第2話 姉の言い分
伯爵は両親に手紙を書いてくれて、私は客人として過ごした。
……このとき、ここで過ごせて自分の気持ちが決まったと思う。
ずっと勉強し続けて、領地をよくしようと考え、マシュー様と語り合っていたあの日々は、つらかったけどやり甲斐があり楽しかったと思ったのだ。
伯爵は、家の差配をしてほしいのだと思う。
だけど、私にはその感覚がない。
「……ごめんなさい。私……向いていないと思います」
そう断った。
私はあの貧乏子爵家を継ぎ、切り盛りしていくように教育され生きてきた。
お金持ちの伯爵夫人として優雅に家を切り盛りするなど無理なのだ。
伯爵は笑って許してくれた。
「わかっている。君は常に走り続けてきたんだろう? 今は、ちょっとだけ羽を休めていると思いなさい。領地経営の話がしたいのなら、任せている者を呼ぼう」
……フレッド・ツインズ伯爵はとてもいい人だった。
この人と結婚したのなら、きっとゆったりとした人生を送れるのだろう。
でもそれは、私が今まで生きてきて、苦労して学んできた全てを捨てることになる。
どこかで活きてくるのかもしれないが、そうじゃないんだ。
私は、それをどう活かすか、自分で決めたいんだ。
私は、ものが捨てられないし、ひとつのものに愛着を持つタイプだ。
妹に奪われ続けてこういう性格になったのか、元からなのかわからない。
私は今までの人生を、学びを捨てられない。
捨ててもかまわないのは、両親と妹だけだ。
あれらがあると、私の大切なものを捨てないといけない。
なら、さっさと処分しよう。
*
「日程が決まったよ。では、君のご両親と妹さんに会おうか」
伯爵の言葉に、顔を引き締めてうなずく。
「次こそ、言いたいことを言います」
「そうしなさい。ただ――」
伯爵はちょっとだけ言い淀んだが、続きを言った。
「相手の言い分も、しっかり聞きなさい。今回のことは私も君の両親に全てを伝えていなかったことが原因だ。察することができない人間相手もいる。だからきちんと伝え、そして相手の言い分もしっかりと聞くんだ。いいね?」
「はい、わかりました」
私は再度、しっかりとうなずいた。
伯爵とともに我が家へ帰った。
「フレッド・ツインズだ。先触れにて話は通してあるが、当主と夫人、そして令嬢はご在宅かな」
「はい、応接室にてお待ちしております」
家令の案内で応接に入ると、三人が仲良く並んで座っている。
……妹は、ギラギラと私を睨んでいた。
私が戻ってきたから機嫌が悪いのね。
ところが。
私と伯爵が着席したとたん、
「まさか、もう飽きたの? 飽きてまた、私に押しつけるの? ……いい加減にして!」
……妹が、意味不明にブチキレたんですけど。
私は啞然とする。
「……飽きた? 今そう言った?」
「さんざん飽きたお古を私に押しつけてきたじゃないの! 何もかも! 私はいっつも『妹だからいいわよね?』って押しつけられてきたわ! 自分ばっかり新品を使ってさ! 婚約者まで! いい加減にしてよ! 人はモノじゃないのよ!」
妹の怒鳴り声に私も怒鳴りながら反論する。
「当たり前でしょう!? むしろ、あなたが何もかも奪ってきたんじゃないの! 私のお気に入りを何もかも! 私は、買うたびにあなたに奪われていったのよ!」
「私がいつお古をほしいなんて言ったのよ!? 私は、新品がほしいっつってんのよ!」
私が奪われてきたものは、妹にとっては中古品でいらないものだったと聞かされ、愕然とした。
……なら、返してよ!
私は、お気に入りを手放してきたのに……!
伯爵が私たちを宥めるように割って入った。
「私は先日、姉であるシシリー嬢の話を聞いた。今日は、妹である貴女の話を聞かせてくれないか」
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