エピローグ:陽だまりの錬金術

 一年後。

 セドナ村の小さな家では、二人の穏やかな日々が続いていた。

「エリアス、あのパン屋の男と、少し長く話しすぎてはいなかったか?」

 庭で薬草を摘んでいたエリアスの背中に、大きな身体がもたれかかってくる。振り返ると、そこには少し口を尖らせたヴィクターがいた。呪いが解けて感情豊かになった彼は、驚くほど嫉妬深く、甘えん坊になった。

 エリアスが他の誰かと少しでも長く話していると、こうしてすぐに拗ねてしまうのだ。

 エリアスは苦笑しながら、彼の頬にそっとキスをした。

「買い物をしていただけだよ。心配しすぎだ、ヴィクター」

「……心配なものは、心配なのだ」

 不満げにつぶやきながらも、ヴィクターはエリアスの腰に腕を回し、その肩口に顔をうずめる。夜になれば、甘えるようにエリアスの腕の中を求め、その温もりがないと眠れないとまで言うようになった。

 エリアスは、そんな子供のような独占欲を見せるヴィクターを、心の底から愛おしいと思っていた。彼は、村人たちのために作る様々なポーションとは別に、ヴィクターのためだけに作る特別なポーションを毎日精製している。

 それは、エリアスのヴィクターへの深い「愛情」を、たっぷりと込めたものだった。それを飲むのが、ヴィクターの毎朝の日課になっている。

「今日のポーションは、蜂蜜の味がする」

「ふふ、昨日の夜、君がとても甘かったからかな」

 そんな他愛ないことで笑い合う。

 かつて「氷の騎士」と畏れられた男の姿は、そこにはない。ただ、愛する人の前でだけ心を許し、甘える一人の男がいるだけだ。

 庭で育てた薬草を二人で摘み、昼食の相談をし、時にはヴィクターがエリアスの研究を手伝う。その穏やかで何気ない日常の全てが、二人にとってはかけがえのない宝物だった。

 それは、かつて「無能」と追放された錬金術師と、「氷の騎士」と呼ばれた男が、二人で手に入れた、温かい陽だまりのような幸せの形。

 これからも二人はこの場所で、互いを慈しみ、愛し合いながら、甘く穏やかな日々を錬成していくのだろう。永遠に。

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追放された無能錬金術師ですが、感情ポーションで氷の騎士様に拾われ、執着されています 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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