの明るい声が食堂に響き、周囲の生徒がちらりと振り向く。

 真凜は少し恥ずかしくなりながらも、二人の隣へと歩み寄った。


「今日はシチュー! ほら、具がいっぱい入ってて美味しいんだよ!」

 ルナはすでにスプーンを動かしていて、頬を緩ませながらパンをちぎってはシチューに浸している。

 その隣で、シオンは無言のまま器を口に運びながら、ちらりと真凜を見やった。


「……何か話がある顔だな」

「えっ……」

 シオンの鋭い言葉に、真凜は胸が跳ねた。隠そうとしても、見透かされてしまう気がする。


 迷った末、彼女は意を決した。

「……あのね、昨日の夜のことなんだけど……」


 真凜は静かに語り始めた。

 塔が光ったこと、扉が勝手に開いたこと、そして――謎の声と、手のひらに残された光の紋章のこと。


 ルナはシチューのスプーンを落としそうになりながら、目を丸くした。

「えぇ!? 夜中に大図書塔に入れたの!? 普通、生徒は絶対禁止だよ!?」


 シオンは眉をひそめ、本を閉じた。

「……夢ではないのか?」

「夢、かもしれないって思ったけど……これを見て」


 真凜はそっと手のひらを見せた。そこには、昨夜と同じ紋章がうっすらと輝いている。


「……っ!」

 ルナは身を乗り出し、目を輝かせた。

「すごい! 本当に残ってる! やっぱり真凜ちゃん、ただ者じゃないんだよ!」


「浮かれるな」

 シオンの声が低く響く。

「真凜。おまえはまだ魔力の制御もできていない。そんな状態で“選ばれし者”などと呼ばれても、危険なだけだ」


「……わかってる」

 真凜は唇をかみ、うつむいた。

 確かに、昨日だって自分の力を抑えきれず、暴走させてしまった。あの声に「選ばれた」と言われても、信じきれる自信なんてない。


 けれど。

 心の奥に小さな灯が宿っているのも事実だった。


 その光を見逃さなかったのは、ルナだった。

「でもさ!」

 彼女は笑顔で真凜の手をぎゅっと握った。

「真凜ちゃんが一人で悩む必要なんてないよ! 私がずっと隣にいるから!」


「……ルナ……」

 温かい手の感触に、真凜の目が潤む。


 少し間を置いて、シオンも低く言った。

「俺もだ。危険が迫るなら、なおさら放っておけない」

「シオン……ありがとう」


 三人の間に、言葉より強い何かが確かに芽生えた。



 昼休みのあと。

 三人は講義の合間に中庭へ足を運んだ。秋の風が吹き抜け、噴水の水が陽に照らされてきらめく。

 ルナは芝生に寝転がり、両手を広げて叫ぶ。

「ふわぁ〜! やっぱり外って気持ちいいよねぇ!」


「はしたない」

 シオンは呆れながらも、彼女に上着を掛けた。

「風邪をひくぞ」

「えへへ、ありがと!」


 そんな二人のやりとりに、真凜は思わず笑ってしまった。

 こんな時間があるからこそ、昨日の恐怖や不安も少しずつ薄らいでいく。


「ねえ、これからも……わたしのこと、支えてくれる?」

 真凜が勇気を振り絞って問うと、ルナは勢いよく起き上がり、両手を腰に当てて答えた。

「当たり前じゃん! 私たち、もう仲間なんだから!」


 シオンも、噴水の水面を見つめながら静かに言った。

「仲間……か。なら、守るべきだな」


 その言葉に、真凜は胸が熱くなった。

 この学園で、自分は一人じゃない。そう強く感じたのだった。



 だがその夜――。

 塔の奥深くに眠る古の封印は、わずかに軋みを上げていた。

 真凜たちの絆が深まるほど、眠りから目覚めようとする“何か”の存在もまた、大きくなっていくのだった。

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