🌟第1章 第1話 「首席の新入生」
入学式の日。
真凜は大広間の隅で、緊張のあまり胸を押さえていた。
磨き上げられた大理石の床には、七色に輝く光が差し込み、空には宙に浮かぶ魔法の結晶がきらめいている。
集められた新入生は数百人。その一人ひとりが未来の大魔導師を夢見る者たちだ。
「――首席合格者、真凜・アルディナ」
その声が響いた瞬間、大広間がざわついた。
「え、首席ってあの子?」「小柄な……女の子?」「噂の究極魔法の子か!」
驚きと好奇心の入り混じった視線が、一斉に真凜へと注がれる。
居心地の悪さに背筋がぞわりとする。
真凜は思わずローブの袖を握りしめ、俯きそうになる足を必死に前へ動かした。
壇上に上がると、年老いた学園長がにこやかに微笑んでいた。
「ようこそ、アルカナ魔法学園へ。恐れることはない。君の歩む道は、君自身の魔法で形づくられるのだから」
その声は、温かいのに不思議と重みを持って胸に響いた。
真凜は小さくうなずき、深呼吸する。
(本当は……偶然なのに)
試験の日。彼女は、たまたま隣で上級生が唱えていた
真似をしてみたら、なぜか発動してしまった――ただそれだけ。
本人にとっては奇跡のような“まぐれ”だったのだ。
しかし周囲はそうは思わない。
天才、首席、期待の星――そんな言葉が、真凜を追いかけてくる。
席に戻ると、すぐ隣から声が飛んだ。
「ねえ、君が真凜? 本当に究極魔法を使ったの?!」
明るい茶髪の少年が、目を輝かせて話しかけてきた。
「俺はライル。よろしく! いやぁ、すごいなぁ、いきなり首席だなんて!」
「え、えっと……よ、よろしく」
不器用に返す真凜に、ライルは悪戯っぽく笑った。
「照れてる? 可愛いな!」
そのとき、向かいに座っていた黒髪の少女が冷静な口調で口を挟んだ。
「大げさに持ち上げすぎよ。実力は授業で見れば分かることだわ」
鋭い瞳の彼女は、名をユリシアと言った。冷たい印象だが、その目には確かな観察力が宿っていた。
「でもね」ユリシアは小さく笑った。「偶然で成功するなんて普通はありえないわ。何か秘めた力があるんじゃない?」
その言葉に、真凜はますます頬を赤らめてしまった。
否定したいのに、上手く言葉が出てこない。
(どうしよう……私、バレちゃうかな。全然すごくなんてないのに……)
その後、入学式の儀式が進み、やがて生徒たちはそれぞれの寮へと案内された。
石造りの廊下、浮遊するランタン、壁に描かれた古代文字――。
真凜はきょろきょろと周囲を見回しながら歩く。
「ねぇ、君の寮はどこ? 同じだといいな!」
ライルが隣で声をかけてきた。
「えっと……湖の塔の、ルーメン寮、だって」
「おぉ! 俺も同じ! やったな!」
無邪気に笑うライルに、真凜は少しだけ安心した。
一日の終わり。寮の窓から外を眺めると、月光が湖面を銀色に染めていた。
胸の中にまだ不安は渦巻いている。けれど、その隣で笑う友の存在が、ほんの少しだけ心を軽くしてくれていた。
(……大丈夫。私、やってみるしかないんだ)
こうして、真凜の学園生活が静かに幕を開けた。
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