第13話 強襲! シャドウウルフ!

「よっしゃ倒したぞクソが! さて、次はステージ21か。もうシミュレーターっていうか単なる死にゲーになってるが、次はどんなボスが──」


 仮想世界の中の自機を先に進めようとしたその時、シミュレーターモードが突然強制終了し、警報のような音がコクピットに鳴り響いた。


『アニキ! 何かがこっちに向かってきてる! すごいスピードだ! もうすぐそこまで──うわあっ!』


 ドクの叫び声と同時に、元倉庫の壁が外側から破壊された。

 ドクがガラクタ箱を放り出し、背後の裏口から逃げていくのがディスプレイの端に見えた。

 シミュレーターで学んだ通り、このディスプレイは機体の外部のほぼ360度全域を映し出しているようだ。


 ドクがちゃんと逃げたことにホッとしつつ視線を前に戻すと、壁を破壊した犯人が姿を現すところだった。


 それは黒い装甲に覆われた、『フレッシュゴーレム』と同程度の大きさの機動兵器──AMアサルト・マギアだった。

 犬のような形状の頭部をしている。正確には、マズル犬の鼻の下に顔があるので、犬頭の帽子をかぶった人間のような頭部、だろうか。

 上半身はスリムな人間型で、両手にそれぞれマシンガンらしきものを装備している。

 下半身は獣のような形状だった。

 カカト立ち、いわゆる逆関節型である。


「逆関節か! かっけえな!」


『フレッシュゴーレム』の禍々しい歪な人型も嫌いではないが、逆関節にはまた別のロマンがある。

 バレットは前世、とあるロボット対戦ゲームで好んで逆関節パーツを使っていた。積載量は少ないながら、機動力が高いのが特徴だった。


『──声が若いな。少年か? その正体不明のAMに乗っているのはキミか? なぜそんなものに乗っている。そいつから降りることは可能か?』


 黒いAMからそんな返事があった。

 どうやらバレットの言葉が聞こえていたらしい。

 そういえば乗ったままドクと会話をしていたのだった。外部スピーカーがオンになっている。

 あとでオフにしておこう、と思いつつ、黒いAMに答える。


「降りるのは簡単だが、降りる気はないぞ。なんで乗ってるのかって、こいつが俺のAMだからだ。

 質問はそんだけか? じゃあ次はこっちの番だ。

 なんでうちの倉──格納庫の壁を壊した? 弁償する気はあるか? もしカネがないってんなら、あんたが今乗ってるAMで手を打ってやってもいいぞ」


 すると、黒いAMはしばらく沈黙した後、ゆっくりと宣言した。


『……今法令を軽く調べたが、この廃倉庫の壁を破壊したのは、捜査上の特例処置ってことで不問にできそうだ。捜査内容は、未登録の機動兵器の押収ってやつでイケる。こいつは後出しの報告書でも認められるみてえだからな。

 ラビッシュタウンに手出しができねえのは、ここがあくまで聖域だからだ。その聖域にAMなんて機動兵器が置いてあるなんざ、どこの勢力からしても認めるわけにはいかんはずだ。俺の捜査が咎められることは多分ない。

 つまり、俺には壁を弁償する気はないってことだ。ついでに、お前が乗ってるそのAMを押収する権限もある。

 わかったらとっとと降りろ。怪我しねえうちにな』


「断る。コレは俺んだ。あと、壁も弁償してもらう。何かゴチャゴチャ言ってたが、外の法律も外の事情も知ったことか。俺の庭に来たんなら、お前が俺のルールに従え。

 お前こそ降りろ。壁の代金はそのAMで勘弁してやる」


『あんまり大人をおちょくるもんじゃねえぞ。もう一度言う。降りろ。降りて投降しろ』


「てめえこそ、あんまり子どもをナメんじゃねえぞ。お前こそ降りろや。降りて全裸になって這いつくばって謝罪しろ。身の程もわきまえずにちょっかいかけて申し訳ありませんでした脱いでお詫びしますってケツに花束を──」


 しかしバレットは最後まで言うことができなかった。

 セリフの途中で黒いAMは両手のマシンガンを撃ってきたからだ。


「うおっ!?」


 シミュレーターで鍛えられたバレットの反射神経は咄嗟にペダルと操縦桿を操作し、フレッシュゴーレムを横っ飛びに回避させてみせた。

 銃弾がフレッシュゴーレムに届く前にその場から移動できたのは、「相手が撃つ」と判断した瞬間にはすでに操作が終わっていたからだ。

 前世で格闘ゲームをやり込み、レベルアップによってあらゆる能力で人間を超え、さらにシミュレーターで何度も撃破されながら反復訓練をしたバレットにとって、敵AMが引き金に指をかけたのを見てから反射で回避するなど造作もないことだった。


 が、シートベルトなどで固定されていないコクピットでは、まだ身体が小さいバレットは体勢を維持できない。


「うおっとと!」


 慣性に身体を流され、咄嗟に踏ん張ったせいで想定外にペダルを踏んでしまう。

 そのことに気付いた瞬間、ペダルを戻すためにレバーに力をかけたことで、握りの部分のボタンをいくつか押してしまった。

 その操作により、フレッシュゴーレムが床にしゃがみこみ、その場で下段狩りの回し蹴りを放つ。

 振り回された脚部は、そこらに放り出してあった『ゴブリン』のヒートホークを蹴り飛ばした。

 斧は回転しながら黒いAMに向かう。

 想定外のことだったのか、斧は黒いAMの首筋に柄の部分が当たって跳ね返った。


『避けた上に反撃だとっ!? ちいっ! 子供と思って甘くみたか! 威嚇の必要はねえみてえだなっ!』


 どうやら先ほどのは威嚇射撃だったらしい。

 そして不幸な事故で飛ばされたヒートホークが反撃と判断され、黒いAMのパイロットの「戦闘スイッチ」が入ってしまったようだ。

 次は確実に当てるつもりで発砲してきた。

 2丁のマシンガンの射線から逃れるため、バレットは狭い倉庫の中でフレッシュゴーレムを右へ左へと回避させる。


 身体が固定されていないせいで上手く操作ができないが、そうであるが故に回避にランダム性が生まれ、敵のマシンガンの弾道を混乱させることができているようだ。

 言ってしまえば半分はレバガチャのようなものである。


 埒が明かぬと思ったか、黒いAMはその逆関節のバネを生かし、機動力で距離を詰めてきた。

 相対距離が縮まれば、マシンガンの弾幕を回避するのが難しくなる。


「おっ!? おっ!? おおおおおっ……!?」


 さすがは正規のAMと言うべきか、その武装であるマシンガンの打撃力は中々のもので、フレッシュゴーレムのツギハギ装甲は当たるそばから砕かれ飛ばされていく。元になったパーツが装甲の薄さに定評のあるノーマルゴブリンであるせいもあるだろう。


 必死のレバガチャで回避を試みるも、距離を詰められたことで相手のエイムも精度を増していき、ただランダムなだけの回避では躱しきれなくなってきた。


「あだっ!?」


 そしてついに、装甲が剥がされた肩の付け根にクリーンヒットが入ってしまった。

 しかも、どうやらそのクリーンヒットは偶然ではないらしい。

 敵の弾は連続して同じ箇所に当たり続け、数発で肩の関節を破壊し腕ごと吹き飛ばされてしまった。

 マシンガンの数発なので、一般的には一瞬の出来事だ。が、もちろん感覚が強化されているバレットは弾が当たる一発一発の衝撃を肌で感じていた。


「やべっ、右がやられた!」


『ほー。すぐに気づくか。子どものくせに異常な認識力だな。もしかして、どっかの特殊なマナ・マシンでも入れてるのか? それより、左っ側ももうじきに貰うぞ』


 敵パイロットの宣言通り、その後すぐに左腕も吹き飛ばされていく。

 立て続けに『両腕』というウェイトを失うことになり、バランスを崩して身体を揺らしながら膝を付いたフレッシュゴーレムのその膝を、いつの間にか眼前にまで近づいていた黒いAMの足先が踏みつけた。

 そしてマシンガンをフレッシュゴーレムの頭部に突きつける。


『チェックメイトだぜ、ガキ』


 両腕は失われ、片膝も黒いAMに踏み抜かれた状態で、頭部のコクピットにはAM用マシンガンの銃口。

 まさに、敵パイロットが言った通りチェックメイトの状態だ。


 せっかく手に入れたばかりのAMおもちゃ

 それを一瞬で、ほぼ一方的に無力化され、悔しく思う気持ちは大きい。

 しかしバレットがAMの操作を覚えたのは今からほんの数時間前のことだ。

 シミュレーターで訓練を積んだとは言え、その土俵で命のやり取りをするプロと比べればまさしく児戯に等しいだろう。

 一方的にやられたとはいえ、なんとか戦闘の形を成せていたのは、バレットの人間離れした身体能力のおかげに過ぎない。


 仕方がなかった。

 しかしそう思う一方、やはり悔しさは捨てきれない。

 操縦桿セットの扱いには慣れたつもりだったが、ゲーム初心者レベルを脱することはできなかったということだ。


(……ちっ。ムカつくぜ。きやがるなぁ……!)


 手元のレバーを見て、ふと、その内側にある半球状のインターフェイスに視線を移す。


 もし、このMDIとやらを使うことができて、このフレッシュゴーレムを思い通りに動かすことができたのなら。

 もう少し、あの黒いAMとパイロットの実力に近づけただろうか。


 そんな考えがバレットの脳裏を過ぎり、何の気無しにMDIの半球に触れてみる。


「!?」


 触れた瞬間、銀色だったMDIの色が一瞬で禍々しい黄金色に染まり、さらにどぷりと液状に変化してバレットの手を包み込んだ。





 ★ ★ ★


君さあ、何かっつうと黄金出してくるし、そんなに金好きなん?

と思われるかもしれませんが、違うんです。今回の金色にはちゃんと理由があるんです。


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