第3話 妹の言い分(マリリン視点)
そう。
『妹である』ということが私にとって最悪の人生を歩ませた。
何もかもすべて、姉のお古を使わされるんだもの。
私に与えられる全てのものは時代遅れのちょっと壊れたお古で、新品など一度も買い与えられたことがない。
お茶会に参加するためのドレスも、どこかしらにシミがあったり、袖口が汚れていたり。
『シシリーがね、大切に着てとっておいたのよ。マリリンにぜひ着てほしいって譲ってくれたの』
――そう、デビュタントのドレスすら中古だったのだ。
皆が真っ白のドレスを着ている中、私は黄ばんだレースの、あちこちにシミのあるくすんだ白いドレスを着た。
両親は大げさに褒めたたえてきたけど、私は恥ずかしかったし、悲しかった。
貧乏だって言われている男爵家の令嬢ですら、シンプルだけど新品のドレスを着ているのよ?
その中で、私は小汚い中古のドレスを着ているの。
その男爵令嬢も、周囲の華やかなドレスを見てションボリしていたけど、私を見た後、うなずいた。
そうね、『アレよりはマシ』って思ったんでしょうね。
私は悲しくて悔しくて、こんなシミだらけのドレスは嫌だって言ったのよ。
いい?
私は、中古品のドレスが嫌だっていう意味で言ったのよ?
そしたら、勘違いした姉が暗い色のドレスを着るようになったのよ。
違う! そうじゃない!
与えられるのは時代遅れの髪飾り、ネックレス。
笑い者にされるのがわかっていて、そんなのつけたいと思う?
そしたら、姉がちょっとだけ使ったのだからって寄越してきたわ。
なら、私に新品を使わせてよ! それを姉にあげればいいじゃん! なんで頑なに中古品なのよ!
しかも、何かにつけて『姉に新品をねだられて買ってあげちゃったから、お金がなくて』って弁解を親から聞かされる。
……あぁ、そうね。
姉は跡取りですもの。
家庭教師だって、姉にはつけてくれるけど私はお金がないからつけてくれない。
たまに一緒にどうぞって言われて話を聞くけど、5年も差がある上に、今までほとんど教育を受けてない子がついていけると思ってんの?
嫌がらせとしか思えない。
でも、しょうがない。
うちは貧乏で、跡取りである姉にしかお金をかけられないんですもの。
どこかに売られるよりはきっとマシなのよ。
ずっとそう言い聞かせていたわ。
――姉の婚約者であるマシュー様がいらっしゃるときは、ちょっとだけ嬉しかった。
彼は、私にも新品をくれるから。
「シシリーとお揃いだよ」
って髪飾りをくれたときは嬉しかったなぁ。
なんか、なくしたらしい姉が、私が盗ったとか言いがかりをつけてきたんでケチがついちゃったけど……。
あ、そういえばお母様もマシュー様にもらったみたいで同じのをつけてたっけ、母娘三人お揃いなんだなって思ったな。
……そう。確かにマシュー様はいい人だし、私もマシュー様にだけは今言った愚痴を言ったけど。
けど!
婚約者くらい、新品を選んでもらえるって思ってたのよ!
……蓋を開ければ、コレよ。
姉はマシュー様のことが気に入らなかったのか、私に来ていた縁談を盗って、マシュー様を押しつけた。
姉がその結婚に乗り気だから私がマシュー様とこの家を継げって、父に呼び出されたマシュー様と並んでその話を聞いたとき、呆れてものも言えなかった。
『お金持ちで、家を切り盛りすればいいだけだからソッチがいい』ってねだったんですって!
私は愕然としたし、マシュー様も愕然としていたわよ。
婚約者すげ替えなんて、聞いたことないんですけど!?
マシュー様は姉に確認したかったようだけど、姉は新しい婚約者に会いにとっとと出ていってしまったらしく、家に居ない。
……ちなみに私は、いっさい教育を受けてないんですけど?
父様も母様も、「今からやれば大丈夫」みたいなことを言ってるけど、苦労するのって私よね?
マシュー様も、ぶっちゃけ違約で婚約破棄したかったと思う。
ふざけんなって思うでしょ、フツー。
しかも、領地経営は姉が勉強してたの。マシュー様は外で働く予定だったの。
それが、私だけじゃ頼りないからってマシュー様も一緒に勉強することになったのよ?
何もかも話が違うって怒ってもおかしくないわよ。
私はマシュー様に婚約破棄を勧めたけど、彼は虚ろに笑って言った。
「ハハハ……。確かに破棄したほうがいいんだろうけど、婿入りできるし、君もここから破棄したら、相手を探すのに苦労しそうだしね……。しょうがないよ、二人でがんばろう。……念のため、には手紙を出してみるよ。誤解でこうなったのかもしれないし……」
そのわりに全てを諦めたような表情だったけど……。
私も諦めて勉強することにした。
まぁ、これからは私にお金を使ってもらえるのかなという期待がほんの少しだけあったんだけど……姉は、嫁入り先で何もかも買ってもらえるから、引き続き私は姉の置いていった全てのお古を使うように、って言われて絶望した。
姉の嫁入り先に全部送りつけてやろうかと思ったわよ!
――みてなさい、私が当主の座を継いだら、絶対に新品を買い揃えてやるんだから!
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