第31話 らしい。

 俺はここであることを思いついた。

 いま必要なのは発想の転換だ。佐々木ささき美玖みくは親友であり、見上げ坂高校美少女ランキングの隠れトップランカーであり、言いたいこと思ったことはすぐに口に出し、興味のないことには見向きもしない。熱血部活女子。総合すると――本来近寄りがたい高嶺の花。


 ひょんなことから、そんな高嶺の花の佐々木と軽口を叩き合う仲で、目の前には何も着てない佐々木美玖がいて、ひとりえっちのやり方を教えて欲しいと言っている。これはまるで真っ白のキャンバス、もしくは真夜中に降り積もった新雪を、好きに思い描く権利を得たのと変わらない。


 つまりは、こうだ。親友で同級生の何ひとつ経験のない美少女を、俺の手で調教する機会を得たことにならないか? しかも本人が望んでいる。思ったようにいかなかった夢。その苦い思いは本人だけの物だ。

 わかった振りして、同じ側の人間を気取っても佐々木は何も救われない。ただ、一休みしてこの先どうするか、今までと同じ道を進むのか道を変えるのか、それとも同じ道で進む方法を考えるのか、それを考えるための休憩場みたいな存在ならなれそうだ。


 そういう訳で、佐々木が望む休憩場がひとりえっちのやり方なら、教えるのもやぶさかではない! よし、これで自分に対する言い訳は十分だ。


「佐々木、まずベッドの真ん中に移動して体育座りをしてくれ。すべてはそれからだ。あと、足に回した手を離さないこと。いいか?」

「真ん中に移動して……体育座り。足に回した手を離さない……これでいい? でもやーさん。体育座りとひとりえっちのやり方どう関係あるの?」

「それはだなーおりゃ!」

 ごろん。佐々木の肩を軽く後ろにトンと押した。案の定、体はごろんと転がり素直な佐々木は足を手で持ったまま。

「あわわわっ、やーさん‼ わ、わ、私、今どういう状況⁉ やーさんから見えてる⁉」

 いつも冷めた目で物事を見ている佐々木だが、今は違う。全裸で体育座り。しかも後ろにごろんされ、手は足を抱えたまま。そうなると、どうなる?


「ぱ、ぱっくりなの⁉ 私、やーさんにぱっくり見られてんの⁉」

「ん…正確には見られてるんじゃない、見せつけてる?」

 俺は再び「あわわわっ」となりかけた佐々木の腰を持ち上げ、俺からどう見えてるか佐々木にも見せた。

「や…やーさん。私……」

「親友なんだろ、これで同じ。だってほら、俺は。佐々木は体の構造上さらけ出してなかった。これで対等、でだ」

「やーさん⁉ ま、まだあるの⁉ ま、ま、まさか……」

 いや、俺も真性童貞なんで、流石にまでは。なので佐々木の佐々木たる部分を自分で存分に見える角度のまま、最も佐々木な部分を指先でまんだ。


「やーさん⁉ は‼」

 関係各位は思うだろう、童貞にそんな知識がある訳ない! やれ、童貞詐欺だ! なんちゃって童貞乙、などなど。しかし、世はネット社会! こういう情報は氾濫はんらん蔓延まんえんしていて、童貞ですら有難いことに、その有難い情報を得ることが出来る。

 そして、童貞が童貞であるゆえに、披露する場所もないクセに無駄知識とわかりながらも蓄えているのだ! そして俺は動画やエロ漫画で得た全知全能の知識で、佐々木の真っ白なキャンバスを自由に思い描きかえるのだ。


「佐々木に問いたい。お前は真剣に俺でとしたのか?」

「真剣ってなに? ひとりエッチにそんな意気込みいるの? まぁ、一応努力した、その辺りさすったり……噂で聞く『降りてくる』みたいなのに全然なんなくて……やーさんはどうなの? 考えたら私だけ恥ずかしくない? そんなに言うなら、ひとりエッチ先輩して見せてよ!」

 軽くキレた。

 しかしこんな事は想定内。俺は場所を移し強気を崩さない佐々木の手を取り、俺の俺たる場所を――まぁ、そんな感じだ。

 うん、なんかエロ漫画っぽい。佐々木はそんなことさせられるとは思ってなかったようで、キレてたのを忘れ「なんか熱いね……こんななるんだ」と素直な感想を述べた。


 ここに来て。いや、ここまで来て俺はおもむろに、佐々木が蹴り落していた掛け布団を拾い上げ佐々木に被せた。佐々木はわけもわからず、俺の俺な部分に触れたまま。

 彼女は俺に何とも言えない顔を見て「この男……ここまで来て日和ひよりやがったぜ……」と悪態をつき、あろうことか俺の俺であるを、まぁまぁな腕力で握りしめやがった。

 口には出さないがその緩急が、逆に俺という男子の中で話題沸騰であることは言わない。


「そりゃ、日和るぞ。親友で、正直言って『付き合いたいかも知れない女子ランキング』ナンバー1な佐々木美玖だ。弱ったとこに付け込んだみたいなのは嫌だし、かといって知らん顔はもっと嫌だしな。付け加えると、欲望に負けてここでいたしたら――あるかも知れないお前との未来が消滅する」

「ここで、なくなる未来もあるかもよ?」

 うん、正論だ。ループ物でもなく、セーブポイントもないのでふたつの未来を確認しようがない。


「それでも俺はお前に誠実でありたい」

「お言葉を返すようで、大変恐縮ですがおっぱい揉みながらでは、あら不思議! まるで誠実さを感じられない」

「硬いこと言うな」

、硬いままですが?」

 やめてください、いま軽く爪を立てようとしましたよね? デリケートゾーンですよ、どうすんだ、それがむしろいい! なんて特殊性癖をこの歳で発病したら。体で責任取ってもらうぞ、マジで。


 俺は佐々木の横に並んで転がり、彼女は慣れた感じで俺の腕を枕に、下から睨みつける。彼女は知らないだろうが、佐々木の睨みはその界隈では絶大な人気を博していた。かく言う俺も佐々木の疑い深げな睨みは好物だ。

「えっと、朝まで時間あるだろ。その……このままイチャイチャしながら、なんだ? その気になったらまた考えるということで……」

「やーさん、まだとも決め切れないの? まぁ、やーさんらしいちゅーたら、やーさんらしいんだけど。でもさ――」

「うん」

「とりあえず、お互いにね? 落ち着くために何らかのは必要な訳じゃない? そこはひとりエッチ先輩としての腕の見せどころだと思うわけよ」

「なるほど……」

 そんな訳で、佐々木美玖は俺の指導の元、無事初めてのひとりエッチを成功させた。それと同時にお互いの身体を見せ合う鑑賞会も終えた。

 俺はそんな佐々木の身体の上に果て、佐々木は優しく体に手を回し「やっぱ、こういうのがやーさんなんだね」と良くも悪くも取れる感想を呟いた。 


 







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