第三章:心の扉が開くとき

数週間が過ぎ、避難所の生活にも疲労の色が濃くなっていた。そんな中、給水タンクが故障するという新たな問題が発生する。修理できる者もおらず、人々は途方に暮れた。その時、亮介は無意識に立ち上がっていた。「俺が見てみよう」。自分でも驚くほど自然に出た言葉だった。


亮介が構造を調べていると、千歳がそっと隣にやってきた。「ありがとう、ございます」。彼女の静かな声が、彼の心の奥に響く。亮介は、彼女の期待に応えたい一心で、あり合わせの道具と建築知識を総動員した。数時間後、タンクから再び水が流れ出した時、人々から歓声が上がった。その中心で、千歳が彼に向けて浮かべた微かな笑みは、どんな賛辞よりも彼の心を温めた。


その夜、二人は初めてゆっくりと話をした。亮介は、情熱を失った自分のこと、そして過去の喪失をぽつりぽつりと語った。千歳はただ、静かに耳を傾けていた。「あなたは、無力ではありません。壊れたものを直し、人を繋ぐ力を持っています」。彼女の言葉は、亮介の廃墟のようだった心に、小さな光を灯した。彼は、この女性をもっと知りたい、そして守りたいと強く感じ始めていた。それは、彼の中で何かが再び「建ち始めよう」としている兆しだった。

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