第2話「異世界召喚?」


「うわっ!?」


 まぶしっ!


 目の前が激しく光り始めた。

 俺は反射的に、両手で顔を覆っていた。


「つぅあ、あ?」


「――成功した? あれ、失敗だと思ったけど」


 光が晴れ、視界がクリアになったと思ったら。


「え……?」

 

 知らない場所だった。

 

 広くて明るい。洋風の王室みたいな空間。

 床や壁に物が散乱しているが、内装は妙に綺麗で、なかなか見応えがある。


 ってちがう、そうじゃない!


「……なんだここ」

 

 今見ているのは夢、それともVRか?

 これは現実なのか……?

 

 その区別がつかない。

 どうであれ、いきなり場所が変わるのは異常でしかない。

 

 意識ははっきりしている。

 なにより、気分がすこぶるいい。

 さっきまでの記憶も鮮明で、状況だけが意味不明だ。


 いや、そんなことよりも。

 

 目の前にいるこの人は誰だ。


「――僕の世界へようこそ。さっそく確認だけど、君は異世界からきた人間でいいのかい?」


 実に良く整った顔立ちの少女だった。

 

 コツコツと靴音を立てて、俺の目の前にくる。

 若干低めの、落ち着いた声のトーンでそう聞かれた。


「えーっと……」

 

 膝まで伸びた銀髪に、引き込まれるような蒼い瞳。

 幼すぎず、大人すぎない容姿だ。黒と青のドレスに身を包んでいる。

 

 単に美しいだけじゃない。

 何もかもを見透かしたような、優しい笑顔で見ていた。


 総括すると、心を奪われてしまいそうな女の子だった。


「い、異世界? ここって異世界、なんでしょうか?」


 俺は思わず見惚れそうになったが、質問を聞き返した。

 

 すると少女は不思議そうに首を傾げる。


「おや、僕たちと同じ言語だ。どこかの辺境地から呼び出しちゃったのかな?」


 少女はずいっと顔を近づけてきた。


「でもその格好は変だね、見たこともない」


 俺を吟味する視線が妖しい。

 それでいてドキドキさせるような笑みを浮かべている。

 

 とろけそうな声色も相まって緊張が――。


「主様、彼は混乱しているようです。主様の美貌に見惚れて会話もままならない様子」


 また知らない人物がやってきた。

 

 白と金の鎧を着ている……騎士風の女性だ。

 ブロンド髪でポニーテール、凛々しさがある。


「おっと失敬。やっと成功したのが嬉しくてつい……ね」


 一体なにがどうなっているんだ。

 

 そんなのまるで、本当に異世界にきてしまったみたいじゃないか。


 主様と呼ばれた少女は、咳払いをして話す。

 

「では改めまして。僕はフェイルノート、この世界の神様だよ。そしてここ……アスタフィア王国の王でもある」


「は、はぁ……?」


 神、次に王と自称し、フェイルノートと名乗った。

 

 なんというか、インパクトのある自己紹介だな。

 少なくとも、アスタフィア王国なんて名前は聞いたことがない。


「はい、僕の自己紹介はおわり。さあ、次は君の名前を聞かせてほしい」


 え、もう終わりか?

 簡潔で、素性は少しもわからなかった。


「……曇、雨晴です」


「クモリアメハル。珍しい響きの名前だね。間違いない、召喚は成功したようだ。ね? アルタ」


 鎧の女性はアルタと言うらしい。

 

 アルタは嬉々としてフェイルノートに話す。


「はい、私も確かに見ました。主様の召喚陣から、彼が呼び出されるところを。偉業を成し得たこの場に立ち会えて私は光栄です!」


「召喚陣? うわっ」


 今立っている床には、俺を円にして囲うほどの召喚陣なるものがあった。

 

 ゲームで見たことはあったが、現実で見るとなかなか精巧で、迫力があるというか。


「フフ、そうだろう? 僕も嬉しいよ。エルド以外に他の世界があることを証明できた……これで次の段階に進めるよ」


「はい! 私も心待ちにしておりました。主様に仕える騎士として、これほど誇らしいことはありません!」


 これが異世界語だとでもいうのか。

 どう聞いても流暢な日本語で、2人は会話を弾ませていた。

 

 とりあえず、俺は今すごく落ち着いている。

 数分前まであんなに落ち込んでいたのに、だ。

 

 なぜかは知らないが、心が妙にスッキリしているような……?

 

「さて、じゃあアメハル。僕に従ってくれるかい?」


 笑顔でそう言われた。

 

 だから咄嗟に答えてしまう。


「従う? って、なんの話でしたっけ?」


 ――その瞬間、空気が変わった。


 しん、と音が吸い込まれたかのように消えた。

 

 フェイルノートもアルタも、微動だにしない。


 え? な、なんだこれ。

 

 体が一気に冷えた気がして、息が詰まった。


「……あの、どうかしました?」


 恐る恐る、口を開いた。


「ううん、ごめん。何でもないよ」


 フェイルノートは笑みを浮かべていた。

 

 けれど、あたたかさを感じない。

 

 さっきまでとはまるで別人のように。

 

「そうだ! アルタ、アメハルに王都を案内してあげてよ。実際に見てまわったほうが楽しいと思うし」


「はっ! その責務、喜んで拝命いたします」


 さっきの静寂がなかったかのように、話が急に進んでいく。

 俺が口を挟む余裕なんてなかった。


「ごめんね、僕はまだやるべきことがあるんだ。悪いけど、あとはアルタが説明してくれるよ」


「はぁ……」


「ではアメハル様、王都にお連れいたします。さ、こちらへ」


 異世界の王都、どんな場所なのか気になる。

 

 気にはなるのだが、これでいいのだろうか?


「じゃあね、アメハル。そしてありがとう」


 その声がやけに明瞭に聞こえた。

 俺はアルタと一緒に、部屋を後にするしかなかった。



 

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