10話:出会い


 グレッグはそれ以上何もかずに、俺に木剣を渡して自分も構える。17歳の俺は冒険者になるには遅い方だけど、遅過ぎるほどじゃない。


「訓練するにしても、まずは今のおまえの実力を知る必要がある。それなりに実力があるなら、直ぐに戦士ウォリアーとして冒険者登録しても構わないぞ」


 勿論もちろんそのつもりだ。俺は木剣を構える。


「構えは悪くないようだな……よし、好きに打ち込んで来い!」


 俺は加速して距離を詰めると、グレッグの間合いに入る前に斜め右前方に跳ぶ。右利きのグレッグの剣を持つ腕の反対側から仕掛けるためだ。


 グレッグの反応が遅れるのを見逃さずに、ガラ空きの胴に木剣を叩き込む。勿論手加減したけど、グレッグはその場にうずくまる。


「グレッグさん、大丈夫ですか?」


「痛ってて……俺としたことが油断した。それにしても凄い速さだ。見事に一撃をらっちまった」


 グレッグは腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。


「とても新人ルーキーとは思えない実力だ。おまえはどこかで……いや冒険者に詮索は無しだ、忘れてくれ。これなら訓練する必要はない。エイジ、おまえは今日から冒険者だ」


 1階に戻って少し待っていると、受付のノーラから『エイジ・キサラギ』と名前が刻まれた冒険者プレートを渡される。鎖で首から下げるタイプで軍隊の認識票みたいなモノだ。これでダンジョンに入るには問題ない。


 このまま『ラストダンジョン』に戻っても構わないけど、そろそろ腹が減って来た。制作室エディットルームではメイが作る料理とレトルト食品にお菓子、前世の世界と変わらない物を食べている。


 エイジ・マグナスとして過ごした17年間、俺はずっとクランベルクの街で生活していた。メイの料理やお菓子は美味いけど、1ヶ月半もそんな食生活を続けると、この世界の食べ物と酒の味が懐かしくなった。


 ちなみにこの世界に酒の年齢制限はないから、17歳の俺が飲んでも何の問題もない。カウンターの空いている席に座って、適当に料理とエールを注文する。前世の記憶を思い出して特に思うけど、ファンタジー世界の飲み物と言えばエールだろう!


 俺を含めて酒場にいる冒険者たちは装備を着けたままだ。ダンジョンから直行したからってもあるけど、他の冒険者を威圧する意味もある。


 冒険者は舐められたら終わりだからな。ダンジョンの中は人目につきにくいから、他の冒険者に襲われることもある。


 運ばれて来たエールは少しぬるかったけど……まあ、こんなモノだろう。料理の方は肉とジャガイモの炒め物。こっちも味は悪くない。


 ちなみに冒険者ギルド第3支部には、俺をおとりにして逃げたガイアたちも所属している。冒険者ギルドと酒場を見渡しても、今のところ奴らの姿はない。この時間だからまだダンジョンから戻っていないってところか。


 魂が今の身体に移ったから生きているけど、エイジ・マグナスだった俺はオーガに殺された。今思い出しても腹が立つし、エイジ・マグナスの身体の持ち主のためにも、ガイアたちには絶対復讐してやるつもりだ。


 だけど今はまだそのときじゃない。如月きさらぎエイジにガイアたちに復讐する理由はないし、ダンジョンの中のことだから証拠も残っていない。街中で暴力沙汰を起こす訳にはいかないだろう。


「おい、おまえ……見掛けない顔だな。もしかして新人か?」


 向こうから近づいて来た男に声を掛けられる。明るい色の髪を長く伸ばしてハーフプレートを身に着けている。


 こいつはジョシュア。自称6レベルの戦士で、自分よりも弱い奴にしか喧嘩を売らない嫌な奴だ。エイジ・マグナスだった頃の俺は舐められていたから何度か喧嘩を売られた。


 今の俺は地味な黒髪に黒い瞳の17歳。身長170cmで体型は痩せ型。装備のせいでステータスが反映された身体が隠れているし、特に強そうには見えないだろう。


「ええ、今日冒険者になりました」


 ジョシュアは無視すると余計に絡んで来るから、とりあえず相手をする。


「何だ、バリバリの新人じゃねえか! だったら誰もパーティーなんか組まねえぜ。残念だったな。冒険者はそんなに甘い世界じゃねえんだよ!」


 こいつはもう酔っているのか? 俺が冒険者ギルドに来たときに、すでに酒場で飲んでいたからな。


「まあ、そうかも知れませんね」


 余計なことを言わずに聞き流すことにする。


「何だ、てめえ……ヘラヘラしやがって!」


 何が気に食わないのか知らないけど、ジョシュアはさらに絡んで来る。無暗に喧嘩を買うつもりはないけど、黙っているつもりもない。


「俺はヘラヘラなんかしていないですよ。言い掛かりは止めてください」


「何だと……新人が生意気なことを言うんじゃねえ!」


 いきなり胸ぐらを掴もうとしたから腕を掴んで止める。


「あまりしつこいと、俺も黙っていませんよ」


「てめえ……手を放しやがれ!」


 ジョシュアが逆の腕で殴り掛かって来る。そっちも掴んで止めると、椅子から立ち上がりざま顔面に頭突きを喰らわせてやる。


 エイジ・マグナスだった頃、俺はジョシュアに何度か喧嘩を売られたけど、それでも一度も負けたことはない。モロに一撃を喰らったジョシュアは鼻血を流して、俺が手を放すとその場に蹲る。


「はい、手を放しましたよ。これで満足ですか?」


「ジョシュア、新人に舐められているじゃねえか!」


「うるせえ……今のは油断しただけだ!」


 ジョシュアは怒り任せに立ち上がると、ベルトに刺した剣に手を伸ばす。これで正当防衛成立だな。向こうから絡んで来たんだし、こうなったら徹底的に叩きのめしてやるか。


 そんなことを考えていると、ジョシュアの背後からジョッキに入ったエールを頭に掛ける奴がいた。


「おい、何しやがる!」


 振り向きざまに怒声を上げた直後、ジョシュアが固まる。エールを掛けたのは、鮮やかな赤い髪の女の子だ。


「あんたの頭を冷やしてあげたのよ。自分よりも弱い奴にしか喧嘩を売れないくせに、新人相手にイキがっているんじゃないわ」


 八重歯やえばのぞく勝気な顔。俺と同じ年の凛々りりしい感じの美少女。彼女はローズ・シャイニング。クランベルクの若手冒険者の中ではトップクラスの実力者だ。

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