第2話 初めての戦い

「起きろ! 戦闘奴隷! 今日からお前は独房だ!」


「ッ! 母さん!」


「お前の母はもういない! 諦めな! それよりも戦いがこのあとあるからコンディションを整えておけ、お前の牢にいた戦闘奴隷のように負けるなんてことはないようにな、負けたら殺すからな」

 

 そうだ、母さん! 師匠!


「う、うぁ――――――」

「うるさい、だまれ、戦闘奴隷、これメシだ、じゃあな」

 食事、確かに良くなってるなハハッ



 ――でも、僕は、僕は母さんと……クソッ、どうして! どうして、いなくなってしまうんだ!

「わぁぁぁぁぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

 どうして! どうしてなんだ!


  湿った空気が肺に重くのしかかる。


 声だけが、この狭い世界を満たしていた。


 心にぽっかりと穴が開いたような感じがする


 もう、嫌だ、心が叫んでいた


 ~~~


「それじゃあ戦闘だ! 戦闘奴隷! 起きろ!」

「わかり……ました」


 八つ当たりだってわかってる、でも、次に戦うやつは殺す、そう決めた、僕の、いや俺の行く先を邪魔する奴は全員いつかぶっ殺す! 平和な奴が、幸福な奴が妬ましい、看守は今殺したら面倒なことになるから、殺さない、でも絶対に脱出して、自由になってやる!


「ほう、いい目だ、いくぞ」

 俺は看守に連れられながら、コロシアムに向けて歩ていく


「……」

「ここだ、ここで防具を整えろ」


「ああ……わかった」

 片手剣、それさえあればいい、師匠に教わったのは片手剣だけだ、盾はいらない、防がずに、攻撃も敵も全部、全部斬ってやる!


 ~~~


「「「「金だー! 血だー!」」」」


 観客の下品な歓声が聞こえてくる、血の匂いがする、どこからか絶叫が聞こえてくる


「さて! みなさんお待ちかねの剣闘ショーです! 今回戦うのは、数々の敵をなぎ倒していた、当コロシアムの名物剣闘士! リューダー!」


「グオオオオオオオオオオオオオ!」


「リューダ! てめぇにかけてるんだ! 負けんなよ!」

「勝てよ! 俺たちゃ金が欲しいんだ!」


 観客がうるさい、イライラする、妬ましい、なんでそんなに幸福なんだ!


「そしてそして、つい最近親がいなくなり、看守に反抗し戦闘奴隷になったアシュー! 面白い、実に面白い経歴ですね! 人の不幸は素晴らしい!」


「大穴だ! 当たれば億万長者!」


「さあ、始まります! バトル! スタート!」



「クフフフ、小僧、悪いが殺させてもらうぞ!」

「……」


「ハァァ!」


「リューダが襲う! どうなるどうなる! 血! 血! 血がすべてだぁぁぁぁぁぁ」


「――」



「斬った! 斬りました! なんとアシュが斬りました! リューダから血が舞う!」


「ォォォォォォォ!」

「クソがっ! お前に全財産賭けていたっていうのに!」

「最高だ! 大穴だよ大穴! 女神に愛されてるねぇ!」




 幸福な奴が妬ましい、恨めしい。それと看守はポンコツだな、強いって。この程度の相手、せいぜい師匠の100分の……ッ、師匠は



 いや、今考えることじゃない、全部斬ってやる、考えるのはそれからだ、いや斬らなくてもいい、ここを逃げ出す、それですべてが始まる



「それでは!これで1試合目を終わります! 衝撃の内容でした! 昨日死んでしまったライトの後継の最強剣闘士となるのでしょうか!」



 昨日死んだ、最強……師匠はライトって名前だったのか。




 名前も知らなかったなんて。最低だ。俺は最低最悪の人間だ


 ~~~


 独房にて

「ほう、初試合で圧勝するとは、私の目に狂いはなかったようだ」

 俺の母さんを連れて行ったゴミだ。


 なんだろう、吐き気がする、嫌悪感に見て溢れている。


 口と体は勝手に動いた


「おまえ! 母さんをどこにやった!」

「おお、今の君には関係のないことだろう?」


「母さんを返せ!」

「無理だよ、君のお母さんはもういないからね、分かってるんだろ、君にも、にしても普通の人とは違って放出魔法が使えないのによくやったね」


「うるさい! お前はいつか! いつか絶対に殺してやる!」

「やれるものならやってみな、この私は帝国でも強さで1,2の座を争う最強の軍人の一人だ、君ではまだかなわないだろう」


「ッ――――――!」

 むかつく、こいつが言っていることは非常にむかつく、でも何一つとして間違いを言っていない、今の俺じゃ少なくともこいつに勝つことは不可能だろう、おそらく戦い始めた瞬間に殺される。それはわかる


「強さを測る脳みそはあるようだね、フフフ、いつか君はきっと史上最強の一角に名を連ねるようになるだろう、僕はそれが楽しみだよ、君が上のほうへ上のほうへと行けば、奴隷としての扱いがよくなるだろう、まあ君は一生奴隷から抜け出すことはできない、だが待遇はよくなる、頑張って勝ってみな」


「……」

「じゃあね」


 むかつく、殺してやりたい。

 幸せそうで妬ましい、許せない。

 

 どうして、どうして母さんを連れて行った奴が、幸せそうに生きているんだ!


 でも、俺のそんな声にならない叫びは虚空へと消えていってしまう。


 俺は決めた


 次に戦う奴隷たちも、必ず殺し、強くなっていって見せると


 こんなろくでもない世界をぶち壊し、史上最強になり、奴隷からも逃げ出し、誰よりも自由になってやる、この首に奴隷の印が刻まれている、これだけは、外さないことにしよう、と俺は自分に誓った。


 〜〜〜

 side:神の視点

 いったん50年以上後に時を戻そう

「師匠、じゃあその首に印が刻まれているんですか?」

 ロンドがそう尋ねると


「ああ、これだ」

 そう言い自分の首筋にある奴隷を意味する印を見せた


「にしても、師匠はなかなかに壮大な過去を持っているんですね」

「カッカッカ、そうだな、この後、さらに大変なことになるが。まあ、これは話の続きを聞いていけばわかってくる話、ネタバラシはやめておこう」


「わかりました、少し話を遮ってすいません」

「いや、大丈夫だ。気になるだろうしな」


 アシュはそう優しく言い、弟子であるロンドの頭を撫でた

「うわ! 久しぶりですね、師匠に頭を撫でられるなんて」

「そうだな。いやか?」

「いえ、昔みたいで嬉しいです」


「それはよかった。では続けるとするか」

 そう呟き、話し始めた。満ちた月は明るく輝いている

 

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