第35話 招待状。

 教室から1番近い渡り廊下。

 スタスタと先に歩く幼馴染で女子剣道部部長。見上げ坂高校弱小女子剣道部を数度全国に導いた立役者。

 全身筋肉。付いた通り名が氷の姫剣士。クール女子過ぎて、そういう癖がある女子のハートを鷲掴わしつかみにしてきたのが幼馴染故にわかる。

 千波はクールでもなければ精神的に強くもない。普通の女子。かわいいもの大好きだし、誕生日に毎年贈るぬいぐるみを本気で喜ぶ。

 本人は気付いてないだろうが、俺が送るのは毎年干支にちなんだぬいぐるみで、そろそろ十二支に王手。中々の縁起物。


 知ってるからこそ佐々木や他のクラスメートが思うような、氷の刃に凍らされるのではとかない。ただ、それは昨日の佐々木のことや先生との関係を知らないことが大前提。

 渡り廊下の真ん中辺り。生徒の通りがまばらなのを確認し口元を解く。教室では真一文字だが、こいつはかわいい物や面白いことが大好きなのだ。


「めっちゃビビってたよね~あの

 小笠原とかいう吹奏楽部部長のことだ。

「おまえ、相変わらず性格いいよな。あのタイミングじゃ俺はチビる」

チビるの? ダメだからね。学校だから」

 なんかクギを刺された。

 なんの話だ? 過去を知られ過ぎてどの件かわからない。幼稚園に入る前となると、それなりにチビってるだろう。残念ながら今更新たに弱みを握られることはないくらいに、十分失態を知られてる。


「助かった。危うく引っ込みがつかなくなるとこだった」

「でしょうね。後先考えず挑発するんだから、ドキドキした」

 あの無表情。実はドキドキしてどうしたらいいかわからなかったらしい。黙ってたら氷の姫剣士とか言われるし、漫研女子からは危うく、薄い本を描かれそうになるし、こいつはこいつで大変なんだろう。

 薄い本は生徒会がすんでのところで動き未遂で終わった。俺としては漫研女子はこれに懲りずに、再チャレンジしてほしいと切に願う。


「で、なに? こんなとこまで呼び出して。用なら夜でもいいだろ?」

 数軒隣に住んでいる。お互いの家の前は公園なので、勉強の息抜きにキャッチボールなんかをすることもある。

「この金曜、一紗かずさ誕生日なの。朝稀あさき来れるか聞いてきてってうるさくて。あの娘、朝稀は今週金曜はバイトじゃないからって、そうなの? なんで知ってんだろ」

 それは俺が聞きたい。

 一紗とは千波の末妹。もうひとり間に百花ももかという妹もいる。残念ながら百花はウチの妹と同級生で、妹交換を心の底から願うほど俺を、人として接してくれる。一紗はまだ小学生だ。


「これ招待状だって」

「招待状? 誕生日のか…」

 俺は千波から受け取った一紗の招待状を、特に考えなく開いた。ポストカードみたいな厚手の紙を開いた途端、俺は周りを見渡しすぐ閉じた。

「千波、さっきお前…招待状って言わなかったか?」

「うん、一紗そう言ってたけど…なに、不幸の手紙だった?」

「いや…そうじゃないけど、招待状だけど、お前の家へ

「ん? 永遠ってなに? 見せて」

「あ……っ」

 すっと千波は手のひらから一紗のポストカードを取った。


「なにこれ…『大好き。朝兄、お婿さんになって♡』どういうこと? あの娘姉を利用してラブレター届けさせたの? まだ小5よ、まさか、朝稀……あんたロリコン⁉ 引くわ…」

 えっ、典型的な誤爆じゃないですか。いまどさくさにまぎれて、すね蹴り上げましたよね。なら俺も言うこと言わせてもらうぞ。


「お言葉ですが、は小5になんか覚醒すんじゃないですかね、百花にはチューされたし…」

 あっ…つい口が滑った。

 香坂家次女の百花も漏れなく小5の時、寝てる俺に前触れもなくチューしてきた。しかも、ベロチューだった。あれはなんだったんだろ。いや、そんなノスタルジックに浸ってる時じゃない。

 これ黙ってたんだ。つまりその件において俺と百花は共犯なのか。しかし、ここで押され負けしたら命の危機だ。

「あのですね、香坂家のお姉さま。実はお姉さまがもっとも、その件にいては――やらかしてんだからな」

 はぅ!? みたいな面食らった顔で俺を見る。俺を見てもしゃーないだろ。自業自得だ。


「こ、こ、今度ジュースおごるから……妹たちには」

 ジュースで口止めとか格安だろ。

 例の件は俺も漏れなくお縄につきそうなので、墓場まで持っていくつもりだが。俺はスマホでハンバーガショップのシフトを確認した。

 確かに今週金曜はバイトが入ってない。俺自身、寸前まで確認しない方なのにどーして、千波の妹の一紗が俺のシフトを把握してんだ。

 小さい世話焼き女房っぽいし、将来いいお嫁さんになりそうだからいいか。


「行くよ、どうせ前日の三者面談で端微塵ぱみじんになってるだろうし、家に居たくないだろうしな」

「ん…コメントし辛い…知ってるだけに。ねぇ、朝稀。ここ乗り切って同じ大学行こうよ」

「――そう願いたいんだが、俺も問題だがお前、まだ合格圏遠くないか?」

「遠いです、遥か彼方ですねぇ…はぁ……」

 千波は勉強がやや苦手。それも部活部活の日々だから仕方ない。そういう意味では佐々木と変わらない。佐々木と違い目標が決まってるから、ここからどれくらいの努力が必要か見えやすい分いい。それより――


「なにも同じ大学目指さなくても、お前の実績なら体育大学の推薦貰えるだろ」

「まぁ、そうなんだけど…剣道は一旦これで置こうかなぁって思ってる。剣道一筋の生活だったからお腹いっぱいなんだぁ」

 どうやら氷の姫剣士さまは、普通の姫さまに戻りたいらしい。


「でも、お前。俺と同じ大学――仮に俺が文系受けれたとして、家から通えんぞ。遠いし…おじさんおばさん、許可するか? 一人暮らし」

「朝稀一緒ならウチの親はなんにも言わないよ」

「一緒……」

 これはどのレベルで一緒な話なんだろう。同居ですか? あの、幼馴染とはいえ男子です。あまり過度な期待はしないでください。


「私はこのインターハイで引退するつもり」

「そっか、それもいいと思う。俺は…海野さんのひとり芝居の脚本が高校最後の創作活動かなぁ」

 それじゃ、金曜日。そう言って千波は後ろ手に手振って教室に戻った。まぁ、その前に三者面談だな、問題は。三者面談の後に予定があるというのは、いいことだ。そう、それはきっといい事なんだ。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る