第11話 単なるやきもちです。

 ネタに事欠かないのだが、俺たちは先生が淹れてくれたコーヒーを飲み、寝るというか、横になることにした。最初は俺が居間のソファーで寝る予定だったのだけど、もう少し話さないかい? と先生が言いだし、寝室に来ればいい、となった。流石にいいのだろうか、と思いながらそこはしつこいが男子高校生、えっち系の好奇心の塊だ。そりゃ、行くでしょ、先生の寝室ならになる。


 だけど、どこかで冷静な俺もいる。これは先生にとって決していい事ではないことぐらい、頭では理解していた。そう、頭では。


 しかし2年の歳月を埋めたい気持ちは溢れる。

 先生の寝室に足を踏み入れる。すると、先生はベッドで奥につめ俺に隣に入るように言う。まさかここまでの展開とは思いも寄らない。

 しかも俺が手前となると、先生は壁に挟まれいざという時に逃げ場がない。最初から逃げる気なんてないのかも。

 いや、きっとこれはラブコメにありがちな、その気になった時に先生が爆睡してお開きになるのだろう。それなら、ベッドの隣で僅かな時間でも隣にいたいになったのだけど、コーヒーを飲んだせいか、元々先生は目が堅いのか、わからないが一向に眠ろうとしない。

 それだけならまだいいが、修学旅行や野外活動の夜みたいに先生のテンションが変になってきた。簡単に言うなら、下ネタ解禁状態、もとい下ネタに通じる話をバンバン振ってくる。例えば――


「ねぇ、山県君は?」

 なにがですか、と聞きたいところだけど、さっきから先生はえっちな話しかしない。いや、先生とそういう話は是非したいのだけど、距離は近いというか、所々触れてるし、俺の俺であるは、そりゃもう……な感じで、どうしようもない。


「ないですよ、先生だってさっき、俺のことクソ童貞って言ってたじゃないですか」

「言いはしたさ、でも実際は違うかもだろ? あれはある意味私の願望だったりする。もし、そうならいいなぁ、くらいのもんだよ。それより私は君の自主性を重んじてるんだよ、つまり君の言葉で聞きたいなぁ」

 こんな感じでグイグイ来る。正直、一触即発という四文字熟語がピッタリなのに、えっちな話なんかした日には、ありとあらゆる一触即発だ。だから、息継ぎを兼ねて切り返した。


「先生はどうなんですか、そう言いながらあるんでしょ」

「いや、ないさ。言ったろ? 彼氏がいない歴イコール年齢なんだ。そんな私がどうやって経験を積むんだ?」

 えっちな経験を積むって表現ははじめて聞いた。まるで修行だ。そんな修行があるなら、是非とも修行したい。

「行きずりとか?」

「これは殴っていいやつだと思うんだが」

「冗談です、すみません」

 こんな感じなのだけど、探求心が少々高めの先生はこんな低い柵、簡単に飛び越えてくる。

「それで、君はその……いつもはどうしてるんだ?」

「ど、どうしてるって、まさかの下半身事情ですか? それ教師と生徒で共有する理由あります?」

「いや、ないかもだが。聞きたい時ってないかい? 誰のでも聞くワケじゃない。しつこいけど」

 言葉は普通なんだけど、内容が普通じゃない。何が知りたいんだ? 2年以上振りの再会なんだ。求められてるので仕方ないから答える。先生の飽くなき探求心。もう先生、襲われるの秒読みだけど。誘ってる――わけないか。

 でも、俺の我慢も限界がある。精神的にはまだ大丈夫かもだが、下半身的には限界を数段越えている。からかってるつもりじゃないのもわかるが、いい結果にはならない。俺は俺の理性をどう納得させたらいいんだ。

 仕方ない、出たとこ勝負だ。先生が呆れるくらいのえっちな情報共有をして、赤面しながら布団にくるまって寝るみたいにパターンが落としどころだろ。


「してますよ、自家発電」

「自家発電か。噂では聞くがそんなにも――電気が起きると言うほど、その……激しく動かすのかい?」

 俺は興味津々の先生を少々持て余し気味だ。ついでに俺の俺な部分はとっくの昔に持て余してる。

「動かしますよ、なんならスマホぐらいなら、充電出来るんじゃないかってくらいにはね。わかりました、先生が聞きたいなら話します。でも、怒らないでくださいよ、聞きたがったのは先生なんですから。俺は先生と会えなくなった日から、申し訳ないですけど、先生でしてません。えっちな動画も見ますけど、先生みたいな女優さん探しますし、先生くらいの胸の大きさの女優さんばっか探してます。先生みたいな髪型で。マンガだって、先生みたいなキャラ探してします、こんなもんです。俺のありとあらゆるものは先生を求めてます。だから、さっさと寝ましょう」

 なんで好きな人に自分の自慰事情を公開しないとなんだ、どんな羞恥しゅうちプレーだ。クセになったら誰が責任取るんだ。


「山県君、折り入って相談なんだが――」

「嫌ですよ」

「まだなにも言ってないが」

「聞きたくありません。どうせ経験ない私の前でして見せてくれとかでしょ。付け加えるなら、先生は『減るもんじゃないだろ?』とかも言うでしょ」

「凄いなぁ、君は預言者か。いや、そういう意味でも君は才能がある」

 何の才能だ。えっち系の才能はまだ未経験なので、伸びしろは確かにしっかりありますが、先生が言う才能って、まさか小説を書くことでしょ、どう関係するやら。

「ダメかい?」

「ダメです」

「どうしてだ、ダメな理由を聞かせてくれ。もし誰か――やっぱり」

「岬じゃないです」

「呼び捨てする仲なのか……」

「ノリに決まってます。そうじゃなくて、そんなことしたら、俺の歯止めは簡単にポッキンです。朝まで先生を襲う自信があります。ついでに言うと、誰かいるわけじゃないです」

「なら、少しくらいよくないかい?」

「先生、なぜ止めるのが俺なんです。本来先生が止めないと」

「うん……そうなんだが……そうだな、すまない。先生は節操がないのかもな」

「そこまでの話してますか? 俺は、先生が大事です。先生が先生出来なくなるのは嫌です。正直、血の涙を流しながら我慢してます。あの恋文みたいな小説を先生に書いた男ですよ、したくないワケないじゃないですか」

 すると先生は横になったままで、あごに手を当て思案顔。なんかちょっとかわいいと思った俺がバカだった。


「山県君の気持ちは有り難いよ、そういうかた苦しいところも好きだし。でも、どうだろうか、君の言ってることはきれい事で、君は必ず後悔する。私だって、正直自信を失くす。元々、僅かにある自信だって君の恋文起因なんだし」

 先生は言い終るとしょんぼりした。イジめてるんじゃないが、そこはかとない罪悪感。

「わかりました、こうしましょう。お互いが認める落とし場所に関して話をしましょう」

「落とし場所?」

 先生は普段強気な言葉使いなはずなのに、眼の淵に薄っすら涙を浮かべている。嫌なわけでも、嫌がらせしてるんでもない。それゆえの落としどころが必要だ。俺もそろそろ限界を越えて、なんなら俺の俺な部分が力み過ぎて、筋肉痛を起こしそうだ。


「俺が思う、これ以上はダメかなぁってのは、最後までするは全然アウトです」

「まぁ……それくらいは私でもわかってる、わかってるさ」

 ホントだろうか。先生は自分に言い聞かせるように何度もつぶやく。

「それで?」

 呼吸を整えた先生はふたりの線引きを進めようとする、俺主導の。

「触るのもダメでしょう」

「ダメなの⁉ じゃあ、どうやってするんだ⁉」

 そもそも、すること前提にしないでください。どうしよ、本来なら俺の方がしたいはずなのに、なぜか先生があまりにこっち系の垣根が低い。このままでは、なし崩し、渡りに船で先生を襲いそうで怖い。

「先生、いいですか。最低でも胸と、お互いのそういう場所に触るのはアウトです。これは教師と生徒以前の話です」

「見るのも?」

「見るのもです」

 俺も見たいですなんて口を滑らせたら、先生は何するかわからない。なんで俺がブレーキ役なんだ。


「じゃあ、どうだろう。背中に触れるくらいは。考えてみて欲しい、背中が見えるドレスもあるし、水着もある。そういう規制があるなんて聞いたこともないだろ?」

「まぁ、そうですけど」

「なら、こうしないか。部屋の灯は消す。それでお布団の中で背中をくっつけ合おう」

 ん? ずいぶんと難易度が下がった。ようやく先生も俺の気持ちわかってくれたようだ。俺はさっそく先生の寝室の灯を消し、手招きされるまま先生の隣に潜り込んで先生に背を向けた。

 しかし、何かしらの違和感を感じる。何かが触れたとかじゃない。明らかに、怪しい衣擦れの音がする。

「先生、まさか脱いでます?」

「ああ、中々ドキドキするもんだな、こういうのは初めてだ」

「初めてだ、じゃないです! なんで脱いだ?」

「なんでって、聞いただろ。背中が見えるドレスとか水着の話」

「いや、聞かれましたけど……」

「だろ? 背中だけだ。触れるのは。ほかは我慢しよう。触れるのも、触れてもらうのも、いいだろ?」

「いいですけど、まさか先生いま……」

「うん、なにも着てない。もちろん下着もだ。君はどうする、まさか先生に恥をかかせたり、しないよな?」

 はかったな、先生! くそ、もう何もかも限界なんだ。でも、先生はこの布団の中で裸で、例え背中同士でも触れあいたい気持ちはある。

「山県君、背中同士が触れたところで、罪にはなりにくいよ。まぁ、未成年を泊めた時点でダメなんだけどね。でも、ふたりの落としどころ、お互いに嘘をつかないで済むギリギリだと思うんだが、ダメかい?」

「ダメじゃないです。俺だって」

「私に触れたいのだろ? わかってるよ、我慢してくれてるのも。だから、私もこのくらいで我慢してるんだ」

 先生が我慢してるという言葉に、脳が焼かれそうだ。これ以上意地を張っても仕方ない。俺は先生が買ってくれたスウェットやシャツ、パンツを脱ぎ先生が横になるベッドの布団をめくる。

 暗闇の中、先生の白い背中が白く浮かび上がる。このまま背中に抱きついてしまったら、先生の何もかもを独占できるかも。いや、もしそうしたら、先生はそうさせてくれるはずだ。あとは、ふたりで黙ってさえいればいい。

 来年の今頃には俺は高校生じゃない。誰に文句言われるワケじゃない。それまで黙ってさえいればいいだけじゃないか。簡単なことだ。共通の知り合いは海野岬しかいない。しかも、彼女とは長い間話してこなかった。これからも変わらない。

 なら――先生をここで抱いても、いいんじゃないか。先生もそれを望んでるし、俺が片意地張ってるだけじゃないのか?


「先生の背中、めっちゃきれいですね」

「そうかい? ありがとう。なんだい、気が変わったかい? 私は構わないよ、いち教師としてもだし、個人としても君が好きだからね。君の好きにしたらいい、君のことだから遊びじゃないだろうし。年下に従うのも、案外悪くない」

「先生、遊びのはずないです」

 ダメだ。先生の期待は裏切れない。この場合「裏切る」という言葉が必ずしも正しくない。だけど、仮にそうだとしても俺が俺自身に負けてないか。欲望に負けてないかという話。いや、勝ち負けじゃないが、少なくとも背中以外の裸に触れるのは今は違う気がした。

 俺は布団に潜り背中同士を合わせた。

「そう来たか、おもしろいね、君らしい。あの日の君とまるで変わらない。覚えてるかい、私がほんの少しだけ胸が開いた服を着ただけで、君は無口になり目も合わせてくれない。最初わからなかったんだ、なにか嫌なことでも言っただろうかと、反省したりもした。ふと思い当たったんだ、服だ、胸がほんの少し開いた服。それが恥ずかしかったんだろ?」

 裸の背中を合わせながら昔話を楽しそうにする先生。でも、それは少し違う。俺は身の程もわきまえず、先生の胸元がほんの少しでも誰かに見られたくなかった。あの日の俺はそんな事さえ言えないでいた。

「違います、単なるやきもちです」

「これは驚いた、いや本当に、ホント驚いてるんだ。恥ずかしい話、もし君が嫉妬心からそうしてくれてるなら、どれほどうれしいかと。いや、まずは謝ろう、私はこの期に及んでも本心が言えないでいる。それを君は――」

 そこまで聞いて俺はクギを刺した。もちろん、言葉では先生にだけど、本当は自分自身にだ。

「先生、たったあと1年ないです。そこまで我慢したら、先生の違反行為は単に未成年を泊めただけです。それもダメかもですけど、それまで我慢します。我慢できる俺でありたいです。それ程先生が好きだから」

 どさくさまぎれに告った。

「わかった。言質げんち取ったから。そうね、うん。じゃあ先生も。ほんの少しのことなら、浮気とは認識しないであげる」

「いいんですね、こちらこそ言質取りましたよ。そんなつもりじゃないなんて泣かないでくださいよ」

 それはないか、まさか先生は浮気容認論者なのか⁉

「えっ……て、程度はわきまえなさいよ、いい? 最後まではダメ、絶対!」

 念を押されたがワザと曖昧な返事をした。その方が先生も危機感を抱くだろう。


 とはいえ、俺も男だし教師とはいえ先生も女性だ。このままでは収まらない。何がというと――がだ。

「先生、どうしましょう……目もギンギンで寝れません……」

「ごめん、ここだけの話。私も……あのね、他言は無用、わかるわね?」

「はい、決して漏らしません、で? します? 合法な範囲で」

「合法なら……構わないでしょ?」

「「合法なら……ね」」


 そう、俺たちは裸の背中合わせのまま、背中以外一切触れないまま――同じベッドに男女が揃っていながら、お互いで自分自身を慰めた。そう、背中合わせで大好きな先生とひとりエッチをした。その結果、俺たちは朝まで深い深い眠りに落ちた。そこにある大好きな先生の裸に触れることもなく、初めての相互鑑賞と呼べるかどうかわからないが、お互い満足したのは間違いない。


▢作者より▢


幕間までお付き合い頂き感謝いたします。


アサガキタ。







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