第2話 エクスシアの仕返し

「どうして毎日セックスしないと死ぬのか、説明しよう」


この世界にはマナとエーテルが存在する


マナはすべての生物の命そのものだ。


どんな動植物にもマナは宿る。


そしてエーテルは純粋じゅんすいなエネルギー。つまり石油や天然ガスのようなものである。


おれは機械のうでを取り付けたが、それを動かすのに外付けのエーテルバッテリーが必要になる。


エーテルを燃料に、おれの体内のマナを通して動力へと変換へんかんする。


という原理だが、そのときわずかだが体内のマナの波長が乱れてしまう、らしい。


マナの波長の乱れが大きくなると、意識の形が保てなくなる。


さらに大きく乱れると肉体がどれだけ機能してても中身が死んでしまうのだ。


「つまり、定期的にセックスして、将軍体内のマナの波長を正しい形に合わせなくちゃいけないということだ」


おれがエクスシアをおそう直前、胸に激痛が走ったことを思い出す。


「ちなみにセックスする相手は人間か、殲滅せんめつ天使に限られる。

 殲滅せんめつ天使は機械の体だが、マナの波長は限りなく人間に近い。つまり代用可能だ」


「……」


「機械相手じゃ気が進まないかい?」


そんなことはない。


むしろこれまでに見た女性よりも心をうばわれた。


「それともまさか、男相手のほうが良いと?」


「それはない」


「ま、失敗こそしたもののうらまないでくれ。命は助けただろ」


ヤクモ博士はかせについて正直うらみつらみはある。


ただそれ以上に、どうしてもっておけないことがある。


「エクスシアは今どうしてる」


「あの子は別の部屋へやいのってる。本人は別に気にしてないとは言ってたよ」


「……本当に気にしてないのか?」


「……あのジハルド将軍が、心配を?」


殲滅せんめつ天使は人の形をしているが兵器だ。


ゲームでは散々戦った敵ユニット。


でも確かな人の心のようなものを感じた。


なのでおれは謝罪しなくてはならない、と思った。


「どうでもいい。案内しろ」


ヤクモ博士はかせはエクスシアがいる部屋へやに案内した。


「開けていいか」


「ジハルド様、只今ただいま開けます」


ドアが開く。


「どうぞこちらへ」


席に案内される。


おれの体のことは聞いているか?」


「Yes、ヤクモ博士はかせからきました。

 事情はどうであれ、ジハルド様のすることは絶対です」


「それでも本当にすまなかった」


「……え」


エクスシアはおどろいた様子だった


粗暴そぼうなジハルドから謝罪を受けるとは思ってもなかったらしい。


「体は大丈夫だいじょうぶか」


「問題ありません。

 中枢部ちゅうすうぶの損傷さえ無ければ体はいくらでも代替だいたい可能です」


「では心の方はどうだ」


「…心」


しばらく逡巡しゅんじゅん


「ジハルド様のことを考えると、激しい苛立いらだちを感じます」


人形のような表情でずばりと言い放った。


「ジハルド様におそわれてから、感情のコントロールが上手うまくいっていないように思います。

 ですが性能は十全に発揮できます。」


おれの下で戦えると?」


「イエス。神の名のもとちかいます」


馬鹿ばかが」


おれもはっきりと物申す。


「今からここでお前をおかしてやろうか」


「っ……」


ふるえているぞ。おれこわいのだろ?」


おれは少し苛立いらだっていた。


こいつの浅はかな強がりを許してはこいつ自身がこわれてしまう。


何せこのエクスシアはジハルドがいやいやで裏切ったくらい繊細せんさいなのだ。


ゲームの話ではあるが。


ちがう。これは……」


「今のおれは性欲をコントロールできんぞ。

 やりたくなったらお前をおかしながら戦場をまわってやろう。それも毎日だ」


「……構わない」


だま小娘こむすめ

 必要以上の無茶をするな。もっと自分をいたわるのだな」


そしておれ部屋へやから出る。


部屋べやの外にはヤクモ博士はかせが居た。


やさしいのね。

 ほんとにあの将軍ジハルド?」


「知らん。それよりも今の戦況せんきょうについての情報をまとめて教えろ。それから娼婦しょうふを手配しろ」


「女の好みは?」


「ひどいブスでなければだれでも構わん」


その後、おれは自分の寝室しんしつへともどり、この国、バルディア神国の現状について考えた。


***


神王アマデウスが治めるバルディア神国しんこく


バルディア神国は、アルカナ共和国に侵攻しんこうし、今もなお戦っている。


そしてゲーム【破滅はめつの救世主】では主人公レオンの敵国として出てくる。


しかしゲームの設定としてではなく、実際の国としてみると、バルディア神国はあまりにもいびつで、がけっぷちな国である。


国土は蔓延まんえん的に、不治の病【厄災やくさい病】が流行はやっている。


老いも若きも次々と死んでしまう環境かんきょうの中、国民は神王アマデウスを唯一ゆいいつしんとしてあがたてまつり、救いを求めた。


つまり国民全員が、カルト信者なのである。


そして神王アマデウスは国民にこう宣言して、戦争を始めた。


『聖戦である。

 神が愛するなんじら子らよ。神聖なる戦いを始めよ。我らのけがれ無き土地をアルカナ共和国より奪還だっかんするのだ。さすれば【黙示録もくしろく厄災やくさい】ははらわれる。そして無限の救済きゅうさいなんじすべてにもたらさせるだろう。未来永劫みらいえいごう


そしてゲームだと、最後は主人公レオンが首都を占領せんりょうし、戦争せんそうを終わらせる。


バルディア国民の言う【黙示録もくしろく厄災やくさい】つまり厄災やくさい病の事であり、厄災やくさい病から人々を守る技術をレオンは発明する。


そしてレオンがバルディア神国の国民を助けてめでたしめでたし、本当の救世主はレオン様でした、というオチがつく。


この世界を生きているジハルド本人には悪いが、個人的にあまりにもやる気の出ない話である。


もはや戦争に負けた方がハッピーエンド、だなんて。


「とんだクソゲーだな」


そんなことをぼやくのだった。


***


ドアをだれかがノックした。


おそらくたのんでいた娼婦しょうふたのだろう。


「入れ……ん? んん??」


入ってきたのはエクスシアだった。


バスタオル一枚巻いた、ほぼはだかの姿であった。


「何がどうしたというのだ」


娼婦しょうふの方はお金をわたして帰らせました。」


「何を勝手な」


エクスシアはおれの至近距離きょりまで近づき、おれの目を見つめた。


「ジハルド将軍。わたしはバルディア神国の殲滅せんめつ天使エクスシアです。

 ゆえに」


エクスシアはおれきついた。


そしてベッドにおれの体をたおした。


わたしわたしをいわたる方法だなんて知りません。

 神王アマデウスの名のもとに戦い、人々を守ることがわたしあたえられた使命。

 将軍にあたえられた恐怖きょうふ屈辱くつじょくいかりを直ちにえて、わたしは元の性能をもどす」


「待て! 何をする気だ!?」


「将軍をおかす。

 レイプの仕返しだ」


機械仕掛じかけの天使は、バスタオルをぎ去り自ら素肌すはださらす。


柔肌やわはだに見えるような、うすいベージュのシリコン樹脂じゅし


はだのつなぎ目、パネルラインからは銀色の関節駆動くどうがちらりと露出ろしゅつ


明らかにメカ。


それでも美しい女性だと思わせるのは、ひかえめの美しい胸としりがあり、冷たい目線とふくらんだくちびる華奢きゃしゃな体につややかなかみがあまりにも美しいからだ。


エクスシアはおれのズボンをずらす。


がちがちに固まった一物いちもつがあらわになる。


「将軍、わたしはこれからこれを」


エクスシアは表情を変えることなく、おれ一物いちもつ交互こうごに見つめ……


「どうしたらいい?」


「——」


がちがちのバナナが半分しなった。


「やることは一つだろ!! やっちまうんだよ!! くそ、ちょっとえたわ!!」


「やるって、こう……手刀でずばっと」


ちがうし絶対に止めろ馬鹿ばか!! 分かんないなら貸せ!! お前の体!!」


おれはエクスシアをたおす。


「い、いや。それはでき……」


「だめだ。もう性欲をコントロールできん。自業自得じごうじとくだ」


***


「負けた。二回目も。悲しい」


おれの勝ちだ。勉強してから出直せ」


エクスシアはとぼとぼ部屋へやから出ていく。


(何の勝負だよ)


「気持ちよかったし、まあいいや」


つぶやき、乱れたシーツと布団ふとんを元にもどした。




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2025年12月26日 22:00
2025年12月27日 22:00

祈りの果ての殲滅天使<せんめつてんし> シャナルア @syanarua

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