第21話 やっぱり、えっち。
「あのね、お願いがあります。伝わることはないと思うのですけど、花梨ちゃん――その望月先生って言った方がわかりやすいかな、会うことないと思うんだけど、言わないで欲しいの、花梨ちゃんに。苦しめたくないから」
実の父親が、再婚相手の娘に手を出そうとしている。
しかも、血こそ繋がらないが
知らせないことが嘘に繋がるかも知れない。何より、先生は海野さんのことを疑っている。人のものを取ってしまう娘だと感じている。
従姉妹の間で、義理の姉妹間でお互いの評価が異なっている。
先生の母親が病床にある時、お父さんと不倫関係にあったのだろう。
同じ血が流れる海野さんを警戒しているのか、従姉妹だから知ってる何かがあるのか、それとも女の勘というやつか。
わからない。わからないが、警戒しながらも『お願い岬をひとりにしないで』という言葉が胸を
内緒にするべきか、それともすべて打ち明けるべきか。
内緒にすることで海野さんの希望は叶うし、先生の心労は軽減される。軽減されるとはいえ、知らないだけで現実は何も変わらない。
だが心の平穏は保てる。それに海野さんの女子としての恥の感情に寄り添える。自分の下着が奪われるのだ。出来たら内緒にしたいに違いない。
すべてを打ち明けたら恐らく先生は動くだろう。さっきも触れたが、肉親に対する怒りのブレーキは効きにくい。
いくら正しいとはいえ、そんな
それと、海野さんとの約束を秒で破ることになる。それなら最初からそんな約束は出来ないと拒絶するべきじゃないのか。しかし、この約束をしない限り海野さんは安心できない。家もだし、先生も巻き込むとなると気が気じゃないはず。
先生の心の平穏と、海野さんの
俺は先生に言わないことを決めた。そして、この先どう行動するかを判断するために、海野さんに詳しい聞き取りをすることにした。
「言いにくいだろうけど、下着はどのタイミングでなくなることが多いの?」
俺の言葉に彼女の顔は真っ青になる。俺の腕に回したままの手が、ぎゅっとなった。
「ごめん、対策をしたいんだ。話したくないだろうけど」
すると海野さんは
あと、部屋でなくなるというか、持ち出され戻されているらしい。海野さん曰く、自分は几帳面で下着の畳み方を決めているらしい。その畳み方の法則から外れるものがあり、それが決まって自分が不在でお義父さんが在宅の時。
後者の畳み方が自分のやり方に合わない、というので疑うのは理解できるが、前者のように事後洗濯されてしまう場合――どうやってわかったのだろう? もちろん海野さんを疑ってる訳じゃないが、どういう着眼点か気になる。
「あの…その、私…えっと……ないんです」
どうしたことか、海野さんは急に挙動不審に逆戻りした。なので、オフィーリア役でと注文を付けた。しかし、それでも海野さんは真っ赤な顔で抵抗する。ようやく、渋々口を開いた言葉がこれだ。
「わたくし……その……
「生えてない?」
生えてないとは何が? って話になる。生えてない、生えてない……生えてない……生えて――ん? んんん⁉
「海野さん、下の毛生えてないの⁉」
「お、お兄さまなんて大っ嫌い‼ もう、知りません!」
あまりのことに俺は衝撃を受け思わず本人に聞いてしまったが、とんでもないことを言ってしまったと後悔しても、もう遅い。
悪気がないのを理解してくれたのか、真っ赤な顔のまま視線を逸らして説明してくれた。
「元々なんです……その……生えてなくて。
なに系の相談なんだ? 刺激を与えたら生えない? なんてアドバイスしかけて、止めた。きっと「どんな刺激なんですか、お兄さま!」なんて、真っ赤な顔で抗議されるだろう。本人も、少し話がそれたのを察して話を戻した。
「えっと、下着はネットに入れて洗います。ご存じですか、網目の細かい洗濯用の袋です」
「それは知ってるけど……ごめん、話が見えん」
「その……ネットにですね、その……毛が……」
「えっ」
そういうことか。
無毛症なのかどうかはわからないが、海野さんは下の毛がないらしい。なのに、洗濯ネットで洗濯しているにも関わらず、下着に毛が付着していたのだろう。ネットをすり抜けて入ってくる可能性はゼロじゃないだろうが、その可能性は極めて低い。
そういうことに使用された証拠とみていいだろう。
そうなると家に使用済みの下着はもちろん、洗濯してる下着も持ち込むべきではない。待てよ、今はどうしてるんだ?
「海野さん、今はどうしてるの? 家で洗濯してるの?」
「言いにくいのですが、ある程度まとめてコインランドリーで洗ってます」
「ある程度……それって家に置いてるの?」
「いえ、鞄で学校に。その不安です、体育とか移動教室で鞄から離れる時とか、トイレに行く時」
それは、そうだろう。
荷物を荒らされることは少ないかもだけど、鞄を間違えて、なんてことはある。使用済みの下着を持ち歩いているのは、色んな意味で危険極まりない。だけど、これで方向性は決まった。
「海野さん、確か浜中出身だよな。じゃあ、駅は同じだろ」
「あっ、はい。同じ駅を利用していますが、それがなにか?」
俺は方向性を説明した。
洗濯後の下着は俺の部屋で管理する。毎日一緒に帰ってその日着ける下着を渡す。その足で海野さんの家に向かい、使用済みの下着を回収し俺の家で洗濯する。
しかし、これにはある条件を飲んで貰わないといけない。
「俺、自分の洗濯物は自分で回してる。だから、俺の洗濯物と一緒に洗うことになる。汗臭いとか言わないでくれると有難いんだけど。あと洗剤も同じだから同じ匂いがヤダとかもやめて、傷つくから。あと、最低限洗濯後触る。干せないし。それと、こっそりクローゼットとかに干すことになるから、乾きが悪い。この辺りオッケーならこの問題は片付かないか?」
「でも、それではお兄さ――山県君の負担が。それに毎日一緒に帰らないとです、私なんかと帰ってたら変なこと言われるかもです」
「それでも海野さんの心の負担が取れる。それにね」
「――それに、ですか?」
「うん、俺と海野さんの
「もう、山県君ったら、なんか言い方、です! やっぱり、お兄さまはえっちなんですね」
もしかしたら、今日初めて彼女の柔らかな笑顔を見れたかも知れない。こうしてなぜか俺たちは、ふたりで行動することが増えていったのだ。
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