3話「政治闘争編」

「物流大臣・山田ケンタは余所者。国を乱す芽だ」

「勇者でも魔法使いでもないくせに、女王陛下の寵愛を受けるとは」


陰謀の火種は、城の奥深くでじわじわと燃え広がっていた。



◆ 嫌がらせの始まり


ある朝。

ケンタの執務室に山積みされた書類の束が届く。


「な、なんだこれ……?」

「物流許可証の新規申請です、大臣」

「百枚以上あるぞ!?」


わざと細かい規則を持ち出し、ケンタに膨大な処理を押しつける古参貴族たち。

だが――。


「……ははぁ、つまり“Excel地獄”を思い出せってことね」


ブラック企業時代に毎日繰り返された“終わらない事務作業”。

ケンタは冷静に、独自の表計算フォーマットを作り、半日で処理を終えてしまった。


「お、おのれ……!」

貴族たちは歯ぎしりする。



◆ 謎の物資消失事件


次に仕掛けられたのは倉庫の盗難。

重要な武具が忽然と消え、責任は物流大臣にあると糾弾された。


「証拠もないのに、俺を疑うのか!?」

「異世界から来た怪しい者ゆえ当然だ!」


追い詰められたかに見えたケンタ。

しかし――。


「実は、在庫管理表に“抜き取り用の隠し通路”を示すパターンが浮かんでたんですよ」


ブラック企業仕込みの“数字の違和感察知力”がここでも発揮され、犯人は内部の貴族の手の者であることが発覚。

王国の法廷で暴かれた陰謀により、逆に貴族側が窮地に追い込まれる。



◆ 思わぬ代償


「ケンタ殿のおかげで王国は守られた!」

女王から称賛を受けるケンタ。

だがその夜、彼はひとり胸を押さえていた。


「……おかしいな。異世界に来てから、時々胸が締めつけられるような感覚が……」


それは過労で痛めつけられた体の名残か、それとも異世界召喚に伴う“副作用”なのか。

本人さえ分からない不穏な影が忍び寄っていた。



こうして、貴族たちの妨害を退けたケンタは、王国に不可欠な存在としてさらに地位を固める。

だが同時に、“異世界から来た者は長くこの世界に適応できない”という古い伝承もささやかれ始めていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る