︎🌟第3話 「最初の授業と暴走する魔力」
翌朝。
真凜は早く目を覚まし、制服に袖を通した。白を基調にした上着に深い青のマントが揺れる。鏡に映る自分の姿を見つめ、胸の奥で小さく息をついた。
「……今日から、ほんとうの学びが始まるんだ」
寮の食堂で簡単な朝食を済ませると、ルナとシオンと共に講義棟へ向かう。石造りの廊下には新入生たちが行き交い、ざわめきが満ちていた。
「ねえ真凜、どんな授業なのかな? 楽しみだね!」
「油断するなよ。基礎とはいえ、魔力の扱いを誤れば危険だ」
対照的な二人の言葉に、真凜は苦笑しながらうなずいた。
◇◇◇
一限目――【魔法基礎実習】。
広い訓練場に集められた一年生たちを前に、講師が声を張り上げる。
「本日の課題は“魔力の具現化”だ。火・水・風・土のいずれかを、自分の魔力で形にしてみせろ。大きさは問わん。大切なのは、魔力を乱さず制御することだ」
生徒たちは一人ずつ順番に挑戦していった。
手のひらに小さな火花を散らす者、床に水滴を落とす者、風を起こして髪を揺らす者……成功と失敗が繰り返されるたびに、笑い声やため息が広がっていく。
やがて、真凜の番が回ってきた。
心臓が高鳴る。手のひらを前に差し出すと、周囲の視線が一斉に集まった。
「お、おちついて……」
深く息を吸い、魔力を流し込む。
すると――ぱあっと光が弾け、彼女の掌から水晶のように透き通った炎が現れた。
「うわっ……!」
「綺麗……!」
ルナが目を輝かせ、シオンは眉をひそめた。
講師も驚きの表情を見せたが、次の瞬間。
――炎が急に大きく膨れ上がった。
「きゃっ!」
「真凜、制御を!」
シオンの声が飛ぶ。だが炎は真凜の意志を超え、周囲の空気を巻き込みながら暴れ出す。熱風が吹き荒れ、訓練場の床がひび割れる。
「だ、だめ……止まって……!」
必死に力を抑え込もうとする真凜。だが逆に炎は彼女の心の動揺を映すかのように広がっていく。
そのとき――。
「真凜ちゃん、落ち着いて!」
ルナの声が響いた。明るく元気な声が、不思議と真凜の胸を軽くする。
同時に、シオンが手をかざした。
「――《氷鎖》!」
鋭い氷の鎖が炎を絡め取り、暴走する力をぎりぎりで押さえ込む。
やがて、炎はゆっくりと小さくなり、真凜の手の中で静かに消えた。
訓練場に残るのは、焦げ跡と生徒たちのざわめきだけだった。
「……す、すみません……」
真凜は肩を落とし、震える声で謝った。
講師は険しい顔をしながらも、静かに言った。
「危険ではあったが……君の魔力量は常軌を逸している。制御さえ学べば、大きな力となるだろう」
そう言い残し、次の生徒に目を向ける。
ルナが真凜の肩をぽんと叩いた。
「すっごかったよ! もう、火の妖精さんみたいだった!」
シオンは横目でちらりと見て、短く言った。
「次からは俺も手伝う。……一人で抱え込むな」
その言葉に、真凜の胸はじんわりと温かくなった。
仲間となら――きっとこの学園で成長できる。そう思えた瞬間だった。
しかし、彼女の知らぬところで。
昨夜、塔の上で光を放っていた“何か”が、静かに動き出していたのだった。
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