第3話「痩せなさい! 1キロ太って1万の魔物を産む者よ!③」
「それでは、お手元の資料の表紙をめくり、1ページ目のグラフをご覧ください」
気がつけば、尾本の手元にはカラー印刷されたレジュメが置かれている。他人の夢だと思ってなんてことしてくれるんだ――と思いつつも【異世界ウルファジムについての報告と尾本様へのご提案】と書かれた表紙をめくり、折れ線グラフを眺めた。
「これは、ここ十年の尾本さんの体重の増加を表すグラフです。ご覧ください。この見事な右肩上がり。たった十年間で20キロ増って……」
「俺のプライバシー、どうなってんの?」
「そして、このグラフが指し示すとおりですが――
あなたは二年前から、急激に10キロも体重が増えていますね。それが理由で、半年前にダイエットに挑戦したものの、一か月前からずっとサボっている、と……」
「えっと……最近、暑くて。七月にジョギングはちょっとねえ……」
「続いて、資料の2ページ目をご覧ください。こちらは、私の世界の魔物の総数を表すグラフです」
ページをめくると、一目でわかるほど1ページ目のグラフとそっくりな折れ線グラフが現れた。グラフの線は色違いになっており、「印刷ミスではありませんよ」と主張しているかのようだ。
「なんで、ここまで一致するんです?」
女神が伊達メガネをクイッと持ち上げ、眉をひそめながら尋ねてくる――いや、いつかけた?
「そんなの、俺が聞きたいぐらいですが……」
尾本の返事に、女神は伊達メガネを外し、大げさに肩をすくめてみせた。
「以上のことから、因果関係はまったく謎ですが、あなたの体重と私の世界の魔物の数が完全一致することが判明しました。天文学的な確率で、です」
「マジか」
「さて。もう、おわかりですよね?」
女神は微笑みながらも、圧のある視線を送ってくる。
「つまり、そっちの世界の魔物が減ると、俺の体重が減る……的な?」
「バカですか?」
「バカって言った!」
「逆です、逆! あなたの体重が増えたら、こっちの世界の魔物が増えるんです!」
「そう申されましても……」
「しかもですよ! 倒しても倒しても、ぜんっぜん減らないんです!!」
「いや、さすがに偶然じゃないかなあ?」
異世界にも魔物にもまるで心当たりがない。体重増加の原因なら、ポテチ、カップ麺、唐揚げ、ビールと、いくらでも理由を並べられるのだが。
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