第3話 仲間
「今回も勝利! 負けなしです! 史上最強の戦闘奴隷! その名もアシュ――――――!」
「いいぞ! もっと俺たちに血を見せろ!」
「そうだ! お前の剣を見るために毎日来てるんだ!」
「血だ血!」
「そうだそうだ!」
うるさいな。死ねばいいのに。
それにしても血か、体中真っ赤だ、体を洗うのは週に一回だからな、俺は上半身は服着てないからな
「さてそれでは本日はここらへんでおしまいです!」
ピーピーわめく観客の声、空気に紛れ込む鉄の匂い、会場に漂う重い空気、
本当に嫌になる、すべて斬ってしまいたい。全て終わらせたい
俺が絶望していようが、何していようがおかまいなしに血を見たいだの騒ぐあいつらを切ってやりたい。
まあ、ヒトなんてそんな門なのかもな
***
「こんにちは、今日から君と同じ牢になった、フランメだ、どうやら君は独房ではなくなったらしい、これからよろしく頼む、ここまで25の試合で勝利して9つの試合で引き分けて4つの試合で助命をされているんだ」
「そうか、それは強いんだな」
なんだこの明るくにこにことしている戦闘奴隷は、アホか?
「まったく、笑わないと損だよ、人間笑うことで強くなれるのさ、わっはっはっは! てな具合でね」
「はぁ、なんだそれは」
「お! 笑ったね! むっつりしていたのに!」
笑ったんじゃなくて、呆れて苦笑いしたんだよ。まったく随分と面白いやつだ、
少しは心の雲も晴れたかもしれないな
「クックック」
「いやあ、笑ってくれてうれしいよ、今後も勝っていくから、よろしくね!」
これから明るくなりそうだな
~~~
「フランメ、死亡――――――! ここまでなんと25回も勝利してきたフランメですが、あえなく死亡してしまいました! 勝者は! アルテス――――――!」
おい! 嘘つき! 勝利するって言っていたじゃないか! なあ! どうして俺の周りからは人がいなくなるんだよ!
いや、だいたい人生そんなもんなのか?
最悪だ、晴れたと思った、心の雲はあいつの死により、分厚くなっただけだった
こんなくそみたいな世界だからこそ、お前みたいなやつがいてくれてもよかったはずだったのに
世界は
あいつが生きるだなんて少しでも期待してしまった自分が情けない
鉄の匂いが混ざった冷たい風が俺の肌を撫でる。
やっぱり奴隷なんて碌でも無い、そう感じた
***
「やあ、君と同じ牢になったフェアラーだ、よろしく頼む、血の剣闘士さん」
「俺はアシュだ……で、血の剣闘士って」
「お前の称号だ、よく血で塗れてるだろ? ちなみにいつもすぐに血を見せてくれるからって、観客からは好評らしいぞ」
「そうか、まあいいフェアラーよろしく頼む」
「ああ、よろしく」
「俺もいるがな」
「ああ、そうだな、こいつは俺と一緒に入って来た、なんだっけ?」
「ゴメスだよろしく頼む」
「ゴメスか、よろしく」
〜〜〜
あれから何度か試合があったが、どっちも怪我を負う様子すらなかった。
これからはこいつらと一緒にやっていくことになりそうだ。
それに仲を深めることで、こいつらが大体どういう人間なのかわかった
ゴメスは義理堅く、フェアラーは、ひょうひょうとした態度を取ったり、時には笑わせようとしてくれる、
ムードメーカーだ、戦闘こそあったものの、平和だ。
いや、今はだった、だな
「おい! お前ら! 3日後から戦場行きだ!」
「戦場!?」
「その通りだ、国境でレイド王国の軍と我ら帝国の軍が交戦中だ、お前たちはそこで帝国軍の一員となって戦え!」
「どういうことだ?」
「悪いがこれ以上は話せない」
本当に悪いなんて思っているのだろうか……
「戦場はどんな……」
「それ以上は話さない! 明日、明後日に試合はあることも告げておく、ではまた!」
そう言い残してあいつは去っていった、何だあいつ
「戦場はきっとかなり激しいことになっているのだろう、つまりは俺たちは捨て駒ってわけだ」
「いつ死ぬかわからない、何かしらのほとんど不可能に等しい任務にかりだされることになるかもしれない、文字通り捨て駒になるかもしれないってわけか」
「ああ、俺たちは強いから少しは待遇はいいだろうが、切り捨てられることなんてザラだろう」
2人が話し合っている、俺はそれを聞いていると一つ、名案が浮かんだ
「どうせ殺されるんだったら、逃げ出したほうが得じゃ無いか?」
「……なるほど、戦場だったら逃げ出しても、すぐに気付かれる可能性は低いだろう、かなりの名案だ、放出魔法を使えば遠くから狙い撃ちもできる」
「ああ、そうだ悪いが俺は放出魔法が使えないんだ」
「アシュがか?」
「血の剣闘士とか呼ばれてるのに?」
「血の剣闘士は関係ないだろう、フェアラー――しかし、それはなかなかに異常だな、放出魔法は普通、誰でも使えるはずだが……いや、今これを考えるのは時間の無駄だしやめよう」
「まあ、そうだな、でアシュどういう計画なんだ?」
「それは――――――」
俺たち3人で看守が近づいていないか、最大の注意を払いながら、逃げ出すための作戦を練り始めた、この計画なら逃げ出せるかもしれない、戦闘奴隷よりマシな生活になるかもしれない、そう期待に胸を膨らませる夜だった、それと同時に、母さんが生きていれば……そう思ってしまう夜だった、空にはかけた月が輝いていた
〜〜〜
side:神の視点
「長官、なぜ彼をアシュから話したのですか?」
「危険だからだ。合わせてはいけなかったということに今更ながら気づいたんだ。だが、あれを殺すのも惜しいだろう?」
「ええ、その通りでございます。戦線も拡大してきていますしね」
「その通りだ。ところで、改造生物の実験は概ね成功しているだろう」
「ああ、なるほど! そういうことでございますか」
「わかったか、さすがだな」
「いえいえ」
不穏な空気が漂っていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます