第14話 またも部下が

「中尉殿をお助けせよ! 第三小隊 躍進、かかれ!」

 またも部下が勝手に動いた。いや、今度のは感謝すべきだな。第一小隊があけた穴の左右、定位置に戻っていた虎次郎軍曹が第三小隊と逃げなかった第一小隊の獣人たちと一緒に敵集団に襲いかかる。向こうは追撃のため足が止まったタイミングでこちらは勢いをつけて敵にぶつかっている。瞬く間に敵の密集陣形に左右から楔が入った。そのまま大暴れ、獣人の冗談のような腕の力で思いっきり引っかかれると、それだけで地面に引き倒され、次には味方に踏み潰される。

 銃なんかより、よほど破壊力がある。獣人が銃を嫌がる理由の一旦だろう。なまじ自分の戦闘力が高いので、武器を侮るのだ。

 実際、乱戦になれば射撃のために弾込めがいる銃は役に立たなくなる。俺の持つような回転弾倉の連発銃が普及するにはまだ一〇年くらいはかかるだろう。それまでは、獣人の白兵突撃は恐るべき破壊力を持つに違いない。

 第三小隊は敵中を突っ切って、俺に向かって移動する俺も第三小隊に向かう。鋭刃(ルビ:サーベル)を引き抜き、左手を添えて叫びながら迫る。一人の腹を裂いた。太ももを切ったつもりが大外れだ。敵の内臓がこぼれる。臭い。人間は糞袋だ。だからこんな目に遭う。

 戦果を確認せず、真っすぐ走って叫ぶ。

「長居はするな! 組織だって脱出する!」

 撤退、とは言わなかった。俺の頭の中は起きたことは起きたこととして、その上でどう戦い続けられるかの検討に入っていた。

 俺はそんなに仕事熱心だったかなと、獣人たちと走って逃げながらそう思う。部下の不始末をどうにかしたいのか。いや、違うな。俺は部下の不始末を自分のせいだと思うほど人間ができていない。

 そうか、と、不意にいい考えを思いついた気がした。

 ワイベスヘルはまあ殺すにしても、いくばくか第一小隊の人間が生き残れば、人間を守って奮戦した 獣人という美談が語られるだろう。それで少しは獣人たちも過ごしやすくなるはずだ。それで俺の罪も、……俺の良心も多少は満足する。多少とはいえ、それはとてもいい考えに思えた。

 気づけば笑っていた。一緒に走っていた獣人たちも笑っていた。俺が笑うのはいいんだが、連中が笑うのは良くわからない。だがまあ、良かった。負けて走って逃げながら、俺はほがらかに笑った。自分の心の中のタガが外れた気がした。

 まずは今の状況を最大限利用しよう。その次は脱走兵二名を殺した分、どこかで埋め合わせをしないといけない。俺の良心のために。良心の負債を返すたびに別の負債を抱え混んでいるような気もするが、今は考えないことにした。

 敵に追いつかれないよう全力で走るまでだ。

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