︎🌟第4話 「月夜に導かれる影」

その夜。

 真凜はベッドに横たわっていたが、なかなか眠れなかった。

 昼間の実習で魔力を暴走させてしまったことが、頭から離れない。


「……どうしてあんなふうに……」


 目を閉じれば、炎の渦が何度も甦る。

 シオンの冷静な声、ルナの励まし……そのおかげで止められたけれど、もし誰かを傷つけていたらと思うと胸が苦しくなる。


 そのとき――窓の外がふわりと明るくなった。

 顔を向けると、遠くの塔の先端が淡い蒼光を放っている。

 昨夜と同じ、いや、それ以上に強い輝き。


「……また……」


 気づけば真凜はスリッパを履き、静かに部屋を出ていた。

 廊下は月明かりに照らされ、誰もいない。寮の出口を抜け、夜風を感じながら塔へと向かう。


◇◇◇


 学園の中心にそびえる【大図書塔】。

 魔法の歴史と秘密が眠るとされ、生徒は昼間しか入れない決まりになっている。

 だが、その扉は月光を浴びたかのように半透明に揺れ、真凜の前でゆっくりと開いた。


「……入っていい、ってこと?」


 心臓が早鐘を打つ。

 恐る恐る一歩足を踏み入れると、そこには無数の本棚が並び、宙に浮かぶランプが淡い光を灯していた。

 静寂の中、紙の匂いと魔力の気配が漂っている。


 ふと、一冊の古びた本が棚から滑り落ちた。

 表紙には――《封印》の二文字。


 真凜が手に取った瞬間、ページが勝手にめくれ、眩しい光がほとばしる。

 光の中に浮かび上がったのは、黒いローブの人物の影。


『――おまえか。選ばれし者よ』


 低く響く声に、真凜は息を呑んだ。


「だ、誰……?」


『その力は、まだ制御できぬ。だが必ず来る。力を解き放つ時が……』


 声は遠のき、本は真凜の手から離れて閉じた。

 辺りを見回したとき、そこにはもう誰もいなかった。


 ただ一つ――床に光る紋章だけが残されていた。

 それは、昼間暴走した炎とよく似た輝きを放っていた。


 翌朝。

 真凜は目覚めてもなお、昨夜の出来事が夢か現実か分からなかった。

 けれど、手のひらに残る微かな熱が、それが確かに起きたことを物語っていた。


 そして彼女は思う。

 ――あの声の正体は何なのか。

 ――自分はなぜ“選ばれた”と言われたのか。


 答えを探す決意が、静かに心に芽生えていた。

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