第40話 本音が1番言えない。
考えてみたら、俺の部屋にはいま同級生女子の下着がふたり分、本人が理解した上で預かっている。どういう状況なんだ、これは? 現代版桃源郷と思いたくなるが、浮かれてばかりもいれない。親が帰宅し、保健室の高遠先生がクギを刺しにやってくる。2年前と同じことを繰り返さないように、根性論で怪我は治らない。そんな当たり前のことを言うためだけに来てくれる。
とはいえ、ひとりは幼馴染でクールビューティーと名高い
付け加えると怪しげな湿り気がなさそうで、ありそうな一品。自慢じゃないが俺は『幼馴染のパンツなんて興味ないよ』なんてスカしてるラブコメ主人公ではない。しかも千波の態度から『私、今こんな状態なんだけど』と確かめてと言わんばかりの視線だった。
興味はあるが、一度頭の中を整理しようとスマホに目をやる。
佐々木から何度かメッセージがきた。怪我の具合のこと。古傷のこと知らなくて、無茶を言ったこと。この場合の無茶は、どうやらスリーポイントのことらしい。気にしなくていいのに。
一応自主練に参加してることや、小笠原は相変わらずウザいこと。俺と付き合ってるって言ってぎゃふんと言わせたい、などなど。佐々木は敢えて『私たちって付き合ってるの?』とは聞いてこない。
聞かれて不都合がある訳じゃないが、俺たちの関係にどんなタグが付くのだろうか、まだわからない。それはたぶん、佐々木も同じだろう。
だから、いま無理に『付き合ってるよね?』とか聞かないのだろう。どんな関係になるか、どんな付き合い方になるのかなんてわからない。ただ、傍に居たいのは変わらない。
海野さんからもメッセージが来た。
千波が優しくてうれしかった。話してくれてありがとう、みたいなメッセージ。あと、あまりに驚いたので、ケガの事があまり聞けなくて、今頃心配してること。などなど。
ツレの大野と船田からも来てたが、冷やかし交じりの生存確認なので何となく
ただ、問題なのは先生からのメッセージ。
『いかがお過ごしでしょうか』から始まり『先生のこと忘れちゃった?』とか『飽きちゃったの?』と一見重めな内容だったが、これは先生特有の自虐ネタだと信じて、ある程度スルーしよう。今は沼りたくない気分だ。
正直なところ、俺は佐々木との関係がそんなに進んだという感覚があまりない。3年間同じクラスで、それなりに自虐や愚痴を言い合う特殊な関係だったし、負のオーラを分け合う関係は他のどんな関係より濃度が濃いと勝手に思ってる。
何が言いたいかというと、ようやく精神の関わり合いに肉体の関わり合いがほんの少し追いついてきた、そんな感じ。自分に都合いい解釈だけど。きっともっと早く少しくらいは体の関係があっても違和感なかったハズだ。
気掛かりなのは、完全に停滞していたハズの幼馴染、香坂千波との関係が急激に復調してることだ。俺は千波のパンツを前に考え込む。
香坂家とも前の関係に戻りそうな予感すらある。
何より俺が佐々木より先にキスしたのは――小5の千波だし、今日改めて確認された事実。俺の初めてのアレはひとりエッチではなく、小5の千波のテクによってだった。言っておくが、その時の俺も小5なのでロリコンではない、たぶん。
放置しようか考え中だがメッセージ。送るとしたら先生になんて送ろう。正直に言う方がいい気もするが――
とはいえ、もちろん佐々木と一晩一緒に過ごしたことは言えないし、海野さんの下の毛は確認してないし彼女の下着管理をしてることは、絶対言えない。
幼馴染の脱ぎたてパンツ(しかも、本人から使用可のお許しアリ)をガン見してるのも言えない。
なので、
でも、どこかで思う。俺が1番本音が言えてないのが先生になってるのを。
メッセージを送ると、一瞬で既読が付いた。
それと同時に来客をあらわすチャイムが鳴った。恐らく高遠先生だろう。再び先生にメッセージを送り高遠先生が来たことと、今夜は揉めるだろうから連絡出来ないことを付け足した。
千波にも高遠先生が来たとメッセージ。するとどこから見つけて来たのか、ウサギが赤穂浪士の姿をして、陣太鼓を叩くという斬新なスタンプが来た。
凛々しい顔のウサギが『いざ、出陣じゃ!』と叫んでるスタンプ。千波の気合いが伝わってくるが相変わらず可愛いもの好きだ。
一応母親に体育の授業で古傷が再発したことと、校医の先生が無茶をさせないように言いに来ることを告げていた。リビングにいる父親には伝わっているだろう。早々に酒を飲んでいるのは想像するに
酒乱なのでこの状態のまま、高遠先生に会わせるのはマズいのではと思うのだが、そこは恐らく問題ない。
分が悪い時は平気で敵前逃亡するような父親なのだ。外面モンスターの
学校関係者は公務員。同じ公務員と問題を起こすのは賢くないことなんて承知のことだ。それに公務員の世界も広くないのだろう、噂なんて簡単に広がる。噂は外面モンスターの父親の1番警戒する事。
足を運んでくれた高遠先生には悪いが、玄関先に出た母親は決して戦うような人じゃない。その代わり、相手の意見を聞くかと言えば、完全に聞き流す『わかりました』『気を付けます』『知りませんでした』この辺りの言葉をランダムで聞かされることになる。
結果、伝わったのか理解できたのかなど、まったくわからない。話疲れて伝わっただろうと根負けする。表現するなら――
しかし、それが通用するのは初見だけ。
ご近所で幼馴染の千波はそんな俺の母親のフルガードな戦い方は知っていたし、相手にしても時間の無駄とも理解していた。なにより千波は度胸もある。
トンと「おじゃまします」と上がり込みリビングへ一直線。
流石の俺も慌てて後を追うとリビングで焼酎を飲む父親の前に立つ。焼酎かぁ……アルコール度数が高い程、暴れ方が派手になる。嫌な夜になりそうだ。しかし千波はどこ吹く風。
どこからか持ち出した診断書のコピーを父親の前に広げて言った。
「診断書出てます。2週間安静です、おじさん言いましたよ。前みたいなことしたら、私虐待で通報しますから」
誰もが言えないことを千波は言ってのけた。くちびるが震えている。怖さがない訳じゃない、俺のために頑張ってくれたんだ。
父親は苦し紛れとも取れる言葉――文句があるなら自分で言え! とグラスをテーブルに叩きつけるがグラスの中の焼酎がこぼれただけ。
「おじさん、今夜荒れますよね。
べーっ‼ と言いそうな勢いで千波は俺の手を引いて家を出ようとして足を止める。
「朝稀、待ってて」
そう言い残し千波は階段を上り、俺の中学時代の登校鞄――海野さんの下着の入った鞄を持って降りてきた。さっき、千波に聞かれた。どこに隠してどこに干してるか。
「干してるの一組よね、それは持ってきたけど、私のがない――」
「それなら……ここに」
俺は自分のポケットを指差す。これはちょっと恥ずかしい……
「肌身離さずですか? もう、朝稀のえっちさん」
我が家の殺伐とした状況に反しにこやかな表情で千波は笑った。こんな顔見たら使えないじゃないか……
玄関先で俺たちは養護教諭の高遠先生にお礼を言った。先生は微妙な表情をする。あの母親に何か理解させるのは不可能だ。だけど、行動してくれる大人がいるってだけでありがたい。
「先生のおかげです。先生のおかげで『前に伝えたはず』って言えます」
俺はどこかでもう、この家との関係の後片付けに入っていた。
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俺が学園のアイドルたちとのハーレム生活を送るって、ホントですか? アサガキタ @sazanami023
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