第14話 力が欲しいか

「なんだ、こりゃ……?」


『なんだ、じゃねえのよ。現実が受け入れられないのか? お前は負けたってことだよ』


 バレットが呟いた言葉はマイクが拾い、外部スピーカーによって黒いAMにも届けられたようだ。


「今はお前に話しかけてねえんだよ。いちいち独り言に反応すんじゃねえよタコ」


『わけわかんねえこと言ってんじゃねえよ。こっちも暇じゃないんだ。投降するなら早くしろ。でなきゃマジで撃ち抜くぞ』


 黒いAMのパイロットのことは無視することにし、手元をもう一度よく見る。


 うぞうぞと蠢く変質MDI。

 何がしたいのかと観察していると、どうやら液状と化したその一部を針のように尖らせ、バレットの手のひらを刺そうとしているらしい。

 禍々しい色といい、悍ましい動きといい、もしかして手のひらからバレットの内部へ侵入しようとしている、のだろうか。

 しかし残念ながら、バレットの皮膚はレベル1の時点ですでに注射器の針すら通さないほどの防御力だった。

 この高度に発達した文明の粋を集めたであろう医療技術で作られた注射器の針を通さなかったのだ。

 怪しいスライムの攻撃など通すはずがない。


 試しにともう片方の手も同じようにMDIに置いてみると、そちら側も金色のスライムに変化し、バレットの手をまさぐり始めた。


(なんなんだこれ。シミュレーターのマニュアルにゃあこんな妙な仕様は書いてなかったぞ……)


 マナ・マシン用と聞かされていたので敢えて触っていなかったが、見た感じではこの半球状のインターフェイスは金属製だった、はずだ。

 このように色が変わってグネグネするなど常識的に考えて有り得ない。練れば練るほど色が変わる駄菓子じゃあるまいし。いやあの駄菓子ですらひとりでにそうなったりはしない。もしそうだったら子どもは泣くし親御さんはびっくりしてしまう。


 金色のスライムはそれぞれしばらくバレットの両手をまさぐっていたが、やがて諦めたのか、針でつつくのをやめてしっとりと纏わりつくように動き始めた。

 針の代わりに触手状となったスライムは、バレットの手首を越えて前腕部をたどり、肘の手前までのあたりを完全に覆うと、一旦動きを止めた。


 スライムが落ち着いたと見たところで、バレットはこれを【鑑定】してみた。わけがわからないものは【鑑定】するに限る。

 その結果、このスライムの名前は『未完の人造アニマ』だということがわかった。どこかで見たことがある名前だ。

 が、思い出せないということは、聞いた瞬間にどうでもいい情報だと判断したということだ。どこで何が役に立つかわからないため、得た情報はなるべく覚えるようにしているが、さすがに数日前に食べた食事の内容とか、拾ってすぐ捨てたガラクタの情報とかまではいちいち覚えていない。

 そして名前以外の情報は一切不明だった。詳細欄にはただひたすらに『飢餓飢餓飢餓飢餓……』と単語が並んでいる。


(相変わらず大した役に立たねえな【鑑定】は……)


 詳細はわからないものの、とにかく腹が減っているということだけは伝わってくる。

 バレットの前腕をしっとり包みこんでいるのも、空腹ゆえのことなのだろう。


(フレッシュゴーレムのインターフェイスの『人造アニマ』が、腹が減ったからってこの俺の腕に纏わりつく……か。ふん、なるほど? 俺のヘマで両腕が失われたんだから代わりにその腕を寄越せ、ってところか?)


 確かにフレッシュゴーレムの両腕が吹き飛んだのはバレットの操縦技術が未熟だったせいかもしれない。そういう見方ができるのは確かだ。

 しかしそれ以前に、実際にマシンガンで吹き飛ばした実行犯が目の前にいる。

 目の前にいるどころか、今度はフレッシュゴーレムの頭を吹き飛ばそうとそのマシンガンを突きつけている状態だ。


 どう考えても、両腕を奪おうとするならバレットからではなく目の前の黒いAMからにすべきだろう。


 そう考えた瞬間、そのバレットの『思念』ともいうべきベクトルを『未完の人造アニマ』が汲み取った、のが何となく感じられた。


 元々フレッシュゴーレムの装甲の隙間から漏れていた金色の光。

 その光が、千切れた両肩に脈打つように移動していく。

 そして両肩に集まった金の光が束となり、まるで実体のある触手か何かのように、黒いAMの両腕に向かって勢いよく伸びた。

 まさに光の速さかと思わんばかりの速度で伸びたそれは、黒いAMの両腕に到達すると、そこからうぞうぞと金色の血管のようなものでその腕を覆い始めた。

 なんか侵食してるっぽいな、ということが見てすぐ分かる光景だ。

 実に悍ましいシーンだが、ある程度厨二病を嗜んでいれば、まあカッコいいんじゃないかなと思えなくもない。


(ほう……。若干キモいが、面白えじゃねえかフレッシュゴーレム)


 肩から伸びる光の束も、いつの間にか血管状のボコボコした触手に変化していた。伸びるにつれ次第に太くなっているそれは、黒いAMの両腕と同化し境界線が曖昧になりつつある。

 フレッシュゴーレムの頭部に突きつけられていたマシンガンも同時に取り込んでおり、もはやどちらがどちらを拘束しているのかわからない状況である。


『……な、なんだこれは! なんなんだ! 何をしている! やめろ!』


 敵パイロットが焦燥感の滲む声で叫ぶが、やめろと言われたところで止まりはしない。

 黒いAMの両腕をあらかた支配下に置いたらしい金色の光は、今度は胴体や頭部にまでその魔の手を伸ばしつつあった。


『やめろ……! やめろォ! お、俺の中に入ってくるなァ!』


 チェックメイトしたはずの状態から急にオカルト大逆転されたせいか、黒いAMのパイロットは混乱して妙なことを口走っている。


(声からして、パイロットは若い男だよな。いったい男のどこから中に入ろうとしてるんだか、このスライムは……)


 腕より表面積が小さいせいか、頭部はあっという間に血管に飲まれてしまった。

 頭部のコクピットの中がどうなっているかまではわからないが、覆われてしまう前の悲鳴ですらあの様子だったのでは、推して知るべしといったところか。


 しかし目的がフレッシュゴーレムの両腕部の修復であるなら、パイロットは必要ない。


(腹を壊すぞ、そんなナマモノなんて食ったら。ペッしろペッ)


 このバレットの『思念』も問題なく人造アニマに伝わったのが感覚で理解できた。

 人間は必要ない、とちゃんと学習したのか、頭部を覆う血管の隙間から、パイロットスーツらしきスタイリッシュな防護服に包まれた人間が吐き出され、ドサッと音を立てて倉庫の床に叩きつけられる。

 黒いAMの全高は20メートル前後ある。

 そこから無防備な体勢で放り出されたらタダではすまない。が、防護服のおかげか、それともマナ・マシンで強化されているからか、倒れ伏すパイロットは呻きながら身動みじろぎをしている。元気かどうかは不明ながら、ただちに死ぬようなことはなさそうだ。


(さて。お前の飢餓がいつ治まるのかわからんが、あとは好きにしていいぞ)


 すると、フレッシュゴーレムはその全身からさらに金色の血管を生やし、黒いAMの全身を侵食し始めたのだった。





 ★ ★ ★


こいつ、戦いの中で成長している……!(物理)

ってやつですね。王道展開。


王道展開実績解除リスト

・ジャンクの山からワンオフ機を建造

・前世で鍛えたゲーマースキルで操縦技能底上げ

・こいつ、戦いの中で成長している!?

・主人公機の隠された力が覚醒


こうしてみると意外とちゃんとやってる感ありますねぇ……。あるか……?

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