第2話「痩せなさい! 1キロ太って1万の魔物を産む者よ!②」

 神聖さを演出するためだろうか……瞳を閉じた女神が、ゆっくりと語り始める。


「これは、私の守護する異世界、ウルファジムの話です――

 十年前から、明らかに魔物の数が増えてきました。そして、二年ほど前に魔物を統率する者が現れ、自らを〈魔王〉と名乗り、人類に宣戦布告してきたのです」


 尾本は腕を組みながら、女神の話を聞き流す。女神はいたってまじめに語っているが、異世界ファンタジー物の導入部としては、どこかテンプレ感が否めない。


「よくある話ですな」

「よくある話では困るんですが」


 女神が苛立ちを含んだ笑顔で睨みつけてくる。


「それで原因は何なんですか? やっぱり、よくあるナンチャラの封印が破られて~とかですか?」


 尾本の問いに女神は静かに目を開き、その視線を落とした。


「さっきも言ったじゃないですか。

 ……あなたの体重のせいです」

「だから、なんで俺の体重?」

「神である私の力をもってしても、原因はわからず仕舞いです」

「とんだ無能ですな」

「黙りなさい」

「はい」

「そこで魔王への対抗策として、ひとりの少年を勇者として召喚しました」

「なるほど。それが俺ってわけですか」

「〝少年〟って言ったでしょ? それに一年前の話ですよ。彼は若くて、イケメンで、頭も性格も良くて、運動神経も抜群。あなたではありません」

「ぐぬぬ……」

「それでこの一年間、勇者が魔王軍と戦っている間に、私は魔物がどこから現れるのかを探っていたんです。そして、尾本コウ……あなたを見つけたわけです。厳密には、あなたのそのぶよぶよしたお腹を、ですけどね」


 女神は穏やかな表情のまま、皮肉を口にする。


「女神様って……性格悪いとか言われません?」

「私が神になって幾星霜いくせいそう……そのような言葉を口にした愚かな人間は、あなたがはじめてです」

「なるほど。これで、俺のことを忘れられなくなりましたね」

「やっぱり、私の世界に召喚して瞬殺してやろうかしら?」


 女神が引きつった笑顔になる。


「やだなあ、軽い社畜ジョークじゃないですか」


 尾本も笑顔で返す。なかなか、からかい甲斐のある女神だなと思った。


「それで、勇者が半年前に魔王軍を大幅に退けたんですが、一か月前から再び魔王軍は勢いを増したんです。勇者は今も苦戦しています」

「ほうほう……」

「さて。ここまでの話で何か気がついたことはありますか?」


 女神は、片目だけ開くと尾本を見やる。

 つまり、ここまでの話をまとめると――


・十年前から明らかに魔物の数が増えた。

・二年ほど前に魔王というのが現れて、魔物を統率して人類に宣戦布告してきた。

・一年前にイケメン勇者が召喚されて、半年前に魔王軍を押し返した。

・一か月前から再び魔王軍は勢いを増した。


 ――うん。まったく心当たりがない。

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