第16話 ルー・ガルー

 地面に転がるパイロットをよそに、『フレッシュゴーレム』は黒いAMの侵食を続けていた。


 胴部もある程度侵食したところで、フレッシュゴーレムのコクピットのディスプレイにモデル図のようなものが現れた。

 中心に丸い金色の何かがあり、その周りに等間隔に三つ、緑色をした丸いものがある、そんな図だ。

 そこに新たに黒い丸が近づいている。

 すると緑の三つの丸が、ひとつの一回り大きな丸の図と入れ替わりながら点滅し始めた。


「なんだこりゃ。もしかして俺の許可を求めてんのか? 三つの緑の丸を……一個にまとめる、って意味かこれ。何か知らんが、好きにしたらいいんじゃねえの」


 バレットがそう言うと、その言葉に呼応するかのように、フレッシュゴーレムの機体がドクンと鳴動した。

 そして次に、ディスプレイ上の黒い丸が中心の金色の丸に接近してくる。

 これも返答を求めているようで、黒丸が点滅をし始めている。


「ああ許可許可。もう結果だけ教えてくれ」


 今の謎の状況はすべて、『人造アニマ』なる謎のスライムが急にMDIから染み出してきたことに端を発している。

 腹が減っているということだったし、バレットがそう促したこともあるし、おそらくあの金色の血管のような触手で黒いAMを捕食しているのだろう。

 このディスプレイの表示はその進行度によって、何かしらの許可をユーザーに求めてきているのだと思われるが、バレットはそういう作業の途中でいちいち確認を求められるのが嫌いだった。


 OSのアップデートをするなら勝手にしてくれ。いちいち確認のダイアログとか出さないでくれ。あと確認が必要なアップデートをやらずに残しておくのもやめてくれ。設定画面からいちいち見に行くのが面倒だ。ねっとふれーむわーくって何だよ知らねえよ勝手にアップデートしろよ。


 そういう気持ちを込めて、すべて任せるから結果だけ教えるように強い意志で回答した。


 すると、ディスプレイの中でモデル図が目まぐるしく変化していき、たまに機体全体も鳴動したりもし、そんな感じで、おそらくは人造アニマの“空腹”が満たされていった。


 ひと通りの変化が終息したのか、静かになったディスプレイのモデル図を見てみると、中心の金色の丸はそのままに、下方に一回り大きな緑色の丸、そしてその2つを覆うように半円状に薄く展開している黒い何かがある。この黒い何かはさっきまで黒丸だったものだろう。

 手元を見れば、バレットの肘のあたりまで覆っていたスライム触手がするすると戻っていくところだった。

 戻った触手は元のMDIと同じ、金属質の半球状へと変化する。

 ただし色だけは戻らず金色のままだ。

 機体の外はというと、目の前に鎮座していた黒いAMは消えていた。足元に食べ残しのような残骸が少しだけ落ちている。


 これでようやく空腹というか、飢餓とやらは治まったのだろうと、マニュアルに則って機体のチェックをしてみる。

 それによれば。


 どうやらフレッシュゴーレムは、やはりあの黒いAMをほぼ吸収してしまったらしい。

 元々のサイズの1.5倍ほどに大きくなっている。

 セルフチェック画面で見る限りでは、機体各部の装甲がフレスコ画めいているのは変わらず、ただし装甲の色は黒に変化している。フレスコ画の隙間から金色の光が覗いているのも変わっていない。

 失ったはずの両腕はちゃんと生えており、さらに指先からは鋭い爪のようなものが伸びている。

 これではAM用の携行武器は装備できないな、と思いながら腕を調べてみると、両の手のひらに銃口らしきものがあった。どうやら前腕部にマシンガンが内蔵されているらしい。

 頭部もツギハギゴブリン顔から、黒いAMに似た狼っぽいシャープなものに変わっている。その装甲はもちろんツギハギなのだが。

 さらに下半身だが、これもあの黒いAM同様、逆関節に変化していた。


 もはやフレッシュゴーレムだったころの面影などなく、どちらかと言えばあの黒いAMが狂化──もとい強化されたかのような外見となっていた。


「ほー……。すげえなAMって。どんな技術なんだこれ。アルティメットな細胞でも搭載されてんのか。ていうか自前でこんなことできるならドクの改造って別に要らなかったんじゃ」


 さらに変わっていたのは、そのセルフチェック画面の機体名だ。

 そこには『フレッシュゴーレム』ではなく、『ルー・ガルー』と表示されていた。


「名前が勝手に決まるってのはこういうことか……。便利っちゃ便利、なのかな」


 ともかく、バレットの愛機がその姿も名前も大幅に変化してしまったことは確かだ。

 であればすぐにでも確かめるべきことがある。


 そう、シミュレーターモードだ。

 前回のシミュレーターではバレットの乗機はフレッシュゴーレムだった。

 では今シミュレーターモードを起ち上げたとしたら、おそらく乗機はルー・ガルーになっているはず。

 感覚をつかむためにもステージ1から始めるべきだろう。


「よーし、早速──ああ!? なんだあ?」


 しかしシミュレーターモードは起ち上げるなりいきなり強制終了されてしまい、つい先ほどと同様にアラートが鳴り響いた。

 レーダーを見ると、ここに近づいてくるエネルギー反応のようなものがある。

 先ほど機体の外、倉庫の片隅でドクが見ていたのはこれと同じタイプのレーダーだったはずだ。バラした『ゴブリン』のレーダーで、このコクピットに使わなかったものを利用しているものだ。

 あの時、アラートが鳴り、ドクが反応に気付いた後、ほとんど時間をおかずに壁が黒いAMに破壊されていた。

 それを思い出すに、今回の反応の移動速度は黒いAMよりかなり遅いらしい。


 バレットが黒いAMに負けたのは、パイロットの操縦技術の差もさることながら、機体性能、特にスピードによるところも大きかった。

 初期装備の二脚では逆関節二脚に速度で敵わないのも無理はない。そういうものだからだ。


 そして今。

 黒いAMのスピード、そしてカッコ良さの源である逆関節二脚は、新型AMルー・ガルーとしてバレットのものになっている。

 であれば、あの黒いAMより遅いであろうこのエネルギー反応など、恐れるには足らない。


 今度こそAM戦の初勝利を飾ってやろうと、バレットは崩れかけた倉庫で敵が近づいて来るのを待った。






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