9話:冒険者ギルド


 時間は午後5時過ぎ――ステータス画面を開けば、正確な時間が表示される。


 ステータス画面は自分にしか見えない。意識を集中することで他人に見せることもできるけど、自分の手の内を晒すことになるから普通は見せないだろう。


 シーダたちとクランベルクの街に入るための列に並ぶ。意識のないカイルを手押し車に乗せて運んでいても、ダンジョンが近くにある街だからか特に気に留める者はいない。


 どこかのギルドのプレートか通行証がないと街に入るだけで金が掛かる。俺はダンジョンで手に入れた金で入街料を支払った。


 前世の記憶を思い出して改めて見ると、城塞都市の街並みはちょっと感動的だ。元が『ダンションズ&マジック』の世界だからか、人々はファンタジー物のゲームやアニメみたいな服を着ている。


 この世界は戦乱の女神が創ったって話だけど、『ラストダンジョン』とクランベルクの街は、俺の記憶から具現化させたんだよな?


 戦乱の女神は『ラストダンジョン』がこの世界の人間に与える試練の1つだって言っていた。つまり街の人たちは元々この世界の住人で、俺の記憶に合わせてクランベルクの街が変化したってことか?


 まあそんなことを考えも直ぐに答えは出ないだろう。エイジ・マグナスだった頃の俺は、この世界に違和感を抱いていなかった。変化が起きたとしても、女神がやることだから簡単には気づかないってことだろう。


「じゃあ、俺はこれから冒険者ギルドに行くよ。この辺りには来たばかりで、まだ宿は取っていないんだ」


 シーダたちには俺が登録する予定の冒険者ギルドを教えて、用があるならギルドに言伝ことづてをしてくれと言って別れる。


 クランベルクには冒険者が多いから、冒険者ギルドが全部で5ヶ所ある。俺はエイジ・マグナスだった頃に所属していた冒険者ギルド第3支部に向かう。


 ダンジョン都市クランベルクは、ダンジョンの魔物からドロップするアイテムとコインで成り立っているから、冒険者が多いのは当然のことだ。これも俺がエディットツールで作った設定が反映されている。


 『冒険者ギルド』という看板が張り出された3階建ての石造りの建物。建物の中には結構な人数の冒険者がいる。全部で100人くらいだ。


 見慣れた顔もあるけど、今の俺はエイジ・マグナスじゃない。知らないフリをして素通りする。カウンターに向かうと受付のノーラに声を掛ける。ノーラも知り合いだけど初対面を装う。


「すみません。冒険者として登録したいんですが」


「でしたら、まずは訓練を受けて試験に合格する必要がありますね」


 ノーラは丁寧に説明してくれた。リアルになったこの世界では、冒険者ギルドで訓練して冒険者になる。訓練する内容はクラスによって変わる。


 魔術士メイジなら一発で合格することは解っている。だけど俺は戦士ウォリアーの訓練を受けることにした。エイジ・マグナスとしてやってきたことを証明するためだ。


 ちなみに訓練は無料で受けられる。これもダンジョンで成り立っているダンジョン都市だからだ。


 だけど素質がなかったり、やる気がないと判断されると直ぐに追い出されて、二度と訓練を受けることができない。エイジ・マグナスとして訓練を受けたときは、半年ほどでステータスが伸びてギリギリ戦士になれるSTRになった。


 しばらく待っていると、地下にある訓練場に案内される。そこで待っていたのは、頬に傷のある40代の男だ。筋肉質な身体つきで如何にも元冒険者って感じ。戦士の訓練を担当する冒険者ギルド職員のグレッグだ。


「俺がおまえの担当のグレッグだ。冒険者になるには俺に実力を認めさせる必要がある」


 グレッグもエイジ・マグナスだった頃の知り合いで、俺はグレッグの訓練を受けて戦士になった。冒険者時代のグレッグは12レベルの戦士だった筈だ。他人にステータス画面を見せることはないから、あくまでも自己申告だけど。


「俺は如月きさらぎエイジ。エイジが名前で如月が姓です」


 特に何も考えずに前世の名前を伝える。ステータス画面にもそう書いてあるし、別に隠す必要もないだろう。


「エイジって名前は聞き覚えがあるが……キサラギってのはめずらしいな。響きからすると東方の国から来たのか?」


 どうやらグレッグにとって、エイジ・マグナスは聞き覚えがある程度の存在だったらしい。戦士になりたくて訓練を受ける奴はたくさんいるし、大した実力じゃなかったから印象に残っていなんだろう。


「まあ、そんなところですね」


 適当に言って誤魔化す。余計なことを言うとボロが出そうだからな。エイジ・マグナスだった頃の俺は物心ついた頃からこの街を出たことがない。


 それでもこの世界で戦争や種族同士の争いが頻繁に起きていることを知っているのは、冒険者をしていると情報が勝手に入って来るからだ。


 エイジ・マグナスの両親も冒険者で、俺が10歳のときにダンジョンで死んだ。自分が作ったダンジョンで死んだことに対する罪悪感はとりあえず置いておく。


 天涯孤独なった俺は孤児院に引き取られた。冒険者の両親に憧れていたから、孤児院に引き取られてからもガムシャラに努力した。


 そして15歳で冒険者になった。この世界で冒険者になれるのは『ダンジョンズ&マジック』と同じ15歳からだ。


 両親が残してくれたわずかな金を孤児院が使い込むことはなく、俺はその金で冒険者になるための最低限の装備を手に入れた。


 エイジ・マグナスだった俺はオーガに殺されて、死体が残っていないことは制作室エディットルームの映像で確認済みだ。


 偽善的だと思うけど、今度両親の墓参りに行って、孤児院に寄付をするか。

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