第26話 ほんの少し思えた。
私鉄。ふたりの家の最寄り駅で降りた。
海野さんが言葉少な気なのは俺のタチの悪い冗談のせいだ。顔を真っ赤にして頭をフラフラさせてる。
(ちょっと、冗談が過ぎた……)
階段を下りる足取りも怪しい。
お酒を飲んでないのに千鳥足だ。このままの状態で自転車に乗せていいのか。いや、ダメだろ。海岸線に面したこの街は工業地帯で大型トラックの通りも多い。道一本入った住宅街を帰るけど、この足取りじゃ心配だ。
「ごめん、その……変なこと言って。冗談のつもりだったんだ。冗談じゃすまないな」
俺は素直に頭を下げた。
この時間の最寄り駅のロータリー近くは、それなりに人通りはあるが立ち止まるくらいは出来る。
そうは言うが立ち止まると目立つ。そんな状況で俺は空気を読まずに海野さんに頭を下げたのだから、下げられた海野さんが焦り、俺の服を引っ張り街の観光案内版の陰まで連れて行く。
「違うんです、その……どのタイミングがいいかなって考えてたら、恥ずかしくなって――あの、お兄さ……山県君、その……私の希望を聞いて頂けるなら、シャ、シャ、シャワー浴びてからでいいですか?」
「?」
「あの、見せるのです……その、すぐには……恥ずかしいといいますか、汗とか」
「えっともしかして――さっきの『今度見せてよ』ってヤツだよな」
「はい……」
「ごめん、冗談のつもりだった。真に受けないで欲しい。今度から気を付ける」
俺はひたすらペコペコと頭を下げ、海野さんは「あわわわっ」と止めようとする。
「でもですね」
「でも?」
「はい、私……言いました、山県朝稀君に。助けてくれたら何でも言うこときくって――だから」
言われた。
そんな気もする。だって人って言うじゃないか。なんでもするから手伝ってとか、何でもいう事きくから、今は勘弁してとか。そんな軽い状況での話じゃないのはわかる。
助ける――この場合、海野さんの心の負担になってる、お義父さんの行動。自分の下着を使われたくないから助けることで、俺のこと好きでもないのに下半身を見せることを強制されたら――加害者がお義父さんから俺に変わっただけで、海野さんの心は永遠に重いまま。
「ごめん、本当にごめん。俺、そういうエッチなこと日常的に言うヤツなんだ。それと海野さんが何でもするって言ってたこと忘れてた……でも、俺の想定してた『何でも』は精々、肩揉んでとか、最大でデートして――いや、これもダメか。仮に肩揉んでは言うかもだけど、乳揉ましては言わない! たぶん」
最後で日和った。ここがきっとダメなんだ。
「乳もいいの?」
海野さん、俺が言うのもなんだが乳って言うな、乳って。
「いい。そういうのはしなくていい」
「見たくないし、揉みたくもない……?」
ん~っ、正直、見たいし、揉みたい。いや、なぜか若干涙目。ん……どういう情緒?
「いや、見たいよ? 揉めるもんなら揉みたい。でも、そういうのって、どーしてもしたいなら、ちゃんと口説く。口説いて、口説いて、海野さんが『しょうがないなぁ、少しくらいなら』ってなって初めてだから。命令したり、恩着せかましくしてするもんじゃない」
安心してと言いたかった。しかし、海野さんは思案顔で宙を見てぽんと手を叩いた。
「じゃあ、山県君が口説いてくれるまでは、お預けですか」
「うん、残念ながら海野さんからオッケー出るまでが正解」
これで一見落着ではないのがこの組み合わせ。
「じゃあですね、お兄さま。わたくしが見ていいですってなったら、どうされます? 肝心なところで
そんな感じで笑うから、このえっち系の
「いや、そうなれば見る。ちゃんと見る。具体的にはライトアップしてまで見る。クッキリ開いてガン見する」
「クッキリ開いてガン見……そ、そ、そんなの私、具まで見られちゃうんですか⁉」
おい、俺は『具』までは言ってないからな。具……ってなに。ごめん、いますぐ確かめたい。
「これでいいのかな」
なにはともあれ俺の自宅に辿り着いた。自室にダッシュし海野さんの希望でピンクの刺繍のある下着の上下を取り出し、リュックに詰め海野さんの待つ公園に。
確認のためリュックの中の下着を見てもらう。
「はい、お兄さま。これです、かわいいでしょ?」
「あぁ……まあ」
俺に下着の感想を聞くという事は、見ても怒らないってことでいいんだろうか。しかし、俺は健全エッチ系高校男子。秒で目の前の下着を着けた海野さんが脳内で映像化される。
「やっぱ、見たい」
「ん? お兄さま。何か言いましたか?」
「何でもないです……ごめんなさい」
俺はほんの少し命令しとけばと後悔したりした。
幸いにもお互いの家の近くには公園があり、待ってる間不審者と思われる可能性は低い。そして残念ながら、お互いに家で待てるならこんな企画はしなくていい。
一応急がなくていいとは言ってる。見るからにドン臭そうだから海野さん。コケて怪我しそうだ。
俺は下着を持って帰るんだけど、海野さんはシャワーを浴びないと。今頃あんなとこやこんなとこ、洗ってんだろうなとか考えると、俺の俺な部分は反応してしまう。おい、俺。ちびっ子たちが遊んでる公園で反応するのは大変マズいのでご遠慮ください。
「お待たせしました、山県君」
そんなに家から離れてない距離を彼女は小走りで来てくれた。離れてないのに息切れし膝に手をつき肩で息をした。
「そんなに急がなくても――」
膝に手をつき呼吸を整える海野さんの胸元がチラリと目に入った。白く小ぶりな谷間。高校生らしい、未成熟で、瑞々しく、呼吸さえ忘れてしまった。
半乾きどころか、まったく濡れたままの髪をパーカーで覆い、俺のハレンチな視線など気付かずに、にかっと笑いかけてくれる。
俺は不謹慎な視線を向けておきながら、この笑顔、もしかしたら俺がいたからなのかもと、ほんの少し思えた。しかたない、欲望を一時停止して海野さんのお兄さまを演じるか。
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