祈りの果ての殲滅天使<せんめつてんし>

シャナルア

第1話 殺戮将軍に転生したら

一本のゲームのエンディングを見ていた。


タイトルは【破滅はめつの救世主】。


中世ヨーロッパ風ファンタジーで、悪の国と戦争する話。


特別な武器作ったり、レジスタンス率いたりして、敵のメカ兵団と戦うのだ。


ラストは敵の首都まで占領せんりょうしてクリア。


「まぁまぁ面白おもしろかったな」


率直そっちょくな感想をつぶやく。


そして何気なく職場の同僚どうりょうからもらったグミを食べる。


それが失敗だった。


「あれ、目の前が虹色にじいろ……」


何の因果なのか、同僚どうりょうがヤクの売人で、もらったグミは麻薬まやく入りであった。


同僚どうりょうにとっても想定外なことに、おれ麻薬まやく中毒者になる前に麻薬まやく中毒で死んでしまったのだ。


***


「っ! ハァ ハァ」


意識がよみがえった時、まず最初に感じたのは、激痛。


つまり泣きさけびたくなるほどの痛みだった。


「おや、麻酔ますいが切れたかな? もう少しだけ我慢がまんしてください、ジハルド様」


女の声。


白衣を着た女性だが、犬のような耳が生えている。


その女性が注射針をおれの首筋にして、おれの意識は途絶とだえた。


***


再度目覚めた時には、痛みはなかった。


ただし、異様に体が重い。


「あれ……ここは……?」


自分の体をよく見ると、明らかに体がでかくなっていた。


身長2メートルえの横綱よこづな体型。


そしてなにより、右腕みぎうでがサイボーグ化していた。


「何か……鏡みたいなもの……」


立ち上がり、室内にあった鏡を見つめる。


おれの顔じゃない、だと」


最初は混乱したが、このキャラに見覚えがある。


破滅はめつの救世主】に出てくる敵、殺戮さつりく将軍ジハルド・ザガンである。


作中屈指くっし卑劣ひれつかんかつ、残虐ざんぎゃくかつ、粗暴そぼうな男。


つまりきらわれもの


いや、敵役かたきやくとしてはただしいのだが。


具体的には、主人公レオン・アデンの暮らす町をジハルドは焼いた。


そのときジハルドは自ら先陣せんじんを切って、略奪りゃくだつ殺戮さつりくを楽しんだ。


ほかにも使えない部下を容赦ようしゃなく殺したり、められた時は人質ひとじちたてにしたり、敵の手足を切り落とす拷問ごうもんなどをした。


まごうことなき悪辣あくらつ非道なやつ


「しかし、こうしてみるとすげえなこの体」


全部でかい。


なかもでかいが、ぜい肉ではなく、シンプルに筋肉のかたまりだった。


たたかうための肉体美であった。


「やあやあ、どうやら目覚めたようだね」


さっき見た白衣を着た女性。


もしここが【破滅はめつの救世主】の世界ならば見たことがある女性だ。


「ヤクモ・ラン博士はかせか?」


「はぁーい、起きたらおはようだろ? ジハルド将軍」


「おはよう」


「おおっと予想外……ふつーの挨拶あいさつだ。

 うでと頭の調子はどうかな?」


サイボーグの右腕みぎうでを動かす。


思い通りに動かせる。


うで普通ふつうに動く。頭は……分からん

 どういうことか教えてくれ」


「教えるとも。まずはこっちから質問。軽く自己紹介しょうかいして」


「ジハルド・ザガン。バルディア神国の将軍である」


「じゃあこうなった経緯けいいは覚えてる?」


こうなった経緯けいいを思い出そうとする。


ジハルドの幼少期や青年期のことはおぼろげながら思い出せる。


しかし、直前の記憶きおくは思い出せないでいた。


「じゃあ説明しよう。

 がバルディアは、アルカナ共和国との戦争せんそうの最中にあります。

 将軍様は敵のほこ鉄壁てっぺきの防衛拠点きょてんラインバンリの激戦をくぐけ、見事ラインバンリ占領せんりょうげました。

 その後、ラインバンリの一室でお休みされていたところを暗殺者におそわれました」


丁寧ていねいに話し始めるヤクモ博士はかせ


「で、命は取り留めたものの、右腕みぎうでを失う重症じゅうしょうを負って、それをあたしが治療ちりょうをして今に至るって感じ」


「急に雑だな」


「いいじゃない」


言われてみればそういうことだったと記憶きおくよみがえる。


「じゃあ次はそのうでについて説明しよう!

 このうでは試作2型アームドステゴロX。最新エーテルテクノロジーを用いてて神経系とマナチューブでつないだ戦闘せんとう用の義手さ。外付けのエーテルバッテリーがんであって、それが――」


長文の説明が続く。


「分からんかった」


「はぁこれだから筋肉馬鹿ばかは」


おれ部屋へやから出ようとする。


「おいおいまだ安静だろ」


「ちょっと散歩だ」


「なんて元気な怪我人けがにん


そしてドアを開け、部屋へやから出る。


すると目の前に女の子がいた。


さらさらと流れるかみ


りんとしてひときわ美しい顔立ち。


一つ一つの動作が美しく、いい意味で人間味の無い動き。


「かわいい」


ついそんなことをつぶやいてしまう


「ジハルド様、ご回復おめでとうございます」


最初は女性かと思ったがちがう。


うす肌着はだぎを身にまとった機械。


ぞくっぽく言えばメカ美少女。


このゲームにおいて、殲滅せんめつ天使と呼ばれる。


彼女かのじょの名前はエクスシア。


(敵として戦ったはずが……こうして目にすると――)


めちゃめちゃ可愛かわいいし、美しい。


(だがしかし……この子はゲームだと……)


ゲーム終盤しゅうばん


エクスシアはジハルドの部下であるものの、ジハルドの悪逆にえかね主人公レオンの窮地きゅうちを助けてしまう。


しかしその後ジハルドが『裏切り者などらぬわ!! ゴミくずが!!』と言ってレオンの目の前でエクスシアの胸部を右腕みぎうでの機械でにぎりつぶし、命をうばうのである。


ジハルドよ、お前こそゴミくずである…おれは絶対にそんなことしないが


「ジハルド様、これからどちらに行くのですか? 安静されたほうがいいのではないですか?」


でもおかしい……


目の前のエクスシアからとてつもない感情を覚える。


目の前にいるエクスシアにまれるというか……気が落ち着かないというか……


明らかに異常な感情。


おれがなんかこう……おかしくなってる。


このアンドロイド少女の美しさが、おれをムラムラさせる!


「う…グギギ…」


「どうされましたか、ジハルド様? ヤクモ博士はかせを呼びましょうか?」


胸がドキドキと音をたてる。


激痛だった。


(ああヤバい、おれの体、なんかマジヤバいって!!)


「うぐっ!」


そして理性が失われ、けものの本能が現れた。


「やろうぜ。エクスシア」


「え……ジハルド……様?」


エクスシアをたおす。


エクスシアの服をまくり、はだにキスをする。


「……なぜ、そのような……キス……を?」


明らかに困惑こんわくするエクスシア。


「ジハルド将軍……意図を……その行動の意味を……教えてください」


おどろいているというより、こわがっていた。


「分からない……おそろしいです……」


おれはズボンをずらす。


「それは――」


いやがるエクスシアに構わず、おれは思うがままにやりたいことをやった。


それを横から見ていたヤクモ博士はかせはその蛮行ばんこうを止めることはなかった。


「将軍が異常行動を……殲滅せんめつ天使相手に……はは! これはまさかの、だな」


おれは意識を失った。


***


おれはまたもベッドで目覚める。


横にはヤクモ博士はかせがいた。


おれはなぜエクスシアを強姦ごうかんしたんだ?


日本に居た時、そういうエロ漫画まんがを読みはすれど実践じっせんしたことは無いし、する気もなかったのに。


おれがそうなった原因を、ヤクモ博士はかせは語ってくれた。


「試作2型アームドステゴロXに欠陥けっかんが見つかった」


欠陥けっかん?」

 

「一日一回セックスしないと死ぬ体なの、今のあなた」


「は?」


「ごめんね」


おれは頭をかかえこう思った。


異世界転生ガチャ大失敗だろ、と






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