第15話 臨時小隊長、消息不明
◇ 治安維持局 エルドゥール支局 臨時小隊 ◇
「む……。ウルフ少尉の生体ビーコンが途切れましたね。コクピット外に出たのかな?」
『マッドドッグ』のレーダーから消えた反応を見て、シェパード軍曹は呟いた。
レーダーには依然として『シャドウウルフ』の反応があるものの、先ほどまでそれに重なっていたウルフ少尉の色のマーカーは消えている。
マナ・マシンによる生体ビーコンは、
都市の中など電波を発信する設備が多数ある場所なら、AMやAGがなくともどこにいるのかすぐにわかるが、スラムの倉庫跡ではそんなものは望めない。
同レベルの戦力を持つ国外勢力との戦闘時にはもちろんオフにするが、国内の治安維持活動や、今回のような一方的な制圧任務では誤射を避けるため常時オンにしておくのが普通だった。
『大方、敵AMを無力化したから機体を降りて降伏勧告でもしておるのだろう。まあ少尉ならばスラムのゴロツキが何人束になろうとも跳ね返せる程度のマナ・マシン強度はある。AMから降りても何の問題もあるまい。
とはいえいささか迂闊な行動だな。本来であれば、目標を発見した時点でこちらに連絡を入れるべきだし、戦闘に入ったのならそれも報告が必要だ。これは説教に加えるべきだな。
それより、今は少尉がAM戦闘で勝利したであろう前提で次のスケジュールを考えておくことだ。余計な寄り道をすることになったが、まだ作戦は何も始まっておらんのだから』
「ははは。そうですね」
説教が伸びてしまった少尉に対し少しだけ憐憫の情を向けた。
レーダー上では、謎のAM反応とシャドウウルフの反応は触れ合うくらいに近接した状態にある。
ラニガンが言った通り、敵AMを無力化して拘束し、降伏を迫っている可能性はある。
しかし固有名称すら持つ国内最大のスラムとは言え、所詮スラムはスラム。
仮に何かの間違いでAMのような強大な兵器を手に入れたとしても、満足に扱えるはずもない。
そんな中途半端な連中になど、わざわざ降伏を求める価値などない。
おそらくは降伏勧告というより、尋問。
そのAMをどこで手に入れたのかや、未だ正体の見えない小型AGの情報など、そういうことを尋ねているのだろう。
(何だかんだ言っても、あれで少尉は真面目なところもあるからな。任務に対しては手は抜かない、ということだろう。戦闘技術だけ高くても昇進はできないからな……)
シェパードら訓練校の同期の中でも圧倒的な速度で出世していながらも、それほどやっかまれていないのは、あの適度に適当で適度に真面目な性格ゆえのことなのかもしれない。
まだほとんど何もしていない状態だが、せっかく編成された臨時小隊だ。
メンバーはラニガン軍曹を始め、訓練校の懐かしい顔ぶればかり。
できることなら今回のスラム制圧任務だけでなく、他の作戦にもこの小隊で当たってみたい。
そんな淡い希望を胸に抱きながらレーダーの画面を眺めていると、突然、有り得ない現象が目に入った。
「え? あれ? なんだこれ、どういう意味……?」
シャドウウルフを表していたレーダー上の光点。
それが、突然隣の正体不明機の光点に飲み込まれたように見えた。
見えたと言うか、事実として、現在レーダーにシャドウウルフの反応はなく、正体不明機の反応は強まっている。
そう、ちょうど平均的なAMのエネルギー反応の倍くらいの強さに。
『どうした、シェパード軍曹。何かあったのか?』
「ラニガン軍曹、すみません、私では判断できない現象が……」
『レーダーの故障ではないのか?』
「それもわかりません。観測手の訓練も受けているのですが、こんな事象は聞いたことも……」
急いでレーダーのログをまとめ、データをラニガンへ送信する。
同時に本部の戦術オペレーターにも問い合わせる。あちらはリアルタイムでマッドドッグの観測データを見ているはずだ。他にも都市全体の情報や、スラムの一部の情報も持っているから、シェパードよりも俯瞰的に状況を観察できているはず。
『なんだ、これは……。どういうことなのだ……。シャドウウルフは今、どうなっている?』
ラニガン軍曹もこんな事態は初めてらしい。
戦術オペレーターからの回答は『シャドウウルフの戦闘ログによれば、敵不明AMは無力化済み。その後シャドウウルフがロストした理由は不明』であり、本部でも何もわかっていないことがわかった。
ただし戦術オペレーターからは、シャドウウルフは高価なワンオフ機でありパイロットのウルフ少尉も重要人物なので、仮に作戦が失敗しても可能な限りセットで回収すること、最悪でもウルフ少尉だけは無事に救出すること、さらにマッドドッグのレドームユニットも高額なので救出の際には現場には行かないこと、が通達された。
今回のシェパード軍曹のように、実働部隊に指揮官が存在する場合、基本的に戦術オペレーターより現場指揮官の判断の方が優先される。
オペレーターは様々な情報から現場の状況を分析できるが、それでも現場でしか感じられない『戦場の空気』というものがあるからだ。
一方で、作戦立案の段階であれば、戦術オペレーターの意見が優先される。
状況を俯瞰的に見ることでしかわからないことがあるからだ。
臨時小隊が本来遂行すべきだった任務は、小型AGの無力化およびターゲットAの回収だ。
正体不明のAMへの対処は現場判断で行われたイレギュラーな作戦だった。
正体不明機が作戦遂行上の脅威になりうるため、本来の作戦目標より先に対処するべきという現場指揮官の判断が間違っていたかどうか、それはわからない。
しかし現実として、対処に当たったシャドウウルフの信号がロストした以上、脅威になりうるという判断の妥当性はあったものと見なされるだろう。
戦術オペレーターがウルフ少尉の『救出』に言及してきたということは、現場がここから『ウルフ少尉救出作戦』に舵を切る判断をすることをある程度認めるということだ。
『そういうことであれば……私が行くしかあるまい。ウルフ少尉の救出は私のゴブリンナイトで行う。シェパード軍曹はここで装甲トラックと共に待機していてくれ。随時情報は送る』
ラニガン軍曹はそう言い残し、ゴブリンナイトを駆りスラムの倉庫跡地の方へ消えていった。
(ウルフ少尉のシャドウウルフでもロストしてしまったような相手だ。AGのゴブリンシリーズじゃ逆立ちしたって太刀打ちできない。でも、目的は敵機との戦闘じゃなくて少尉の救出だ。ベテランのラニガン軍曹ならきっと……)
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