11話:実力


「チッ……ローズ、ふざけるんじゃねえぞ!」


「だったら私と喧嘩する? あんたじゃ私には勝てないと思うけど」


 ローズに睨まれて、ジョシュアはバツが悪そうに酒場を出て行く。さすがにローズが相手だと引き下がるしかないか。


「助かりました。ありがとうございます」


 礼を言う俺にローズが苦笑する。


「余計なことをしたかも知れないわね。あんたならジョシュアに勝てたんじゃない? あの馬鹿は実力もないのに偉そうにしているし、少し痛い目に合った方が良いのよ」


「そうですね。あいつに負けるとは思いませんけど」


「へー……言うじゃない。ジョシュアを軽くあしらっていたし、あんたって本当に新人ルーキーなの?」


 ローズがまじまじと俺を見る。


「ちょっと失礼するわね」


 いきなり俺の腕や肩を触って来た。いや、本当に何をするんだよ?


「私はローズ。ねえ、あんたの名前は?」


「俺はエイジです」


「エイジって……ああ、気にしないで。知り合いに同じ名前の人がいた・・だけよ」


 もしかしてローズはエイジ・マグナスだった頃の俺を認識していたのか? ほとんど喋ったこともなかったのに。


「あんた……見掛けじゃ解らないけど、物凄く鍛えているわね。これならジョシュアじゃ相手にならないのも納得よ」


 ローズが感心したように言う。若手トップクラスの冒険者であるローズから見ても、今の俺のステータスは悪くないってことか。


「エイジは新人だから、まだどこのパーティーにも入っていないわよね。私たちのパーティーに入る気はない?」


 突然の誘いに周りの冒険者たちが驚いている。俺もその1人だ。ローズたちのパーティーに誘われるなんて考えてもいなかった。


 正直誘われたことは嬉しい。ローズたちのパーティーに興味もある。だけど俺には他に優先することがあるから、誰かとパーティーを組むつもりはなかった。


「ローズさん。誘ってくれたのは嬉しいけど、俺はどこのパーティーにも入るつもりはないんだ」


「パーティーに入らないって……それってソロでダンジョンに挑むってこと?」


 ダンジョンでパーティーが全滅すれば、結構な確率で死体すら残らずに消滅ロストする。ソロで挑めば自分が死ぬと即全滅で消滅ロストに繋がる。だから大半の冒険者はパーティーを組んでダンジョンに挑む。


 ソロでダンジョンに挑む冒険者がいない訳じゃないけど、そんなことができるのは一部の高レベルの冒険者だけ。新人がソロで挑むなんてどう考えても自殺行為だ。


 ローズの発言を聞きつけた周りの冒険者たちが失笑している。だけどローズは俺のことを笑わなかった。


「エイジが普通の新人じゃないってことは解るけど……ソロで挑む勝算はあるの?」


「信じて貰えるとは思わないけど、俺は勝算があると思っているよ」


 だから俺も嘘偽りなく正直に答えた。


「ふーん……確かに簡単には信じられない話だけど、あんたが本気だってことは解たわ」


 今度もローズは俺を馬鹿にすることも嘲笑うこともしない。不敵な笑みを浮かべてじっと俺を見ている。


「おい、ローズ。そんな新人の話なんか真に受けるなよ!」


「そうだぜ。自分が特別だと勘違いした馬鹿はたくさん見て来ただろう!」


 周りの冒険者たちがヤジを飛ばして来ると。


「うるさいわね! 私はエイジと喋っているの。余計な口出しをするんじゃないわよ!」


 ローズが一喝して黙らせる。


「ねえ、エイジ。私はあんたが気に入ったわ。パーティーに誘った話はとりあえず置いておいて、仲間に紹介するからこっちに来なさい!」


 ローズは強引に俺の腕を掴むと、酒場の奥の方へ連れて行く。


「ちょっと、ローズさん……」


「エイジ、私のことはローズって呼び捨てにして。これでも私たちはそれなりにレベルが高い冒険者だから、話を聞くだけでもあんたにとって無駄にはならないと思うわ」


 ローズが好意で言っていることは解っているし、ローズの仲間たちとも話をしてみたい。俺に断る理由はなかった。


 ローズは俺の手を強引に引いて、酒場の奥にあるテーブル席に連れていく。テーブルを囲んでいるのは2人。2人とも俺とローズよりも少し年上だ。


「エイジ、私の仲間を紹介するわ。ラウルとサラよ」


 勿論俺はこの2人のことを知っている。灰色の髪を短く切った顔立ちがハッキリしたイケメンが戦士ウォリアー盗賊シーフのラウル・ガードナー。マルチクラスの凄腕として有名だ。


 ローズとはタイプが違う見た目は・・・・金髪碧眼の清楚系美少女、魔導士ウィザード司祭プリーストのサラ・ラングウェイ。


 サラもマルチクラスで、魔導士は攻撃魔法に特化した魔術士系クラスだ。『ダンジョンズ&マジック』では通称移動砲台と呼ばれていた。


 この3人が冒険者パーティー『天元突破』を結成したのは、エイジ・マグナスが冒険者になった頃と同じ2年前。ローズたちはすでに10階層を攻略している……


 前世の記憶を思い出して、今さらながら『天元突破』って中二病臭い名前だなと思ったことは絶対に言わないけど。


「ラウルとサラにも、私とエイジが話したことは聞こえていたわよね?」


「ああ。そいつが新人で、ローズが俺たちのパーティーに勝手に誘ったことは聞いていたぜ」


「ローズ、私たちに相談もなくパーティーに誘うなんてどういうつもり?」


「勝手に誘ったことは謝るわ。結局断られちゃったけど、断った理由が最高じゃない! エイジはソロでダンジョンに挑むつもりよ。私はエイジのことが気に入ったから、2人に紹介するために連れて来たの」


「その辺の話もだいたい聞いていたが……」


「ねえ、貴方……本当にソロで挑むつもり? 自分がどれほど無謀なことをしようとしているか理解しているの?」


 サラが冷ややかな目をする。見た目は・・・・清楚系美少女というのは、こういうことだ。サラは誰に対しても言いたいことをハッキリ言う性格で、言い方もキツイ。


「ソロで挑むリスクは理解しているつもりだ。その上でローズにも答えたけど、俺は勝算があると思っている」


「随分な自信じゃねえか……普通に考えたら只の馬鹿だが、ローズはそうは思わなかったんだろう?」


「そうね。目が本気だったのもあるけど、エイジは只の新人じゃないわ。新人にしてはってレベルじゃなくて物凄く鍛えている。フィジカルだけならラウルと張り合えるかも知れないわよ」


「ローズ……それって本気で言っているの?」


「私はいつでも本気。サラなら解っているわよね?」


 真剣な顔のローズにサラが黙る。


「言葉だけじゃ信じられないのも解るわ……ねえ、エイジ。今から私と模擬戦をしない? ラウルとサラにエイジの実力を知って貰いたいのよ」


 またいきなりの話だな。だけどローズと模擬戦か……今の俺の力がどこまで通用するか、試すには良い機会だな。

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