第14話 朝がまた来る。

「ここは、こうしないかい。ふたりで深呼吸しよう。でないと、朝には自己嫌悪の沼にはまりそうだ。正直、自分がこうも意思が弱いとは知らなかった。白状すると、もういいんじゃないか、私たちはそれなりにあらがったよと言いそうで怖い。私は存外ヘンタイなのかも知れない。いま君が冗談でも『触りますか』なんて言ったら、嬉々ききとして触ってしまいそうな自分が怖い」

 先生はあまりにも情けない顔で心境を吐露とろするから、なんだか可哀そうになる。もちろん俺もしたいし先生に触れたい。触れて欲しい。

 だけど、きっとそれは先生は後悔するし気まずくなる。2年会えないでいてようやく会えたんだ。

 なにも一生出来ないんじゃない。後悔も気まずさもない状態で1年後には出来る。今じゃない――なので俺は先生に提案した。


「先生、もう一度しましょう。例の背中合わせでお互いにひとりエッチを」

「えっ、でももうよくない? 頑張ったよ、お互い。世間というものはいつも冷たいものさ」

 もはや自暴自棄。

 すでに勝手に世間の冷たい視線にさらされてる気になってる。バカみたいに感じるかもだけど自己暗示ほど怖いものは無い。全自動でメンタルが削られて行く。

「先生、しっかり! ここが踏ん張り所です。でないと俺が押し倒すか先生が押し倒すかです!」

「先生はどちらかというと――かなぁ」

 両手で頬を押さえて恥ずかしそうに答える。かわいいんだけど……なんでいつも肝心な時にポンコツなんだ?


「先生。俺そんなアンケート取ってないです。ほら、もう1度抜きましょう!」

 我ながら何を頑張らせようとしているやら。でも仕方ない。俺だって押し倒しそうで切羽詰せっぱつまってる。言葉選びしてる状況じゃない。要は先生の心に響けばいいんだ。

「抜くって。君はエッチだなぁ……」

 ダメだ、ダメな方向に響いた。なんか先生の中で乙女要素が多めになってる。しかも俺ったら「めちゃめちゃかわいい!」になってる。ヤバい、ブレーキ係が不在だ。


 俺の脳内会議議長は――先生『押し倒されたい派』だし、もういいか? もういいだろ、頑張ったって! 思春期男子がここまで我慢したんだ、誰が俺を責める? 

 いやむしろ賞賛されるに違いない。そうだ、普通だろ? 好きな娘を抱きたいなんて。その俺の好きな娘がたまたま先生で、俺が高校生だっただけだ。

 我慢なんて不健康だ。きっと気持ちいいだろう。憧れの先生の上で果てたら――こんなこと脳内会議議長が申してます。


 憧れ……?


 そういや言った。先生が。勉強ばっかりしてたって。だから初恋もしないままだったって。でも、だからの教師になれたって。そう、憧れの。


 でも、俺と最後までしたら――先生からその『憧れ』を奪うことにならないか。そんなことして、俺は先生の笑顔を見ていられるか?


 無理だな。仕方ない。


「先生……いえ、花梨かりん

「えっ⁉ は、はい!」

「いいか、今から背中向いて服を脱げ」

「で、でも――」

「でもじゃねぇ! お前、俺の言う事聞けないのか!」

「聞く、聞きます」

 俺は突然のオラオラ系彼氏に変貌してみた。

 先生とこんなことしてる時に他の女子を思い出すのもなんだが、海野うんのみさきが俺の前に現れた時してた諏訪すわ初佳もとかの完コピ。

 オラオラ系彼氏のモデルがいるわけじゃないが、こんな感じだろうの見切り発車。しかし、意外にもというか予想通り先生の反応は良好だ。


 先生は俺の言葉に従順に従い背を向け、布団の中で全部脱ぎ「ぬ、脱ぎました。その……朝稀あさきさん」と答えた。

 脳が焼け付き思考がバグりそうなのを我慢し、俺は裸の先生の背中を指ですっと撫で降ろした。先生はぴくんと跳ねて小さな悲鳴を上げた。

 背中はギリセーフという拡大解釈。俺の予想では先生は拡大解釈に弱い、いやめちゃめちゃ弱いハズ。

 俺自身おかしくなりそうなのを、さっきまでは背中合わせのひとりエッチは自主性に任せお互いにが――そうじゃないことに気付いた。


 そう、何かが俺に舞い降りたんだ。

「花梨、触ってみろ、お前の好きなように」

「す、好きなように――? あの……」

「なに、なんか文句あるの?」

「いえ、ただ……命令を」

 あぁ……あの強気な先生が俺からのエッチな命令を待っている。会えなかった2年の間に先生は立派なドMに成長していた。

「命令して欲しいんだな、そうか。じゃあ激しく触ってみろ。そうだな、俺が触ってるみたいに、雑に激しく」

 言っておきながら、俺は俺の言葉で興奮が抑えられないようになっていた。互いに2回もした後でそれなりにハズなのに、背中で感じる先生の反応が今までとは段違いで、どうかなりそうだ。

 なんで最初からこうしなかったんだ。ふたりいても互いを触れない決まりにしたのは事実だが、互いが互いを触ってるようには出来る、妄想とはいえ。


「朝稀さんも……私が、先生が触ってるって思って……先生ね、恥ずかしいけどないの、触ったこと。だから、だろうけど、そういう感じで触ってるって――」

 言葉だけだ。

 さっきまでとの違いは。俺は先生に命令をし、先生は懇願こんがんするような声で俺にお願いした。だから、信じられないほど早く、ふたりは果てることになった。さっきまでと段違いな感覚に包まれながら。


 互いに肩で荒い息を洩らし、どれくらいの時間が過ぎただろう。次第に呼吸は整い、それでも許された背中だけは存在を求め合うかのように、擦り合わせた。事なきを得たとは、まさにこの事だ。


「ギリセーフでしたね……」

「ほんとにな。私は完全に流されてたよ……しかし、君には驚かされる。どうしてエッチな引き出しをそんなにも持っているんだ」

「それはですね、この2年間。先生に会えない時間数万通り、先生でエッチな妄想をしたからです」

「あの……誇らしげにしてるとこ申し訳ないが、少しは勉強もしなさいよ、してるだろうけど」

 ごもっともなアドバイスを受け、俺は服に袖を通した。さすがにこんなにもイチャイチャしてたから朝がやって来ようとしていた。

 それは俺と先生のしばしの別れを意味した。


▢作者より▢


最後まで読んで頂き感謝、ご自愛くださいませ。

アサガキタ。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る