第22話 どうでもいいんだ。
平和な時間は長くは続かない。
海野さんとの時間を平和と呼ぶかは別として。少なくとも、彼女が抱える問題のひとつに着手出来たのは、彼女の心の平和に繋がるだろう。
それに反比例するかのように俺は問題を抱えた。しいて言えば、このボストンバックいっぱいの同級生の下着。
何度か言ったが、俺はまごうことなき童貞で、昨夜はじめて直接女の人の裸を――見たのか? 手で触れて――ない。付け加えると数度――自分で達成した。
それはつまり、原理原則に基づくとやっぱり俺は童貞のままで、そんなこともあり同級生の下着が気にならない訳がない。
ただ、海野さんの追い込まれた現状を考えると、そういう目で見るべきではない。だがしかし、俺は単なる童貞男子高校生であることをお忘れなきように。
前置きが長いが、正直大船に乗った気分でとは間違っても海野さんには言えない。ウチだって負けず劣らず家族とは不仲だ。そして将来の看守候補生と呼ぶにふさわしい妹がいる。
ボストンバックいっぱいの同級生の下着を隠し続けるのは、中々厳しいミッションになりそうだ。
それプラス、海野さんの下着を毎日干せるスペースを確保しないといけない。乾いた下着ならベッドの下やら押入れの奥、バック・イン・バックなどの離れ業もなくはないが、濡れた下着を干すとなると場所はかなり限定される。
そうはいうものの、毎日使用済み下着を持って登校していた海野さんの心労に比べればたいしたことはない。
俺は海野さんと別れ、自宅に向かう。
先生の家に行くのも有りなんだけど下着を隠さないと。それに、妹に夜英単語やら漢字、数学のテストをすると宣言しているので仕方ない。
現状を再確認し、プロの家庭教師を雇うならそれもいい。
家に帰るとリビングなど顔を出さずに自室がある2階へ。いつものことだ。顔を合わせてもろくなことはない。
これはお互い同じだろう。神様を信じてるとかどうとかではないが、どうしてこんなメンバーの組み合わせにしたのだろう。悪意しか感じられない。
俺は下着を隠そうと思ったが考えを改めた。
隠せば隠すほどあの妹は
見慣れないボストンバックは妹の格好の
見ないように努力したが同級生のリアル下着はある意味圧巻だ。派手なものはなく、どちらかと言えば淡い色どりで、比べちゃいけないが先生の迫力満点のブラの大きさからすると、ささやかだが、逆にそれが高校生らしい
俺は海野さんと話してほんの少し今更ながら悟った。
ウチの家族は俺を評価する気なんてサラサラない。逆手に取れば、これ以上評価があがることなんてない。更に言えば、じゃあ今更俺の部屋から同級生の下着が大量に見つかったところで何も変わらない。
下がるほど評価は高くない。ド底辺が何を仕出かしてもド底辺なんだ。
さて、俺は
テストをするのと聞くので、リビングですると告げ1階に移る。すると俺にとって最悪とも言える条件が整いつつあった。それは父親の飲酒だ。
普段から俺の言う事などまるで耳を貸さないのだけど、それが更に悪化する。気に入らなければ大声を張り上げ、時には物にあたる。
世間一般にいう酒乱というヤツだ。
触らぬ神に
こんな使い方したらダメかもだけど、今の俺には先生の家がある。それだけでどれほど心強いか。
不機嫌な父親。顔色をうかがう母親。嫌々テスト問題を解く妹。無限にも感じたテストの時間は終わり、結果は余りにも無残だった。
英単語、漢字、数学のドリル。英単語、漢字に関しては指定したページにある全部からだ。数学のドリルは問題の数字を変えただけ。なので、真面目に取り組めば学力関係なく解けないとおかしい。
「一応先に言うけど、仮に見上げ坂高校を目指すならこの問題は9割正解しないと、まず合格しない。逆に言えば合格したいなら、9割正解させればいい。そんな感じで全範囲に広げれば、合格は難しくない」
そう、全範囲に広げることが出来ればの話。
言うまでもないが、高校受験は3年の範囲だけから出るのではない。1年2年の範囲をこの時期から学びなおして、今日のテストみたいなのを9割正解出来るようになるにはどれ程の努力が必要だろう。
そして残酷な結果が出た。
正解率は2割にも満たない。つまり今日1日で出来る努力、またはしないといけなかった努力が出来なかった。正直お先真っ暗で見上げ坂高校など目指さず、身の丈に合った私立をさがすべきなのだ。
そして大きなお世話かも知れないが、私立高校を専願して確実に高校進学を目指すべきだろう。
「残念だけど、見上げ坂どころか、公立すら難しいと思う。今日しないといけない範囲を指定し覚えるように言った。努力しないで成績を上げたいって言ってたけど、俺はそのやり方を知らない。俺は努力して成績を上げたから、ほかのやり方を知らない。兄としての責務って言ってたけどこの状態では果たせない。あとは三人で考えていい答えを探して」
俺が去ったリビングではグラスが割れる音がした。
どうせビールが入ったグラスを床に投げつけたのだろう。前に同じことをして割れたグラスを踏み付け、何針も縫ったはずなのに学ばない親だ。
俺は自室に戻り、いつもならビクつきながら勉強するしかなかったが手早く着替えをリュックに詰め込み、先生の家の鍵を確認し部屋を後にする。
数歩出た後気になり、中学時代の通学鞄も肩に引っ掛けた。海野さんの下着が入ってる。家を出ようとする俺を父親が聞き取れないような酔った声で罵声を浴びせるが、気にしない。
もうこの家はどうでもいいんだ。
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