飽き性姉と欲しがり妹

サエトミユウ

第1話 姉の境遇

 私、シシリー・モルガナは子爵家の長女で二人姉妹の18歳。だから子爵家は私が婿をとって継ぐことが決まっている。

 そのため、5歳からずっと勉強の日々だった。

 最近は実務も増えているため、ほとんど休みがない。


 ようやく一区切りついたので、休憩をするため部屋を出て廊下を歩いていると……。

「あら~マリリン、よく似合っているわよ!」

 という声が聴こえてきた。

 チラリと声のほうを見ると、母が私の髪飾りをつけた妹を褒めそやしていた。


 ――私には、妹を溺愛する両親と、私のものをほしがる妹がいる。

マリリンがそれをほしがっているわ。あなたは姉なんだから、妹に譲りなさい」

 そう言われ持っていかれた。

 だから、妹は物持ちだ。


 しかも、すぐ壊す。

 昔、大事な人形を取り上げられ、それを壊された。

「壊されるんなら、あげたくない!」

 泣き叫んだら、そんな狭量な子にはもう人形は買い与えないと言われて終わった。

 そのとき諦めた。


 ……妹はどこかへ嫁ぐし、私が子爵家を継いだらもう妹に私の大切なものを渡さなくて済む。

 何を持っていかれようとも、もういい。好きにすればいい。


 それにしても……あの髪飾りも持っていったの。

 あれは幼い頃に婚約者からもらったもので、見つからないよう隠しておいたのに。

 部屋を漁られているようで、婚約者からの贈り物まで勝手に持っていってしまう。

 抗議しても「あなたは姉なんだから」って言われるだけ。


 髪飾りは、マリリンには似合っていない。

 だって、私の濃い茶色の髪に合うようにと贈られたものだったもの。

 薄いグリーンのマリリンの髪に合うはずがない。

 だけど、母は髪飾りをつけたマリリンを熱心に褒めそやしていた。


 佇む私を見かけた父が、

「何をさぼっているんだ。しっかり勉強しなさい」

 と、叱る。

 ……マリリンは、母と遊んでいるのに。

 そう思ったけれど、実際私が子爵家を継ぐのだから勉強はしなくちゃいけない。

「……申し訳ありません。すぐ戻ります」

 と謝り、歩きだした。

「……まったく、陰気で可愛げのない奴だ。もう少し愛想良くしないとマシュー君に愛想を尽かされるぞ」

 という、父の声が後ろから聴こえてきて、耳を塞ぎたくなった。


 私の婚約者のマシュー・メルロー子爵令息は3つ年上の穏やかで優しい方だ。

 ただ、優しすぎるのが困る。

「君の妹さんだからね。できるだけ仲良くしたいんだよ」

 と、困った顔で言いながらマリリンとも仲良く会話をしているから。

 たまに二人きりで話しているときがあって、モヤッとする。

「彼女もいろいろ思うことがあるみたいなんだ」

 そんなことを言われる。

「……でも、姉の婚約者と二人きりで話すのは、はしたないですわ」

「まだ子どもなんだし、君の妹じゃないか。……なら、三人で話さないか?」

 マシュー様はそう言ったけど、マリリンが嫌がったらしくて一度も実現はしないままだった。

 それでも、私とマシュー様は将来のことを語り合い、貧乏子爵家で悪いけれど、それでも二人で協力し支え合っていこうと誓い合っていた。


 だから――

「子爵家は、マリリンに継がせる。お前にはフレッド・ツインズ伯爵に嫁ぎなさい」

 と書斎に呼ばれて父にそんなことを言われた際、頭が混乱した。


「――え? でも……マリリンは、何も勉強をしていないですよね? 無理でしょう? それに、婚約者のすげ替えだなんて非常識ですわ。マシュー様……いえ、メルロー子爵家だってそんな話を受けないでしょう」


 私は呆然としながらも反論した。

 私の様子などまるで察することはなく、父は機嫌よく言う。


「マリリンは、マシュー君とともに今から学べば大丈夫だろう。そもそも子爵家を継ぐのは当分先の話だ。マシュー君もマリリンと仲が良いから乗り気だったよ。それよりお前は、フレッド・ツインズ伯爵に失礼のないようにしろ。彼に支援していただければ、子爵家は安泰なのだからな。妹夫婦のためにも、お前はフレッド・ツインズ伯爵に従順に尽くすのだぞ!」


 妹に――マリリンに、婚約者までとられたんだ。

 お父様はマリリンの望み通りにするため、後妻の話を見つけて陰気で可愛げのない私を追い出そうとしているんだ……。

 そう理解した私は、部屋に戻るとベッドへ飛び込み、大声で泣いた。


 ……夕食も朝食も抜いたのに、家族の誰も私を心配をしない。

 それどころか、母は、

「あなたは姉なんだから、いつまでも拗ねるようなみっともない真似はやめなさい」

 と、部屋に入ってきて怒った。

 父も部屋を訪れ、

「すでに伯爵には伝えてある。今日が顔合わせだ。今からすぐに向かえ」

 と言ってきた。


 私は、泣き腫らし虚ろな状態を取り繕う気もないまま一人伯爵家に向かった。

 ……どう考えてもまともな結婚じゃない。


 訪れた伯爵家は立派だった。

 応接室に通され、私は身動ぎひとつせずただ黙って座っていた。

 髪はボサボサ、とうてい顔合わせで着るようなドレスでもない。化粧すらしていない。

 一晩泣き腫らした目が道中で腫れと赤みが引いたかわからないし、瞳は虚ろ。

 現れたフレッド・ツインズ伯爵はそんな私を見て苦笑し、

「意に添わないなら受けなくてかまわないよ」

 と、言ってくれた。


 その言葉で呪縛が解けたように、私は彼にノロノロと顔を向け、話した。

 両親が妹を溺愛し、何もかも妹から奪われてきたこと。

 とうとう当主の座と婚約者を奪われ、ここに嫁げと向かわされたこと。


 伯爵は私の話を聞いて困った顔をした。

「……そういった話だったのか。すまない、私にも責任がある」

 その言葉を聞いた私は訝しむ。

「……どういうことでしょう?」

「最初、君の両親は君の妹を相手として持ってきた。だが、私が若すぎると断ったのだ。そうしたら姉である君ならいけるのかと問われ、ギリギリ許容範囲だと答えた」


 私はその話に驚いた。

 伯爵がさらに語る。


「話の持っていき方からして危ういとは思っていたのだが、君の両親はどうしても支援目当てで君たち姉妹のどちらかと私を縁づかせたかったようだ。その後すぐに『君を向かわせるので宜しく頼む』と手紙が来た。かなり強引で失礼だったが門前払いもかわいそうだし、とにかく会ってみようと結論づけた」


「……両親が、本当に申し訳ありません!」

 なぜ私が謝らねばならぬのかとチラッと思ったが、伯爵が圧力をかければうちのような貧乏子爵家、すぐに潰れるだろう。


「いや、こちらも最初から断らなかったのが悪い。……跡取り息子はいるが、現在は宿舎に入っている。とはいえ、女主人がいないと家の細部に目が行かないため、再婚は必要だと周囲からせっつかれてね。……私自身がさほど乗り気でもないし私と再婚してもうまみが少ない。野心の少ない子爵家か男爵家の未亡人辺りが暮らしに困らなくなる程度の気持ちで嫁いでもらえないかと思って軽く周囲に話したんだよ。そうしたら君の両親が食いついてしまった。最初からちゃんと『未亡人で考えている』と伝えれば問題は起きなかったのにな」


 いや、普通は察すると思います。

 察しない、非礼で非常識の両親がおかしいんです。


「……私のせいで君の婚約がめちゃくちゃになってしまったようだな。申し訳ない。……であるなら、お詫びに少しだけ介入しよう。君の両親と妹に会わせてもらえるか? 話を聞きたい」

 伯爵はそう提案してくれた。

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