︎🌟第2話 「はじまりの寮生活」

入学式を終えた真凜は、夕暮れの学園を歩いていた。

 石畳の道の両脇には背の高い街灯が並び、オレンジ色の光が優しく石畳を照らしている。大きな学園の敷地の奥には、赤レンガで造られた建物が立ち並び、鐘楼のシルエットが夜空に映えていた。

 ――まるで、夢の中に足を踏み入れたみたい。


 案内されたのは、【一年生専用寮】。アーチ状の玄関をくぐると、木の温もりを感じる広いロビーが広がり、暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。すでに多くの新入生たちが集まり、荷物を運んだり、自己紹介をしたりしていた。


「ここが……わたしの部屋」


 真凜が割り当てられた部屋は二階の角部屋だった。扉を開けると、こぢんまりとしているが、清潔で落ち着く雰囲気。窓の外には学園の庭が見下ろせ、ベッドの横には魔法書を並べられる本棚と、小さな机があった。

 彼女は思わず、胸の奥で小さく息を弾ませる。これからここで、日々を過ごしていくのだ。


 ――コンコン。

 突然、軽快なノック音が響いた。


「やっほー! 新入りさん、いる?」


 扉を開けると、金色のツインテールを揺らした女の子が立っていた。大きな瞳が好奇心で輝き、元気そのものという雰囲気。


「わたし、ルナ! 同じ一年生だよ。隣の部屋だから、よろしくね!」

「あ……はい、真凜です。よろしくお願いします」


 人懐っこい笑顔に少し圧倒されながらも、真凜は小さく頭を下げた。


 そこへ、廊下の奥からもう一人の生徒が歩いてくる。背の高い少年で、黒髪に鋭い目つき。けれども纏う空気は冷静で、どこか大人びていた。


「ルナ、騒ぎすぎるな。ここは寮だぞ」

「うるさーい! シオンは真面目すぎなんだから!」


 軽口を叩くルナに、少年――シオンは眉をひそめるが、その表情はほんの少し和らいでいた。


「君が真凜か。入学試験で首席を取ったって聞いた」

「えっ……そ、そんな……。あれは偶然で……」


 褒められて、真凜の頬は熱を帯びた。自分でも、試験のときに発動できた“究極魔法の模倣”がどうして可能だったのか、まだ理解できていない。


「偶然じゃ首席は取れないさ」

 シオンが真剣な眼差しを向けてくる。

「でも……ありがとう」

 真凜は、少し照れながら微笑んだ。


 夜になると、寮の食堂は一年生たちでいっぱいになった。

 長いテーブルには大きなパン籠と温かいスープ、焼きたての肉料理が並び、食欲をそそる香りが漂う。笑い声と話し声が飛び交い、緊張していた空気が少しずつほどけていく。


「真凜ちゃん、これから一緒に頑張ろうね!」

「魔法学園は厳しいが……仲間がいれば乗り越えられる」


 ルナとシオンが両隣に座り、にぎやかに言葉をかけてくる。

 真凜はうなずき、心からの笑みを返した。


「……はい。頑張ります」


 その瞬間、彼女の胸の奥で新しい決意が灯る。

 ただの“見習い”では終わらない。ここで、本当の力を磨いていくために。


◇◇◇


 食堂から部屋に戻った深夜。

 窓を開けると、星空がどこまでも広がっていた。寮の灯りが静かに消えてゆき、森の向こうからはフクロウの鳴き声が聞こえる。


 ふと――。

 空に浮かぶ月の下、学園の塔の先端がほのかに光を放っていることに気づいた。

 まるで、何かがそこから呼びかけているかのように。


「……あれは、なんだろう……?」


 真凜は窓辺に手を添え、不思議そうに塔を見つめた。

 やがて光は消えたが、その残像はいつまでも彼女の心に焼きついて離れなかった。


 ――この学園で、自分を待っているものは一体何なのだろう。

 まだ答えの見えない予感だけが、真凜の胸を静かに揺らしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る