第9話 本題に入ろう。

「まずは刮目かつもくして聞いてください」

 俺はそう前置きして話し始めた。偉そうに言うが実はこの時、念願の先生と手を繋いで貰い、心の中はにっこにこだった。そんなにやけそうな状況を誤魔化したくて咳ばらいをひとつ。

「先生。俺はご存じの通り男子高校生です」

「それは知ってるが……」

 中途半端な相槌。俺はすかさず喝を入れた。

「知らないから教えます。先生は高校教師ですので、この先の教師ライフの参考にしてください。まず、男子高校生の頭の9割5分はえっちなことしか考えてません」

「9割5分……失礼だが、それは君だけだろ」

 いや、ホントに失礼な教師だな、今からでも押し倒すぞ。言うのはタダだからな、ヘタレの特権だ。

「じゃあいいです、俺だけで。では聞きますが、その頭9割5分がえっち男子と密室でシャワーを浴びたまでは、ギリ許すとして」

 えっと、私は何に許しを得ないといけないんだという、先生のド正論はモチのロンでスルー。


「考えて見てください。あの小説のような恋文を送り付けたヤツですよ、しかも2年近く放置してあまつさえ、先生は無防備にもシャワーを浴びる。本来なら、サスペンスが始まってもおかしくない場面です」

 自分で言っておいてなんだが、これはおかしい。サスペンスは起こらない。だけど素直な先生は「そうなのか」と真顔で頷く。この人俺が付いてないと、いつか詐欺にあうだろう。

「先生は無防御です。確かに俺は先生のシャワーシーンを覗きたくても、覗かない。それをチキンだとかヘタレと言いたいなら、言えばいいです。単に嫌われたくない。だから覗きたくても覗かない。これが一般的な男子高校生です。しかし先生、失念してませんか? 俺があのわら半紙の感想文を書くほどの男だという事を」

「忘れてはないよ、むしろ好ましく感じている。それはわかって欲しい」

 俺は大きく首を振った。そして大げさに頭を抱え、物事の本質を平和ボケした先生の頭に叩きつけた。

「考えもしてください、あの授業くらいでわら半紙いっぱいの感想文を書けるようなヤツですよ」

「知っているけど?」

「先生は知ってるだけで理解してない。俺が入る直前に先生がシャワーを浴びたでしょ」

「まぁ、浴びたさ。それがどうした?」

「どうしたじゃねぇ‼ 無防御女子か⁉ 先生が入った風呂場ですよ、男子高校生たるもの妄想だけで、あんなことこんなこと出来るんです! もう、考えただけで、俺の俺な部分は大騒ぎです!」

 済ました顔で「俺の俺な部分?」と言いかけて、先生は湯気が出そうなほど、顔を真っ赤にした。よし、畳みかけるぜ。

「復唱してください。『男子高校生の頭9割5分がえっち!』 カモン!」

 俺は恥ずかしがる先生に無理やり復唱させた。この無理やりという部分がミソなのだ。しかしこうもガードが低い先生が心配でしかたない。世には『女教師シリーズ』なるものが、そりゃもう人気で人気で猫も杓子しゃくしも女教師、女教師ときたもんだ……コホン。

 しかし、冷静に見るとあまりに無防御な姉が心配でしょうがない弟だな、俺。


「ちなみに先生は着替えた下着どうしました?」

「普通に洗濯機に入れたが? 他にどうする」

「密室で飢えた男子高校生が人目をはばからず活動できる、脱衣所という限られた空間に、先生は下着を放置したと? 先生、それはあまりに安全配慮に欠けた行為だと思いませんか?」

「私は何で叱られてるのだ? ここに居るのは君だ。その辺りの高校生にはしない」

 ごもっともだ。でも、世界は理不尽なんだ。強い者が弱い物を捕食するように、よりエロい者がガードの低い女子を食いものにする。

 まさにこれがエロ漫画のヒューマン・システム。


えて聞くがまさか、山県やまがた朝稀あさき……私が一日つけてた下着を……か、いだのか?」

 完全におびえてんじゃねえかよ! なに引きながら怯えてるんだ? 芸達者か! 嗅がねぇよ、男子高校生、そこまでじゃないからね? だがしかし……

「嗅いでません」

 なぜに敬語? やましいことでもあるのか? あるんです!

「じゃなにした? まさかしげしげ見たりしてないだろうな!」

 ヤバい、気付けば攻める方から攻められる方になってた! その方が気持ちいい! じゃない! ここで起死回生の一撃を! って、そんなん無かった‼


「で、正直言いなさい。見たんでしょ? 何をどう見たんだ? 怒らないから言いなさい! とはいえ、先生、そこそこ心狭いのを忘れるなよ?」

 完全な恫喝どうかつだ。嘘ついたらしばき倒されるヤツだ。しかし敗軍の将は兵を語らず、覆水盆ふくすいぼんに返らずだ。

「その……上を見ました」

「上ってブラか? で、嗅いだのか? 嗅いだなら、君との関係は考え直そう」

「だから、俺はそこまでの冒険者じゃありません。その……やっぱし、先生でっかいなって惚れなおしました、はい」

「冒険者って……そこまでの冒険じゃないぞ、私の体臭は。確かに1日の汗もあるが……断じて、鼻が曲がることなどないと自負してる。それは追々説教するとして――いいか? 他の女子、特に同年代の女子にそんなことしたら、大変なことになるからな? 完全に警察沙汰になる。保護者踏まえて大騒動だ。先生だから『ホントにこの子は!』くらいにしてあげるんだ。本当はちゃんと叱った方が君のためなんだろうけど叱ったら君、喜びそうでなんか先生怖いんだ」

 会えない時間が先生と俺のフェチの隙間を埋めてくれたらしい。結果オーライと言うべきか。


「――冗談はさて置き」

「君の冗談は捨て身過ぎだ。あと、下着を見た事実を冗談で片付くと思ってないか。ギリ犯罪だからな?」

 はい、たぶん、ギリではなくどっぷり犯罪です。しかしこれはわが身を投げ打って、先生に男子高校生たるものは、どんだけ頭エロ河童なのか伝われば、俺は幸いです。そして、言葉の通り冗談はさて置き、本題に入ろうと思う。


▢作者より▢


物語を共にしてくださり感謝します。

アサガキタ。





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